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海外MBAに絶対に行くべきではない隠された理由を人材マーケット構造から読み解く

今日はMBA取得を目指して海外大学院への出願を検討されている方向けに書いていきます。ちなみに、この記事は複数の米国トップスクールMBAホルダーで執筆したものです。
日本の偏差値教育・受験競争の延長線上にMBAを何となく考えてしまう人が本当に数えきれないほど見られますが、私たちが留学前後に見た現実を共有することで、不要な(それどころかマイナスな)MBA留学に人生の貴重な時間と多額の金銭を浪費する一人でも減らせたならうれしいです。

語られない「3つの人材Tier」

多くのMBA合格者&在学生がMBAの魅力を口にしますが、実際のJob Marketでは大半の場合においてほぼ無意味というのが実情なんです。この背景には、あまり大っぴらに語られることのない、Job Market・人材のTier構造があり、それをこれから述べていきます。
まず、大まかに分けて人材のTierには下記3つがあるかと思われます(戦略コンサルティングファーム、投資ファンドなどを想定して書いています)。

  • Tier 1: MBAなんて持っていなくても実績だけで戦える層

  • Tier 2: Tier 1とTier 3の中間層

  • Tier 3: 実績が無い/そもそもResumeが汚い(不安要素がある)層

順に下記していきます。

Tier 1: MBAなんて持っていなくても実績だけで戦える層

新卒入社先(業界トップ2程度)の内定者時代から「同期のエース」果ては「数年に一度の逸材」といった前評判が立つような人材です。このレベルの人材の目安は採用担当が「配属に要留意」(上司とプロジェクトが優秀でなければすぐ辞める&辞められたら困る)といった特別な配慮を人事に求めることでしょうか。
この層はプロフェッショナルキャリアのスタート時点から良循環に入っていきます。元々がとてつもなく優秀な上に、いい上司のもとでいいプロジェクトで成長でき、順調にpromoteしていきます。この結果、2年前後でマネージャー相当に昇進し(同期最速はもちろん史上最年少もあり得る)、さらに1-2年働いてマネジメント経験をResumeに加えたのち、PEファンドやヘッジファンドに当然のように転職していきます(稀に起業で成功しますが、そもそも元McKや元GSであっても起業では死屍累々です。必要スキルがまるで異なるためで、優劣ではなく適性の問題です)。
このTier 1人材は、どこでも何をしても通用します。閾値を超えており、Resumeを見るだけでこれが即座に伝わるため、わざわざMBAなんかに行く必要がありません。
事実、この層の人材はMBAを金と時間の無駄だと見切っており、「なんで留学しないの?」と聞けば、ほぼ例外なく「出せば普通に受かるだろうけど行く意味がないから」「海外で働きたいなら現地就職するかtransferすればいいだけじゃん。なんでわざわざ今更テスト受けてエッセイ書くの?」「てか留学することの損失って生涯賃金を得られる期間を2年とか減らすんでしょ?50-60代の逸失利益を考えたら普通に数億の損失じゃない?」と即答してくれます。学歴コンプレックスや海外コンプレックスがまるでない清々しさは、鼻に付くどころか魅力的でさえあります。

Tier 3: 実績が無い/そもそもResumeが汚い(不安要素がある)層

Tier 2をTier1と3の間としたので、まずはTier 3について書きたいと思います。
この層は大学受験、新卒就活、その後の転職で、「なぜか」「ずっと」不本意な結果に終始してきた、つまり失敗してきた人たちです。
しかしながら、失敗が悪いわけではないのですが、残酷な事実として、本当に能力か気概かポテンシャルがあればこの3つで連続で日の目を見ないような事態はほぼ生じないものと考えるべきでしょう。目を覚ましましょう。平均より多少上振れしただけの凡人であることを受け入れるのは誰しも困難を伴うものかと思います。
第一志望の大学に落ち、就活では業界の3番手以下(1番手、2番手とは歴然たる差があることが大半ですが、総合商社のように三つ巴を様する業界もあります)しか通らず、そこでズバ抜けた成果を出せたならまだしもそれもなく、転職しているにしても会社/業界のTierが上がらなかった、そんな層です。
言ってしまえば、公務員からDX土方ばかりの自称コンサル(上流の戦略は見れない作業屋さん)や、SNSで就職先に「外資系金融」と標榜している保険の営業マンの類です。後者は早慶の体育会で全国制覇したような人材が入社数年で年収3-4000万に到達したりする夢のある世界でもあるのですが。
大前提として、この層は海外MBA受験をしても、大きな嘘を吐かない限りはトップスクールには受かりません(まず、受かるファクターがありません)。ただ実際は英語が堪能だったり全国上位の部活動等の実績があったりすればこの層に入ることはそこまで多くなく、大半はTier 2に該当するので、Tier 3というのはそもそも海外留学という選択肢を有さない人が多いと思います。ゆえにこの記事の主な想定読者ではありません。国内MBAについては末尾で少しだけ触れました。

Tier 2: Tier 1とTier 3の中間層

この記事の主な想定読者はこの層です。英語があまり話せないトップ戦略コンサルティングファーム勤務者や、米系投資銀行の非IBD人材のイメージが近いかと思われます。
この人たちは世間的には間違いなく優秀なのですが、内定者時代からTier 1との厳然たる差を日々見せつけられています。シニアマネージャーやアソシエイトパートナー相当になれば(天才や奇才ではないにせよ)秀才としての力を発揮できるのですが、新卒から数年で日の目を見るとは限りません。同期内で平均以下ではなさそうだけど尖った強みもなく、いい上司やいいプロジェクトに引っ張られることも相対的には少ない層です。
この層こそが海外MBAの餌食にされるメインターゲットです。ハーバードやスタンフォードでMBAを取れば自分もTier 1に入れると信じている節があります。
しかしながら、残念ながらそういうことは今後の人生で生じにくいと割り切る方がコスパがいいように思われる場合を相当見かけます。上記したようにいわば天才や奇才ではなく秀才なので、新人のマネジメントや凡人のクライアント対応の比重が高まるシニアマネージャーやアソシエイトパートナー相当になれば活躍の機会が増えます。
しかしながら、PEファンドやヘッジファンド、ベンチャーのCXOとなると、まず全く通用しません。この業界で活躍する人材は、まさにTier 1で書いたように、学部生どころか高校生からズバ抜けている人が大半です。強い原体験を有する田舎の中卒ヤンキーにも到底勝てません。
これはMBAそのものが悪いという因果関係には無いのですが、少なくともMBA取得によってこのギャップが埋まることはあり得ません。海外大学院への留学ごときでこのギャップが埋まると信じているのは日本の受験産業に毒されている病理でしかありません。頑張れば大谷翔平になれるなんてことはあり得ないですし、この業界は野球愛好家より母数が数百倍いる世界です。にも関わらず、SNSに流布するMBA受験生(卒業生ですらない)のドヤ投稿に騙されて、受験産業のカモにされがちです。

ごく稀に見る例外について

話が及んだついでに書いておくと、稀にMBAを経てバイサイドやベンチャー創業者/CXOに華麗に転身できる人もいますが、これは大まかには、
①元々Tier 1人材相当だった(例外的に、不幸にも会社/産業とunmatchだっただけ)
②ただ運良く転職できた(どうせ次のキャリアはない)
という場合が大半のように見られます。
バイサイドもベンチャー創業者/CXOも、地頭スペック+体育会的泥臭さ+人柄で成否が決まる世界であり、MBAの有無やMBAで学ぶ内容とはほぼ無関係です。せいぜいResume Screening時にRecruiterが抱く「なんで日系メーカーからバイサイドに??」という疑問を多少緩和させる程度の効果しかありません(筆者陣の中で採用や創業を担当したことのある者たちの共通見解でした)。

終わりに

ということで、海外MBA進学なんてものは本当にやめておきましょう。SNSでドヤ顔する在学生の投稿をよく見ると、その内容の大半がMBA出願時のエピソードに終始しており、性質的には高校3年生が3月に書くお受験体験記と大差ありません(これを「自己分析の重要性」とか適当なタイトルでお化粧しているだけです、騙されないでください)。
海外MBA在学生をJob Market視点でフラットに見たときに、⚫︎⚫︎大学だとか⚫︎⚫︎奨学生だとかいった肩書き以外の中身が見えてきますでしょうか。米国で20代後半の成功者と言えば創業者としてバイアウトを数社経験していたりIvy上位校のテニュア獲得済だったりヘッジファンドで年収50万ドルといったレベルです。こういう人材が教える側や教えに来る側にいる世界に身を置いておきながら⚫︎⚫︎大学だとか⚫︎⚫︎奨学生だと胸を張れる時点で程度が知れるのではないでしょうか。人のお話を聞いて何者かになったかのような錯覚に陥り、日本国内の低リテラシー層にこれを垂れ流して悦に浸るなんて、左ききのエレンの主人公みたいです。
敢えて海外MBAに行くメリットを挙げようとすれば、上で書いたように、本当はTier 1人材なんだけど何かの理由でTier 2に収まってしまっている(と同期からも上司からも日々繰り返し言われるような)人材が、Tier 1に何とか入りたい場合ぐらいです。ちなみにこの場合のおすすめは、英語ネイティブではない前提なのですが、外資PE日本支社のポテンシャル採用枠でアソから始めるということになるかと思います。このぐらい受からなければお話になりませんので、海外MBA受験を決意する前に国内のヘッドハンターに話を聞いてみて、「海外MBAを取れば道は開けそう」みたいな感触(つまり基礎スペックでTier 1の可能性あり。MBAの要否は二の次です)であれば、ここで初めて選択肢に入れてもいいでしょう。あとは結婚したい場合はパートナー探しでしょうか。でも忘れないでください、今のインフレと為替だと学費と生活費で単身でも年間2,000万円弱いはかかりますし、上で書いたように生涯賃金max時点の2年分を捨てるという意思決定です。
さて、本当に最後に一言。Tier 2人材の皆さん、国内MBAは絶対にやめておきましょう。同期や友人は口に出さないと思いますが、Tier 1の人材や採用担当者は、国内MBAに学費と時間を注ぎ込んでいる時点でリテラシーの低さとキャリア設計の甘さをお察してくれますので。。。(唯一、一橋のファイナンス課程あたりは例外でしょうか。)

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