見出し画像

村田沙耶香『信仰』の感想

※村田沙耶香『信仰』のネタバレがあるので注意!

村田沙耶香の『信仰』という短編集がkindle unlimitedにあったのでとりあえず読んでみることにした。村田沙耶香と言えば『コンビニ人間』で有名である。自分もコンビニ人間を読んで面白いと思ったのでとりあえず表題作の『信仰』という短編だけを読んだ。なので今回はその感想を書いていこうと思う。

この作品は主人公の永岡という女性が中学の同級生である石毛という軽薄な男にカルトを始めないかと誘われる場面から始まる。この時点で面白い。『信仰』というタイトルをド直球にいく始まり方である。

誘われた側の永岡は現実主義者なのでその誘いを断るが、同じく元同級生の斉川さんという女の子がすでに石毛に誘われて乗り気なので、彼女を石毛の案から離すために説得することになる。しかし結局その場では説得できず石毛と斉川さんはカルトを始めることになるという筋書き。

斉川さんの宗教的なものに信じてしまう感じの描写が非常にリアル。基本的には軽いタッチで書かれている作品だが、妙なところに生々しさがあると思う。

この作品の面白いと思うところはカルト宗教だけを揶揄しているわけではなく、効果がわからない怪しいものにお金を落としてしまうという構造を持っているカルト的な商売をいくつか実際に出している点だと思う。ブランド品や変な美容グッズなど類型的にカルトと言われているもの以外にもカルト性を見出している。その視点は面白いと思う。

さらに言えば主人公の永岡を現実主義者という立ち位置において、現実主義者という立場すらも1つのカルトという示唆を含ませているのが面白い。個人的にはここの部分が一番面白いと思う。現実ばかりではつまらないというか、カルト的なものに傾倒しすぎるのは良くないけど「カルト的なものに騙されないぞ!」という想いを持ちすぎるのも倒錯している。あらゆる胡乱なものを否定しすぎるとつまらなくなる側面もあるなと思った。この視点は新鮮。

結局は主人公がなぜか斉川さんのカルトに積極的にハマりにいくという謎展開になり、ラストにやっぱりハマれなかった感じで終わる。このあたりは急で若干ギャグっぽい感じもする。ただ展開は怒涛な感じで文学っぽいんだけど暗くなくポップな面白さがあると思う。

1つ気になった点を挙げるとすれば、作中でカルトとして描かれているものが類型的すぎるのではないかという点だ。類型的すぎるが故に安っぽく感じる部分がある。

具体的にいうと、そんなわかりやすいブランド物や宗教なんて今どき信じている人は少ないんじゃないかということだ(実際にそれなりの数はいると思うが、もっと問題にすべきものがあると思うという話)。本作に出てくるカルトはあまりにも記号的すぎる。

なぜこんな指摘をするかというと、もっと宗教っぽくないけど宗教的なものって昨今ありふれてるんだからそういったものにもスポットを当てないと文学としては洞察が浅いような気がしてしまうということである。あまりカルトだと感じないところにカルトが潜むという、多くの読者すら盲点になっている部分のカルト性を暴き出さないと安っぽく見えてしまう。

本作でカルトとされているものはカルトらしすぎて多くの人がカルトだと思えるような共通認識がすでにあると思う。なのでエンタメ小説としては面白かったけど、文学としては微妙に感じた。ただ作品全体としてはそれなりに面白かったので他の短編も読もうかなと思う(感想を書くかは不明)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?