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「君たちはどう生きるか」は冒険活劇とは言えない…私見で正直な感想。単独出資の宮﨑駿 自主映画。

宮﨑駿作品は、好きだ。大好きだ。長い間、観てきた。前作「風立ちぬ」が引退作品と標榜されていたが、新作が出るという。1942年生まれ82歳の宮﨑駿の新作ともなれば、大いに刺激を受け、力をもらえるのでは?と思った。事前インタビューで鈴木敏夫Pが「冒険活劇ファンタジー」という表現をしていたから。

同年代のボブ・ディランが今年4月にやったコンサートで、長いキャリアでも最高のステージをみせてくれた。ROUGH &ROWDY WAYSという2020年のアルバム楽曲のほぼ全てと、それに合わせた選曲で有名な♬風に吹かれて、♬ライカ・ローリングストーン、♬フォーエバー・ヤングなどは一切無し!のセットリストだ。ヒット曲も入れて構成し、手堅く網を張ったりせず、新人もやらないような独自の切り口で、今も世界を演奏して回っている。それに深い感銘を受けたボクや、数々の観客たちは、ディランの歌と演奏に計り知れぬパワーと至福の時間をもらったのだ。漫画家の浦沢直樹、ピーター・バラカン、菅野ヘッケル、みうらじゅん、数々の方々もそう証言している。

「君たちはどう生きる」の事前情報はチラシの鳥の写真以外、一切無かったこともあり、情報ゼロで臨もうと思い、初日の午前中に映画館で観た。満席で初日独特の緊張感を感じる。子供連れの客も含め、老若男女問わず、幅広い世代が同じ空間にいる。期待は、高まるばかりだ。

2023/7/14 初日

サイレンの音から始まった。第二次世界大戦、東京空襲だ。作画、の素晴らしさに圧倒された。牧眞人(山時聡真 さんときそうま)の母、ヒミが入院している病院が燃えていると聞き、慌てて着替える様子。枕元に丁寧に畳んである服に着替える様子の滑らかで丁寧な動き、家事の中、逃げ惑う人々と逆行し、走り抜ける様子、火事の表現など、さすがスタジオジブリが6年かけただけのことはある、と舌を巻いた。

母を亡くした眞人は、父(木村拓哉)に連れられ、田舎へいく。田舎の駅で母とそっくりな美しい女性、ナツコを紹介され、父は仕事場(軍需工場)へ、眞人はナツコと共にこれから暮らす家(豪邸)に向かう。その車中で、ナツコは眞人の手を取り自分のお腹にあてがい「ここにあなたの兄弟がいるの。あなたの弟か妹になるのよ。私は嬉しいの」と言う。眞人はその間、ひと言も喋らない。口なんかききたくないはず。

後に分かるのだがナツコは母ヒミの妹なのだ。当時は珍しいことではなかったとはいえ、父は配偶者ヒミの妹ナツコを結婚前に孕ませ、後妻に迎えるのだ。幼い眞人にとっても、現代の僕たち客にとっても、気持ちの良いものではない。勿論、人間の愛情には様々なカタチがあるので、気にならない方々もいるとは思いますが、ボクは正直、露悪的な設定にモヤモヤしました。

ナツコが、大きな家を案内するのだが、女中として七人の老婆が出てきた。それぞれキャラクターが分かれていて描きこんであるのだけれど、姿かたちがどうにも醜い。せいぜい三頭身で、デカい顔、歪んだ皮膚で基本デブっている。ディズニー白雪姫、七人の小人へのオマージュなのかもしれないが、若い女性や子供は可愛く凛と描くのに、老婆は醜く描く意図が分からなかった。湯婆々が同窓会をしているような異様な空間だ。外廊下を、身体のバランスが極端に異なる、ナツコ、眞人と七人の老婆が一列に歩く場面は、アニメーション的な笑いのためのカットのようだったけれど、満席の劇場は、シーンと静まり返り、クスリとも笑いは起きなかった。これは、自分が観た回がたまたまそうだったのかもしれないが、明らかに滑っていたし、場内は困惑しているような空気が漂っていた。監督の性癖のようだが、21世紀の今、この差別的表現ってアリなのか?笑えもしないしユーモラスにも感じないのは致命的かもしれない。

この後は、箇条書きにて。

◎眞人が、転校先の生徒たちとケンカした帰りに石ころで自分の頭をどついて、血がドバっと出る自傷行為、いじめた奴らに罪をかぶせようとする眞人の悪意?みたいな行為、親の気を引くためだとしても本当に必要だったか?◎魚さばいて、ウソだろ?って量の内臓がドバーッと出てくる場面、アオサギの魚の捕食シーン、羽のない矢が力尽きて落ちたりなどの動きなどアニメ的な面白い動き。劇場で、滑ってました。
◎アオサギ(菅田将暉)の中から出てくる気持ち悪いおっさんや、ペリカンやインコのクリーチャーみたいなキャラ、ボクは苦手でした。
◎絶望的な世界でも、もどって友だちと世界を作るんだという眞人の想いやこめられている意味やテーマ?など、分かる気もするが響かなかった。
◎久石譲メロディーが、今回はほぼ記憶に残らなかった。
◎冒険活劇ファンタジーという言い方で、脳内妄想に共感できない。
◎エンドロールに出てきた声優陣が、ほぼ有名な俳優、タレント、歌手までいてビックリした。キムタクは分かったけど、有名俳優の方々は映画の話題性も狙いブッキングしたのでは?滝沢カレン?意味が分かりませんでした。単に駿が好きだったのかも。自分のためだけに作った映画ってことは明確。
◎配役も書いてないのはどういう意図だったのか?
牧眞人/山時聡真、その父/木村拓哉、アオサギ/菅田将暉、キリコ/柴咲コウ、ヒミ(少女)/あいみょん、ナツコ/木村佳乃、王様/國村準、大叔父/日野正平、小林薫、大竹しのぶ、滝沢カレン、阿川佐和子…
◎異世界のドタバタが始まるまで60分というのは流石に長すぎたと思いました。事前情報が何もないので、単調で緩やかなストーリーなので忍耐が必要でした。ここを乗り越えたらきっとワクワクするような、空に舞い上がるような冒険活劇ファンタジーが始まるんだ!とジーッと待っていました。しかし、マルチバース版不思議の国のアリス?的な、目的が明確じゃない、つまりどう見ればいいのかよく分からず中盤からの方が忍耐を要しました。絵や設定は凄まじいのに楽しめないという不思議な現象に。
◎PRしなかったのは、作戦?エンドロールに、予告編編集、宣伝担当の名前があった。当初はPRする予定だったが、内容が事前に分かると逆効果と判断したのだろう。ボクは、この内容なら絶対に見に行かなかった。PR費をなくせば、損益分岐点も下がる一石二鳥だったからだろう。
◎弓矢を作っている最中、偶然、母からの贈り物「君たちはどう生きるか」が出てくるくだり、良かったです。

NEWS

テレビ局のニュースをみて驚いた。仕事を休んで見に来た人と涙を流しながら「見せてもらえたのは光栄だなというか幸福だなと思いました」と喋る若者2人をフィーチャー。ボクの周りには彼らのようなリアクションの人は見当たらなかったからだ。耳にした言葉は、、、何だったの?よく分からなかったね。長かったよね。寝ちゃった。テンポ悪くない?鳥、出すぎだよ。あいみょんの意味なくね?キムタクすぐ分かったよね。なんで米津玄師?、、というものだったからだ。記者は自分で映画も観ず、反対意見の人は使わず「感動押し」でニュースをまとめたように思えた。

単独出資

後で知った発言だが、この「君たちはどういきるのか」は現在デフォルトの製作委員会方式(ボクは好きではないけれど)ではなく、ジブリ単独出資で宮﨑駿の自主製作映画を作る、というものだ。愕然とした。事前の宣伝費を極限まで切り詰めて、事前の情報は「アオサギの絵一枚ぽっきり」でインタビューで鈴木敏夫プロデューサーが言った「冒険活劇ファンタジー」というワードくらいだったけれど、この「ジブリ単独出資で宮﨑駿の自主製作映画」って事前に知りたかった。「冒険活劇ファンタジー」ってワードも意図的に使った気がするし、木村拓哉とジブリのInstagramでの匂わせあいも、この映画をみた後で思い出すと「騙された」感が強い。客を劇場でみさせてなんぼの映画興行なので、まいいか、と。

初日の興行収入が4億7千万円で新海誠監督の「すずめの戸締り」4億9千万円に次ぐ結果だったことを思えば、まんまと成功したってことでしょう。宮﨑駿作品には好きなものが多いが、信者ではないボクは、断然「すずめの戸締り」の方がずっと楽しめたし満足もいった。

更に正直な気持ちを言うと、実はまだ観ていないSLUM DUNKをみたい、と思っている。皮肉ではなく、初日に宮﨑駿作品を観に行くほどに期待していました~当然楽しもうと思って、前売り券を買ってワクワクしながら観た結果、上記のように感じてしまったわけです。

宮﨑駿さんへ

宮﨑駿監督、これで終わりにせず、もう一作は作ってください。年寄りにモノ作りは無理だなんてボクは思っていません。最初に書いたボブ・ディランもそうですが、ポール・マッカートニーも現役でアルバムを作りながら世界ツアーもやっています。いまだに素晴らしい新曲を書いています。

あなたの生き様をどれだけ沢山の日本人や海外のファンたちがみているか分かっていますよね?今作で、宮﨑駿グレーテストヒッツよろしく過去作要素を盛り込みましたし、ディズニーオマージュ的なことも含め、やり倒しましたよね?アート映画がやれて本望でしょう?俺のことを分かっている奴らだけに届けばいいんだ、などと不埒なことを考えているとしても、考えるだけにしてください。今回は、ジブリの単独出資で自主映画を作ったとのアプローチでしたが、次回作は誰もが心底楽しめる映画を作ってください。今後自分がやりたいことだけやりたいようにやるのは金輪際禁止!と言ったところで宮﨑駿はやりたいことしかやらないでしょうが。最後に、

最新の宮﨑駿が最高の宮﨑駿たれ、あなたにはその責任があると思う。

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