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【6月の本よみ】記録としての写真

桜の頃に撮らせていただいた写真を、初夏の今になって思い出しながらこの撮影後記を書いている。撮影した日から文章を書くまで、これほど期間が空いたことがなかったので、新鮮な気持ちで写真を見ていると、なんとなくこれまで撮影してきた他の写真をあらためて見てみたくなった。


この活動もおかげさまで一年以上続いているので、それぞれの写真に季節感があるのがよくわかる。とりわけ背景に桜の木が写っているとそれを感じやすい。写真のように花が咲いていれば春、葉が生い茂っていれば夏、葉が紅くなる秋、葉も花もなく力強い幹と枝の姿を見せる冬。桜は落葉樹のなかでも花の印象が強いこともあり、写真で見ても季節がわかりやすい木だ。


しかし、写真内の情報で、その時の状況をより細かく伝えるのは、そこに写っている人の姿だ。着ている服、身につけているもの、持っているもの。桜が咲いているとはいえどれくらいの気温だったのか、その時に社会で何が起こっていたか、写っている人の姿から多くのことに気がつく。大げさに言うと写っている人の姿は、自然という大きな力と対峙したときの人間の弱さであり、その中で生き抜くために連綿と積み重ねてきた叡知でもある。写真はそれを現在の記録として切り取っている。


少し遠慮がちに撮影を承諾してくださった女性は、本を読むためにそこにいるというより、人を待っていたのだろうか、少し空いた時間に本を読んでいるようだった。桜並木を行き交う人々を背景に本を読んでいる姿は美しかった。本そのものに季節感はない。しかし近い将来、現在について「本という形のものを読んでいた時代」と言われる日がきて、本という物体は旧時代の象徴になるのかもしれない。この先10年、20年後に、これらの写真はどのように見えているのだろう。その地点に立ってみたいと思う写真だった。


text : Seiji Kawana

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