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【3月の本よみ】 普段は読まない


読書=趣味で読んでいる、とは限らない。

読まなければいけないという状況下で本を読むことだってある。

「普段はほとんど本を読まないけど、読まなければいけなくて」そういう人と出会うことがあるのは、この活動の面白さの一つだし、ドキュメンタリーを重んじてやっているからこその、産物のように思う。

わたしはその日、次の打合せまで少し時間があり、カフェで仕事をしていた。

しばらく仕事をしていて、ふと気がつくと、隣に座っている男性が本を読んでいることに気づいた。

真隣りだったこともあり、顔は直視できず、でも何となく若そうな雰囲気が伝わってきたので、「若者の読書姿.. ぜひ声をかけたい..」密かに そう思った。

だが、もし声をかけて「撮影お断り」だった場合、その後それまでと同じように隣り合って居続けることは相手にも気まずい思いをさせることになる。できれば自分の去り際まで彼が変わらず本を読んでいて、去り際に声をかけるパターンを取りたい。

わたしは思わず彼の飲みものに目をやり、どのくらい残っているのか確認してしまった。

若そうな男性だ、アイスコーヒーなどであればものの数分で飲み終わって立ち去ってしまうかもしれない。そんな気持ちで手元に目をやったのだが、彼が飲んでいるのは意外にも、たっぷりと生クリームが乗ったフラペチーノ系だった。席に着いてからすでに何分か経っているはずだが、その割にはまだ2口くらいしか飲んでいないような残量。これはいけるかもしれない。


脳内でそんな事を考えながら(でも何食わぬ顔で)変わらずノートパソコンに向かって仕事をしていた。


結果的にわたしがその店を出る時まで彼は読書を続けていて、声をかけることが出来た。


「 え、いいっすよ 」


自然体のとても感じのいい青年で、しかも顔が写っても問題ないとのことだったので、横から撮影させてもらった。普段は本を読まないそうで、大学の課題だそうだ。去り際には笑顔で「がんばってください」という言葉までくれた。


この活動は、本好きを紹介するサイトという訳ではないし、前もって撮影日を決めて、とっておきの洋服を着てお気に入りの本を持ってきてもらってクールに撮影するというようなものでもない。


「その日、その時、その場所で、その本を読んでいる人がいた。」

本当にそれ以上でもそれ以下でもない、記録のような写真だし、そういうサイトだと思っている。


その時の読書タイムがその人にとって最高に至福の時間かもしれないし、やむなく読んでいるのかもしれない。会話を通じてそれが分かることもあれば、分からないまま別れることもある。


今日も、明日も、明後日も、
いろんな人のいろんな生活が、そこにある。


text:Tamura Mayo


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