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フィールドノート⑥/1995.4.5.続き

夜、新歓実委(新入寮生歓迎実行委員会)の部屋入り。実委側の出席はKくん。

部屋まわり(註1)について、A5で出された問題についてで、それは部屋まわりの際女子のトイレ等の問題で、生理だとか戸を開けたままでは嫌だとかそういうことが生じるから(註2)、女子のポカスエ隊(註3)を1人作ろうという話だった。

それに対してSさんが、それは過剰に慮りすぎ、というか、制度的なところでこちゃこちゃ操作しても仕方ない、それは本質的な問題じゃない、A5はおかしいよ、理解できない、ということを言った。そのほかに、Kくんが、ポカスエ隊どうこうとするよりも、女の子は女の子同士で普通に助け合えばいい、どうしても具合が悪くて仕方ない、というような場合は、もう体面より大事なことがある筈で、その時は男だろうが手を貸さなければなるまい、ということを言って、そういう感じにまとまった。

A5は女子ブロックでかつ個室をしている人もあり(女子が個室?)、多少なりとも反感を買っていたりするのだろうか。

その後、新歓合宿の企画(註4)に関する部屋会議に続く。2年目は、1年生が加わってもいいような考え方だったけれど、MさんとSさんが嫌そうで、「いや、1年目はいいよ」と言うので、1年目は結局退席した。

その後、他の1年目は、協力し合って部屋の片づけをしていたみたいだ。彼らは順応が早いなあ。ごく自然にお互い一緒に活動している。共同で住む分、共同で作業することや一緒にいることが多くて、むしろなじみやすいのかもしれない。

× × ×

A3の新入寮生OYさんと***さん(4/5入寮の子)は(※欄外記:2人は茶話会からの知り合い)、茶話会(註5)にも来寮していて、恵迪に入りたいと思っていたそうだ。Iさんは女子高出身だけど、入寮案内パンフ(註6)を見て面白そうだな、と思っていたとのこと。(註:ここで言及している子たちはみんな女子)

入寮を迷っている男の子(ポールと呼ばれていた)に対して、Kくんの話。Kくんは入寮して共同部屋の汚くてハエのぶんぶんしているようなところに入ってもう出ようかなと思ったけれど、先輩に、とりあえず少し暮らしてみれば、と止められたことと、浪人中に一人暮らしをしていて、その隣近所との交流のなさ、関係性のなさが嫌になっていたことなどから、残って暮らしてみたらそのうち慣れたし楽しかった、ということだ。

Kくんもこの前、最初は絶対個室がいいと思っていた、というのは自分だけの場というのが無くなると思ったから、でも複数部屋に入ってやっていたら楽しかったし、ひとりになりたい時はいくらでもなりようがあるから、という話をしていた。

× × ×

今夜のA3は静か(※欄外記:今夜は特に新歓行事もなくて、全寮的に静かみたい)。1年生は今日クラスオリエンテーション、明日入学式らしい。A3の女の子の一部と2年生の一部は、仮装をするらしい(註7)。仮装をするのはだいたい恵迪生なんだろうか。何となく詳細が訊けない。

今日は登校したら学校が休校で、11:30頃にCのところに電話をかけ、2:00に車校についていき、その後ビデオを返しに行って再び借りて、お茶して寮に帰ってきたのが7:00くらい、その後8:00くらいまでピアノを弾いて(註8)、ご飯は居部屋で食べたけど9:00過ぎくらいには勉強部屋に引っ込んで、10:15にはCのところに電話をして、泊りに行こうとしているから、何も特記すべきことがない。

よくないなあ。今日は自分 only day だ。楽しかったけど。それにつけても1年生の順応性の早さよ。ああ。

× × ×

今日女の子が1人入ったみたい。名前分からない。1年生の名前がよく分からない。多分全員把握していない。誰が部屋員で誰がそうでないのか、ちゃんと分からない。

× × ×

Kくん疲れてる。何かぴりぴり伝わってくるなあ。

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(註1)「部屋まわり」は、一晩かけて新入寮生が寮の各部屋をまわり、在寮生に自分をお披露目するための新歓行事。その年その年で入銓委員会が方針を立て、計画するが、寮方式のあいさつや芸の披露、盃を干すなど、継承された決まったスタイルがある。この年は、初めての女子寮生を交えての部屋まわり。

(註2)女子の入ったブロックやフロアではトイレを比較的きちんと整えたが、当時の恵迪寮では、戸のない(外しちゃったor壊れちゃった)トイレがそこそこあった。部屋まわりではすべての部屋を回るので、女子も戸のないトイレを使う可能性がある訳なのである。

(註3)ポカスエ隊は「ポカリスエット隊」の略。部屋まわりではそれなりに大量飲酒の可能性があるので、酔っ払ってしまった人の介抱隊が組織される。そこに特別に女子隊員を作るか作らないか、ということについての議論。

(註4)あまり覚えていないけど、おそらく部屋の行事として新入寮生を連れて泊りがけでどこかに行く、というイベントの企画。だからMさん(5年目)とSさん(6年目)は、その話し合いに当の1年目を加えることを嫌がったのだろう。

(註5)茶話会は、受験の後に行われる受験生と寮生の交流会。茶話会参加希望者の受験生は、寮に遊びに行く。霜星寮もやるけど、多分恵迪と霜星とでは、内容や雰囲気がずいぶん違うのではないかな。キクチは恵迪の茶話会には参加したことがない。

(註6)入寮案内パンフは、大学当局が作るものと寮自治会が作るものと2通りあり、内容がおよそ異なる。恵迪霜星双方のパンフやサークルのちらしなどまとめてA4封筒に入れ、寮生やサークル連合組織などで手分けして、受験の日に受験生に配る。キクチは受験生の時に恵迪寮自治会作のパンフを見て、かなりショックを受けた。寮運動の歴史だとか自治とは何かだとか恵迪の暮らしぶりだとか、かなりくどくど書いてある分厚いものだった。霜星寮生の時は霜星寮自治会のパンフ制作に携わったが、結構楽しかったので、恵迪でも楽しく作ってたんじゃないか。

(註7)えっ、仮装!?と、この記述に突き当たって自分でも吃驚した。もう忘れてしまったけれど、北大の入学式では普通に学生が仮装とかしてたんだろうなあ。

(註8)共用棟にはグランドピアノが1台あり、時々弾いた。防音も何もない、オープンな空間にあるだけなので、うるさかったかも。

※このフィールドノートに出てくる人名のアルファベットは、機械的に頭文字を当てているだけなので、例えばKくんとKくんとKくんが別人という可能性も、十分にあります。

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今回のフィールドノートは、読みながら書き写しながらちょっと笑ってしまいました。この記述に登場する人たちは、微妙に黒歴史感がするんじゃないでしょうか。あと、現代の価値観に照らし合わせると、今ひとつ理解されにくそうな気もして、そこもやっぱり笑ってしまいます。

トイレに戸がないけど女子に慮りすぎ、とか、ハエがぶんぶんしてたけど暮らしてみれば慣れたし楽しかった、とか、やっぱり理解されにくそうで笑っちゃうよね。でもまあ、振り返ってみればそれが致命的に極悪最悪だった、とかではなくて、やっぱり中に入って暮らしてみなければ理解できない価値観というのは、確かにあったと思います。多分そのために、当該社会の中に入り込んで一員となって暮らすフィールドワークや参与観察というものは、するんじゃないのでしょうか。外から(絶対アタマおかしい……!)と遠巻きに見ていては、分からないものというのはあると思います。

それでも、この記述に登場するわたしも、そろそろ嫌になってきちゃってますね。そこも笑っちゃう。この後のわたしは、頻繁に寮から逃亡するようになります。だって疲れるししんどいし、あと好きな人が外にいたからさあ笑。

カバー画像は、わたしが2年生の時の霜星寮の茶話会です。中央右寄りの全身ホワイトがわたしです。白いパーカーと白いスウェットパンツなんですが、何で上下白で攻めるかしらね!霜星寮では、寮生が料理やお菓子を作って持ち寄り、談話室なる共同スペースでお茶会をします。恵迪ではどんな感じだったのかしら。




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