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立冬の信越、源泉と美食を味わう⑩ 完結!【ラストダイブは温湯で】

<前回はこちら>

館主 「体調いかがですか?」
私  「ええ、何とか」

 
 こちらのご主人。開口一番私の身体の心配をしてくれる。ある意味、主治医以上よりも客観的に、私の回復振りを見ている方かもしれない。

  信越4泊旅。私がラストダイブの地に決めていたのは、今年最もお世話になった宿「沓掛温泉 叶屋旅館」。
連休に旅に出ると決めてから、一番最初に押さえたのもこの宿だった。最後はどうしてもここが良かった。
 
 ちょうど一年前、ベッドからピクリとも動くことが出来ず、遂に10年以上我慢し続けていた慢性疼痛が限界に。疫病の急拡大第三波の中、逼迫状態の大学病院に運ばれた。

 職務から離れ、入院転院を繰り返すもさしたる原因は容易には見つからず。転院の末診断された「線維筋痛症」。元々治療法が明確になっていないこの病。
 様々な薬理療法を試すも、激痛は治るどころか副作用に苦しめられる結果に。元々低い白血球に加え、免疫系の異常値も確認される。出社は禁じられた。

 首の皮一枚繋がった状態で雇用は保たれ、テレワークという体裁を取っていた。だが、激痛で指が動かずキーボードも打てない。会社の上司の温情でワーケーションが容認され、私は湯治に出ることに決めた。

 転院先の大学病院。主治医より温泉療法が推奨され、実際に私の体には一定の効果があった。白血球の向上や免疫系の血液異常の改善。そして全身痛の緩和にも明らかな作用があったのだ。

 
 今年の春先。私は長期湯治に出る前に「叶屋旅館」のご主人にお会いしておきたかった。
 

 館主の今井さん。この方も原因不明の難病を乗り越え今に至る。
発病した時期も私と同年齢の時。身体の痺れや極度の不眠症状が出始めたという。その後5年間、湯治生活と転院は続いたそうだ。

 現在は信頼できる医師に出会い、手術と温泉療法の末に旅館業が出来るまでに回復されている。特に温湯に長時間浸かるとかなり効果があるという。


 初訪の際。館内の椅子に二人座り、身の上話をし始めると長かった。
私たちは時間を忘れ、あっという間に一時間が経過。

 「原因不明」

 経験した人間にしか分からない地獄。激痛に懊悩する日々、医師から放たれる信じ難き無思慮な言葉の数々・・・全く一緒だ。
互いに温泉好き。全国各地を湯治したという共通点もあり、すぐに同胞意識を持った。

 あの頃、私は壁伝いに何とか独歩ができる状態だった。ヨロヨロと歩いていた時のことを、今井さんも覚えて下さっている。
その後も夏秋とこちらを訪れ、来るたびに私の容態は良くなっている。歩き方は少々変だが、運転も全く問題ないまでに回復した。

 
 チェックインの1時間前。私は宿のすぐ向かいにある共同浴場「小倉の湯(200円)」に入った。35度と39度の2種類の源泉浴槽。冬場は熱湯浴槽は加温となる。交互浴が心地よく、気付くと15時が迫っている。


 時間ちょうどに宿へ。雨の降る中、チェックイン組が一気に流れ込んできた。随分とお忙しそうな今井さん。小さな宿はこの日も満室稼働のようだ。来るたびに盛況なこちらの宿。恐らくリピーターを引き付けるのは、今井さんと女将さんのお人柄だろう。

 
 宿の浴槽は2つあり、1時間貸切の予約制。私は夕方と睡眠前に1時間ずつしっかりと浸かる。冬季は加温ありだが、その個性を失わぬよう、40度程度に調整されていたようだ。

 近年温湯(40度以下)特集が雑誌で組まれたり、単行本が販売されるなど、少しずつ温泉界にもその勢力を拡大しつつある。その魅力は、長時間浸かっても疲れが来ず、副交感神経も刺激されるため寝付きが良くなるところだろう。
 
 寝具メーカーの調べによると、日本人の50%近くが不眠の症状を抱えているという。今後更に、温湯は人気が出ると推量される。

 
 純和風の造りの旅館は相変わらず清潔。冬季は暖房費が加算されるが、一泊素泊り5千円を少し超えるほど。 こちらはWi-Fiも強く、ワーケーションにも最適だ。

 食事はいつも旅館隣接の「千楽」という定食屋で。
こちらの女将さんももう顔見知り。着席してから作り始める地の物がメインの定食、お手製の漬物も美味しい。


 普段朝食はあまり食べないが、こちらは米も旨ければ上田市ブランド「青山卵」も美味だ。おかわりをして満腹に。部屋に戻って横になり、9時からチェックアウト10分前まで貸切湯に浸かり。本旅を追懐。


 飛び石連休。針の穴を通すように組んだ格安旅。4千円台の宿(松之山)に、ポイント充当で入湯税150円のみで宿泊した宿(野沢)。無料の共同浴場は8か所は全てかけ流し。

 昼食はデカ盛り蕎麦(550円と880円)に、キノコ汁と炊き込みご飯セット等(700円)。安価で満足度の高い、上等な旅だった。
 

 チェックアウトの瞬間。

私  「今年はこれが最後です。お世話になりました」
   「雪が解けたころに、また参りますね」
館主 「来年も宜しくお願い致します」
   「痛みが酷くなる時期ですから、お互い気を付けましょう」

私  「私達には『源泉』あるから、良かったですね」
館主 「そうですね、勇気をもらえます」
   「僕たちは前向きに、病と向き合って行きましょうね」
私  「ええ、ではまた」


 颯爽と車に乗り、青木村に別れを告げる。上田インターから藤岡方面へ。と、、その前に。

 上田駅近くにある長野県を代表するデカ盛り蕎麦の名店「刀屋」へ。
池波正太郎も愛食したというざる蕎麦。最後の最後まで食べ尽くす。こちらの並盛(850円)も江戸前の2~3人前サイズ。

 ヤバい、苦しい、、朝飯を食べ過ぎたか。でも、美味い。
 

                          令和3年11月29日
            『立冬の信越、源泉と美食を味わう』 おしまい

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