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難病営業マンの温泉治療⑯【花巻市鉛温泉】

<前回はこちら>

 全身の中でも背中に次いで痛むのは左膝。既に大学病院のリウマチ科においても湾曲が認められ、適度な運動をするよう医師より指摘を受けている。長年痛みを庇い続けたために可動域に障害が出てしまったようだ。

 だがその運動すらできないのだから救えない。20代後半には痛みから走ることができなくなり、ウォーキングも時間に比して疲れや痛みが残る。少しでも無理をしようものなら下半身が熱を持ち睡眠に影響が出てしまう。

 そんな身体にあって温泉浴は全身に満遍なく負荷がかかり、運動効果がある上に膝への負担が少ない。そして適温の湯(40~42度)に10分入浴することで同じく10分間のウォーキングに匹敵するカロリーを消費するという。私にとっては温泉は渡りに船の存在なのだ。

 その風呂がより広く、深く、立ち湯や歩行浴などが出来れば、まさに竜に翼を得たる如しーーー

  八幡平方面から南下し、2週間振りに戻ってきた花巻市。
 激うまニラらーめんを食べるために戻ってきた訳ではない。(※③登場)

 花巻南温泉郷は高速ICからも近く、街中へもすぐに出れるアクセスの良さ。何より、ここには日本一の湯が存在する。

 【鉛温泉 藤三旅館】

 往路で3泊投宿した大沢温泉から車で北へ5分。帰趣漂う総けやきの母屋は、ドラマや映画の撮影でも使用されており、見覚えのある方もいるかもしれない。「新日本百名湯」、「日本温泉遺産」などが戴冠されるのも納得の良宿だ。

 こちらの名物は「白猿の湯」。約600年前、猿がこの湯で傷を治す姿から発見されたという開湯伝説が名前の由来となっている。

 こちらが日本一たる所以、それは「深さ」。なんとその水深125㎝。小学3年生がスッポリ頭まで浸かってしまうほどだ。人工的にはいくらでも作れるのだろうが、こちらは天然自噴泉。しかも足元湧出だ。
 泉質はアルカリ性単純泉。酸性硫黄泉の連湯で疲れ気味の肌を休めるべく、刺激の少ない湯を求め2泊で拝湯することにしたのだ。

 こちらも観光客向けの旅館部と療養目的の湯治部に分かれており、もちろん後者にて。昭和16年築の木造建築は人が歩けばギシギシを音を立てるが、これも旅趣をかき立てるということで。。
 
 素泊まり3,300円と本旅の中でも安価な部類だ。湯治場らしく、備品類やアメニティは追加料金が発生する。湯治の七つ道具は携行しているが、ここで湯治史上初の体験をする。それは、冷蔵庫のレンタルだ(一泊につき350円)。チェックイン時にお願いすると、瞬時にそれが運ばれて来たのには驚いた。

 案内された部屋はファミリー泊でも狭さを感じないほどの広さだった。4畳半を想像していただけにこれは有難い。狭間も嫌いではないが、湯治の際はストレッチポールとヨガマットを持ち込む。
 夜10時に湯に浸かり、身体がほぐれた後にストレッチに20分程時間をかける。4畳半では伸ばした手足が机や壁に当たり、全身が伸び切らないことがあったのだ。

 建物自体は年季が入っているものの、清掃は行き届いていた。そして久々に見た液晶の薄型テレビ。隣の大沢温泉で目にして以来2週間振りだ。鶯宿温泉はブラウン管、玉川温泉と後生掛温泉には部屋にテレビはなかった。

 現在でも秘湯に行くとブラウン管のテレビを見かけることがある。これは実は宿側の都合で節約しているわけではない。孫引きの情報だが、硫化水素ガス(所謂硫黄っぽいやつ)を含む気体は、デジタル家電を傷め、ウォシュレットや薄型テレビをすぐに壊してしまうそうだ。
 後生掛温泉自炊部の一部の寮ではWi-Fiのルーターが度々壊れ、もう設置を諦めてしまったそうな。

 夕刻になり源泉へ。無色透明、足元湧出の源泉の湯触りは素晴らしく、表層に新しいベールが膜を作るようだ。例によって1日4度の拝湯(初日は2度)を続けた。
 刺激泉の連湯に耐えてきた肌は、スポンジの如く水分を吸収。宿を出ることには33の歳にして人生最高の美肌を手に入れた。

 湯巡りの基本は強い湯から優しい湯へ。内側から効かせて体内の老廃物を流し、徐々に軟湯で外側を効かせる。何れにせよかなか一泊や二泊で効果を実感するのは至難の業。
 働き方が多様化する昨今において、リフレッシュ、美肌追及のための温泉浴。業種に寄るだろうが、こんな時代だからこそ試すことができるかもしれない。今後もワーケーションでの気付きには敏感でいたいと思う。


 楕円形の浴槽はさほどデカくはないが、リハビリの歩行浴には十分の広さ。一周20秒足らずだが、肩下までの深さの浴槽を動くにはなかなかの負荷がかかる。湯圧は高きから低きへ、下半身に向け血行が促進され、血液循環が活発になっていることに気付く。
 退湯後はドッと疲れが出るものの身体は夜を迎えてもポカポカ温まったままだ。左膝の痛みも少しずつ緩和されてきた。

 【湯治7日一回り3回を要す】

 先人達の金言を身をもって窺知する。

湯治生活も残りもあと10日、3週間過ごした北奥羽ともこれでお別れ。
次浴より画竜点睛のフェーズに入る。向かったのは湯治のメッカ、チャンピオン、怪物・・・5度目の訪湯、鳴子温泉へ。

 いざ行かん。

                         令和3年5月16日

〈次回はこちら〉



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