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火と煙と鉄と

キャンプで作る飯が好きだ。
仲間内で料理長を襲名してから、もともと趣味だった料理がもっと好きになった。

道の駅は僕らの食糧庫。
知らない土地の、知らない野菜、知らないブランド肉、知らないブランド卵。
買い出しをしながら、この先のメニューを考える。
仲間が気まぐれに選んだ食材をどう調理し、どういうタイミングでいただくと一番おいしく感じられるのか、そこが腕の見せ所。

ここはキャンプ場。
レンジもオーブンも炊飯器もないが、代わりに薪と炭がある。
調理器具は火と煙と鉄だけ、それだけで充分だ。
良い歳をした大人が、箸が転がる程度のことで大笑いしながら包丁を握り、鍋を振う。

出来た端から皆で食べる。
鍋や網から手持ちの皿にワンバウンドさせ、そして口へ、ほぼノータイムで運ぶ。
熱々で瑞々しいお肉に、ジューシーなお野菜達。
ただただおいしい。

いつものキッチンでは得られない炭の香りが、独特の香ばしさ、美味しさを作る。
いつもの食卓の整然とした家具、壁、天井の無い大自然が、食べ物と味蕾の出逢い方を変えてくれる。
いつもと違う“おいしい”が、いつものたのしいをより強くしてくれる。

焦がした
入れすぎた
薄すぎた

ちょっとくらいの失敗は、キャンプ場での思い出の調味料だ。
笑い飛ばしている間においしい思い出に変わっていく。
おいしいはたのしい、と同時にたのしいはおいしいのだ。

普段抜きがちな朝食も、キャンプ場では別。
日が昇ると、お日様の柔らかな眩しさで自然に目が覚める。
パンを焼き、上にベーコンと目玉焼きを乗せるも良し。
あまったご飯とあまった食材で、具沢山お茶漬けをすするも良し。
最後は温かなコーヒーを飲みながら、おいしい湯気とおいしい空気をいただく。

朝食を終え、おいしいの余韻に浸りながら、「楽しかったなあ…」とたのしいの余韻に浸る。
そんなヒタヒタな時間が最高に贅沢で、心から灰汁を抜いてくれるのを感じる。

次はどんなものを作れるかなあ、と考えながら帰路に着く。
そんなおいしく、たのしい旅路が好きだ。


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