ひかりの歌

初めて、ミニシアターへ行った。
「ひかりの歌」という映画を見るためだ。

反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった
自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいていた
始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち
100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る

「光」をテーマにした短歌コンテストで選ばれた、この4首の短歌を原作とした、4つの物語からなる長編映画。
そのコンセプトを見た時点でとても惹かれて、思わず吉祥寺のミニシアターへ足を運んだ。上映期間は1週間しかなかったのだけど、たまたま予定が合って、見ることができた。

結論から言うと、とても良かった。
自分がこれまで、映画ってこういうものだ、みたいに思っていたものとは全然違っていて、すごく好きだ。

映画というのは、一般にはエンターテイメントだと思うのだけど、この「ひかりの歌」という映画は、明らかに、いわゆるエンターテイメントではない。
劇的なイベントは起きず、ストーリーが明瞭に語られることもない。登場人物たちの日常をそばで見守っているような気持ちになる、そんな映画だ。

全ての物語は、一首の短歌に帰結する。
この短歌はそういう意味だったのか、この短歌の意味を伝えるためにこの物語を書いたのか、という驚き。
しかし、確かに、見終わってから短歌を改めて読むと、その31文字はあの30分の物語の世界観を見事に内包している。
短歌も、映画も、本当に素晴らしい。あまりにも良いと思ったので、こうして記事にした。


この世界には色々な人が居て、
一心不乱に何かに全力を傾け、激動の人生を送ることに幸せを感じる人もいれば、
大きくは変化しない日々を過ごしながらも、日常の機微に幸せを見出す人もいる。
この映画に描かれているのは、後者のような人の生きる姿なのではないだろうか。
この映画を作ったのは、後者のような人たちではないだろうか。
なんとなく、そんな気がするのだ。

中学生の時に書いた卒業文集を思い出す。
卒業文集と言えば、中学校生活を振り返って、というお題で、原稿用紙1枚分くらいの文章を書かされる、あれだ。
印象に残った出来事のことを書く人が多くて、みんな部活の最後の大会だったり、修学旅行だったりをトピックにしていたのけれど、
僕は、昼休みに友達と集まって遊んだこととか、放課後に図書館で半分以上が雑談の勉強会をしたこととか、
そういう、何気ない日常が一番印象に残っている、ということを書いた。


僕の考え方は、この時から全く変わっていなくて、
特別なイベントも良いけれど、何気ない日常をいかに楽しく過ごすかを、大切にしたいと思っている。

そんなことを思いながら、登場人物たちと過ごした2時間と少しの時間、僕は確かに幸せだった。


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