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自閉症スペクトラムの子に英語を教え始めて3年になりました

初めて会ったのは、三年前の夏だったと思う。知り合いに「ちょっと変わった子なんだけど、気が合えば授業をお願いしたい」と英語のバイトとして引き受けたのがトモと出会うきっかけだった。

私はちっとも専門家ではないのだけど、簡易的に自閉症スペクトラムを説明すると以下のようなものかと思う:

自閉症スペクトラム障害には、社会面、コミュニケーション面、および行動面の課題が含まれます。これらの問題は、軽度、重度、またはその中間のいずれかです。 (元記事)

スペクトラムという言葉にあるように、症状の範囲は広く、一人一人カスタマイズされている。私はトモの事例しか経験したことがないので、大きい枠で話すことは難しい。けれど、彼を見ていて感じるのは、いわゆる「自閉症の課題」と言われているものの原因としては、自分のシャボン玉に閉じこもっている時に、それが割れてしまうことでショックを受けたり、不安や苛立ちを覚えてしまっているような気がする。

多分野生の中でトモが生きていれば、彼の生命力なら生きていくのだろうけど、集団的な要素が加わることで生きづらさを感じるのではないかと思う。

教えはじめ

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教えはじめは、ホワイトボードの裏が落ち着くと言って、逃げるように席を離れることが多かった。

最初の授業は絵本数冊とTOEFLの読解の文章を持っていった。英検を取っているとは聞いていて、どこからどうすればいいのかわからないまま初めて会った。絵本はちっとも感触がない中、TOEFLの文章は一個一個の単語の説明をかろうじて聞いてくれた、というような感じだったように記憶してる。

はじめは特に席からホワイトボードや机の下を行き来しながらの授業をやっていた。注意が逸れた先にあるものを題材にお話を少ししたら、また教材に引き戻す。最初は完全手探りで、好きそうなトピックでなんとか注目してもらったり、授業がなんで進みにくいかを探って、そもそも何を改善すればいいのかすり合わせる期間があった。

改善したこと

しばらく授業をすると、どうやら私の出題が難しすぎる(ごめん笑)、トピックはサイエンス系や仕組みの説明が好き、などのことがわかってきた。

完遂しないワークシートを都度改良して、授業内で終わらせられるように工夫するの繰り返し。厳密なフィードバックをしていた訳ではないのだけど、だいたい2〜4回の授業で興味を引きつけることができなければ題材を変えるか、授業やワークシートのフォーマットを変えていった。

・授業フォーマット
授業フォーマットに関して、具体的にどのような変更を加えていたかというと:

Trial 1: 長文読解(ほとんど一方的な解説)
Trial 2. 長文読解 + 次回授業で穴埋めと解説
Trial 3. 文章 5つ + わからない単語説明、一緒に和訳
Trial 4. 文章 5つ + シャドーイング + 一緒に和訳 + 暗記
   (2回授業に分ける、多分一番ハードだった)
Trial 5. 文章 5つ + 単語解説 + 和訳補佐
Trial 6. 短い段落+ 単語解説 + 和訳/文章理解確認  ⬅️いまここ!

3年の間で語彙力も、読解力もだいぶ付いてきて、最近は私が授業中に言うこともだいぶ理解しているよう。

・題材選定
題材もシリーズ化すると準備がしやすい。興味を示したていたり、質問が多かった題材は好みと見なして、関連トピックとかを扱うようにしている。

以下のトピックは過去に扱ったことのあるもの:

・動物系
・鉱物系
・宇宙系
・processing の reference 読む シリーズ
・化学系
・自然科学
・サイエンス系の時事ニュース

原則的には、トモが興味があるものがメインなんだけど、本人が好きそう・視野が広がりそうと思ったものは私も学びながら取り入れるようにしている。

例えば、トモはC言語を学んでいるのだけど、数学のグラフの形などに興味を示していたので、Processing というプログラムが気にいるのではないかと思って reference を一緒に読む授業を連続してやってみたりもした。ただこれは、私が追いつくのが大変で、途中からサイエンス系に題材を戻した。

最近の授業と教材準備

数ヶ月前から授業を全てスカイプで行っていて、 figma に載せた教材をシェアスクリーンで一緒に読んで、書き込みながら授業をやっている。 (めちゃ楽で本当にありがたい)スカイプ授業に切り替えたことで授業も割と集中している。(波はある)

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興味ある方は、授業のワークシート:
https://www.figma.com/file/kw6QLPLrFpj3p6GKsSKw5G/TOMO-LESSON

ワークシートのフォーマットは、ここ3年で色々改善して行って、だいぶ落ち着いたかなと思ってる。作る上で一番参考になったのは、英国のウェブアクセシビリティ啓蒙ポスターを紹介していた unleash magazine の記事。色々な障害によって、ウェブデザインでやるといいこと・悪いことを簡潔にまとめてくれている。

私がワークシートのフォーマットで気をつけていることは以下のポイント:

・比喩的な表現を使わない
・授業のパフォーマンスに対して明示的なフィードバックを残す
・長い段落は避けて、文章群をバラす

これを心がけることで、だいぶワークシートを最後まで完遂できるようになった実感があった。

引き続きの課題

トモを教えてて、もう少し時間を作ってよくしていきたいことがまだまだある。

・理解度を確認するときの質問の工夫
自分の意思を言語化するのが少し難しいようで、私の説明をどこまで理解できたかを聞き出すのに、今でも結構苦戦している。なるべくイエスノーで回答できるもの、同意を求めるように質問するようになども試してみているのだけど、改善の余地があるように思っている。

・文法を教えてあげたい
今までは、本人が情報収集するため、海外の論文が読めるようになるため、と読む力を養うことに注力してきた。全体的な英語能力を底上げするため、少し複雑な文章を自分で作れるよう、文法の理解をつけたい。ただ、より方程式的に作文する為の文法を私が復習しなければ行けないことに、素人先生の能力の限界を感じている。

・トモの自己理解を促す授業にしたい
私も自分のことを完全に理解できていないところ、少しおこがましいことかもしれないけど。生きていく上で、トモの得意不得意を意識した意思決定ができるかどうかが、とても重要なのではないかと思う。授業を通して、授業の外でもメリットのある取り組みを行なっていきたい。

大学生の時に英語塾講師は1年ほどやった経験はあるのだけど、素人の試行錯誤を気長に見守ってくれているご両親にはとても感謝をしている。

トモが教えてくれること

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トモを教えていると、どうしても大切になってくるのが本人の意思確認。授業を中断したいか、気分は悪くないか、行き詰まっているのは何でなのか、もう少し頑張りたいのか。表情などが読み取りにくい(というより、表情で読みとれていると思ってはいけない、という表現が近い)ことや本人に無理をさせないようにするには、少し細かめに気持ちを聞くようにしている。

トモが返事に詰まったり、意思疎通が難しい前提で丁寧なコミュニケーションを心がけているけど、普段の他の人とは「伝わってるつもり」に気づかないことの方が多いのじゃないかと思う。

トモと会話するのに特別な能力など必要はなくて、少しゆっくり話を聞いて、回答を用意してあげる。でも、これって本当は人とのコミュニケーションの本質だよね。この作業って他の知り合いや大切な人に私はどこまでできているのだろう。いかに日頃、私は他人の意思確認ができていないか学ばせられたのはトモのおかげ。

ここには書ききれないほど、本当は色々なことをトモには学んでいるし、トモに生き方を参考にしていることが多々ある。

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↑授業中に脱線した例

トモ、あなたはかけがえのない大切な友達で、あなたの側で一緒に成長することが本当に楽しみで仕方ない。


初めて投げ銭機能を使ってみました!集まった金額で、トモの授業の教材を購入させていただこうかと思います。

special thanks:
motanin
Chosan
河村健司|CAMPFIRE
中里祐次@Branch
⛵Ryota⛵
Daiki/③⑧③⑤
...and others


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