【2022年振り返り】最高の温泉宿・湯治宿10選
館主 「ヨシタカさん、本当に申し訳ございません。4月から200円値上げになってしまうんです。ギリギリのところでやっていて・・・」
私 「そんな、謝らないでくださいよ。物価がこれだけ上昇しているのに、旅館だけ値上げしないなんておかしい。浮気はしません、また必ず来ますから」
今年の世情を象徴するような一コマでした。大好きな温湯の宿での出来事です。御主人の申し訳なさそうな顔が忘れられません。
はじめに
持病の快癒、そして世の泰平を願い過ごしました2022年。
残念ながらその祈念も雲散霧消に終わりそうです。原因不明の痛みは取り切れず、そして経験したことのない世の混沌に見舞われた一年でした。
真贋の見えぬ情報は錯綜し、痛みと不安に懊悩する日々。
そんな中、そっと心身を癒してくれたのは温泉でした。私が通う湯治の御宿、そこは仁愛に溢れ、良質な源泉がかけ流し。安価で、良い意味でほったらかし。
本編でご紹介している10軒は、素泊り3千円~6千円台、2食付でも上限は8千円台です。建物は古くても綺麗に手入れがされています。豪華な食事もスタッフの厚遇も求めません。
草稿の段階ではランキング形式にしようかと思いましたが、女将さんや主人のお顔が浮かぶと、とても順位を付けることは出来ませんでした。
どの宿が一番良いかの議論ほど不毛なことはありません。
好きな湯、居心地の良い空間、経営者との相性、答えは人それぞれ。全ての御宿が素晴らしいと言い切れます。
湯治の宿なので、アメニティ類は持ち込み、鍵が掛からない、仕切りが襖などの宿もありますので御含みおき下さいませ。豪華絢爛なホテルや旅館をお求めであれば、他の記事をご参照下さい。
ここにあるのは、山紫水明の豊かな自然と美しい空気。実家に戻ったような温かきご家族の歓待。そして、素朴な内湯に滾々と落ちる源泉のみ・・・
師走も暮れ、今宵も慈愛と義憤の泪を飲み、綴りましょうあなたを想い。届いてほしい感謝の気持ち、、月並みですが、言わせて下さい。
「頑張れ、湯治の御宿!!」
①下風呂温泉 まるほん旅館(青森)
本州最北端の海辺の温泉地下風呂。昨年夏に豪雨被害に遭い、街が孤立し全ての御宿が休館に追い込まれました。5年振り、今年4月に積年の願いが叶い再訪となりました。
まるほん旅館は小さい内湯が一つ、白濁の硫黄泉が体内外からガツンと効いてきます。歴史のある御宿ですが、館内は驚くほど清潔です。
湯の成分の強さ故、電化製品や車の劣化も傷みが早いと女将さん。
被災しても尚、通年素泊り4,400円、2食付8,800円。魚が旨いです。ただただ頭が下がる思いです。遠かった、でも行ってよかった。
➁肘折温泉 西本屋旅館(山形)
日本一の豪雪地帯。街の人は粉骨砕身、来る日も来る日も雪降し。観光客、湯治客を温かき源泉と共に迎えます。
所狭しと林立する旅館群。多くの宿に湯治プランがあります。山菜や漬物、川魚がメインの軽い食事。地物のお米と野菜の美味しさが際立ちます。鶯色の源泉で汗と疲れを流せば、身も心も軽くなるようです。
西本屋旅館は金魚が泳ぐお風呂が名物。湯治プラン2食付5,800円、見事としか言いようがありません。
③鳴子温泉郷 川渡温泉 高東旅館(宮城)
この御宿については本編では多くは語りません。私のナンバーワン宿、最高の湯治宿。御主人、あなたを先生と呼ばせて下さい。いつの日か『親父』って。
ここで出会った仲間たち、別れて終わりではありません。多くの方が友人となり、またこの地で再会します。こんな宿、他には知りません。
毎月20日は太極拳の稽古があります。優しい先生の指導を受けられます。一緒に参加しませんか?
④板室温泉 あったか~い宿 勝風館(栃木)
無色透明、温湯でありながら見事なパワー。不思議です。
慢性疼痛の湯治客、2日目になると身体の節々が痛みます。湯治客は「炙る」と言ったりします。3日目になると徐々に痛みが引き、翌日にはすっかり取れて来た時よりも元気に。
山の物がメインのバランスの取れたお食事、連泊すると7千円台(1名は1,100円増)まで価格が下がります。常連の湯治客が支えるこちらの宿。経営者ご家族のお人柄にも惹かれることでしょう。
⑤湯宿温泉 金田屋旅館(群馬)
もう何度行ったかこちらの御宿。母を連れ、祖母を連れ、、何回行っても同じ、でもそれでいいのです。いつまでも変わらないでいて欲しいのです。
石膏臭の湯に浸かり、赤谷川沿いをリハビリ散歩。
裏通りに入れば寂寥感漂う石畳。何故か心が癒されます。世界中を旅した碩学な御主人との会話も楽しみに。夜はすぐ隣のやまいち屋さんでお蕎麦をいただきます。
こちらも不思議、2~3日で身体の痛みは驚くほど抜けます。
⑥増富温泉 三英荘(山梨)
ここは生半可な気持ちでは行けません。泉温22度、内湯と上がり湯があるのみ、源泉との真剣勝負です。一番効く湯、私は「増富三英荘」と答えます。ですが流石に夏しか行きません。
85歳の女将さんと3歳のシーズー、3人での共同生活。私は1週間の滞在。去り際に何故か涙が、、こちらは朝食のみ出してくれます。女将さん自家製の漬物も味噌汁も美味しく、滞在中同じメニューは出て来ません。
⑦沓掛温泉 叶屋旅館(長野)
「ヨシタカさん、体調はいかがですか?」
「御主人は、大丈夫ですか?」
難病を乗り越えたオーナー。苦難を乗り越えたからこその、温雅なお人柄なのかもしれません。現在は買い取った古い宿をハンドメイドでせっせとリノベーション。年々進化を続ける宿です。
人肌程度の温湯は疲れ知らず、夏場は夜通し浸かる人もいるとか。食事は隣の食堂「千楽」で。「人」「湯」「食」、どこを取っても減点要素がありません。何度行ってもまた行きたくなる、善き御宿です。
⑧五十沢温泉 ゆもとかん旧館(新潟)
「女将さん、来週土曜から行けますか?」
「もちろんよ」
女将さんのスマホに直で電話です。馴染みの宿が某キャンペーンで全て満室でも、ここは必ず空いています。他の客と鉢合わせることもありません。
ご紹介している10軒の中でも最もヘビーかもしれまん、一泊3千円台の宿。建物の古さと内鍵がない等、不便さに戸惑うことと思われます。しかし慣れてしまえば居心地が良く、いつまでも離れたくない宿。
卵臭の源泉を存分に味わいます。
⑨出湯温泉 珍生館(新潟)
出湯温泉には何度も行っていたはずでした。ですがここだけは見落としていました。
今年最も驚い湯は珍生館の湯。出湯温泉街には宿が数件、共同浴場が2軒。どれも源泉は違います。私の入った感想に過ぎませんが、珍生館1階の浴槽が本気を出した時は、桁違いのパワーを発揮します。
36度ですが、湯に浸かっていると頭皮から滝のように汗が出てきます。条件が揃わないとその瞬間は訪れません。真夏で、他の客が誰もいない時・・・
⑩伊豆横川温泉 千代田屋旅館(静岡)
南伊豆に、こんなに小さな自炊の宿があるとは意外でした。
下田市の横川地区、丘陵の麓にある千代田屋旅館。3泊以上~ですが、離れにある自炊棟を利用できます(要相談)。
伊豆と言えば生わさび、勿論下田の海の物も。御宿で「にこまる」という特A評価受賞した米も育てています。今年最も自炊が楽しかった宿はここでした。美味しいものを食べたい分だけ。
湯は貸切の内湯が2つ。下田温泉㈱が管理する混合泉がかけ流しです。ネコとヤギがおり、動物との触れ合いも楽しみながらの滞在です。
おわりに
以上10選でした。ご紹介している宿全てに「露天風呂」という物がありません。風呂は掃除も大変です、源泉も限りなく出てくる訳ではありません。鮮度の良い湯を大切に扱う、湯治の御宿だからこそ当然の結果かも知れません。
塵界の戯言は知る由もなく、いで湯は温かく、今日も滾々と湧き出ます。来年もまた温泉ファンを、そして湯治客を癒し続けてくれるでしょう。
尽きることない漂白への憧憬、今日もまた・・・
お世話になったフォロワーの皆さま、現地でお会いした皆さま、本年は大変お世話になりました。本編を年末の挨拶と代えさせていただきます。
2023年も宜しくお願い致します。
令和4年12月28日 とある湯治宿にて
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