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【12月の本よみ】 もう一軒寄りたい本屋さんがあってちょっと歩くんやけどいいかな

外で本を読んでいる人には、本を読むこと自体が目的の人と、移動や待ち合わせなどの時間潰しとして本を読んでいる人がいる。

待ち合わせ、と聞いて思い浮かべる場所がある。渋谷駅前のハチ公やモヤイ像、東京駅の銀の鈴といった有名な場所の他に、表参道の山陽堂書店や、新宿西口にある新宿の目など、地味なりに知られた場所もある。近年では商業施設のまわりが広場になっているところが増え、その施設を利用するしないにかかわらずその広場は待ち合わせ場所として使われるようになっている。写真の若い男性は、都心の商業施設前の広場にいた。


こういうところで本を読んでいる人は意外と少ない。場所の特性から考えても待っている相手は仕事関係の人ではないだろう。仕事でなければできるだけ身軽でいたいし、紙の本はそこそこ荷物になる。音楽やゲーム、SNS、そして電子書籍を利用すれば読書と、時間潰しのコンテンツはほとんどスマートフォン一台で済む。実際まわりの待ち人たちの多くはそうしているようだ。その雰囲気の中で若い人がわざわざ紙の本を読んでいる姿は少し異質に見えた。


撮影を申し出ると、えーと、待ち合わせしててもうすぐ来るんですけど、とのことだったので、手短に済ませます、と言い撮影させていただいた。この日は少し暖かく、高い建物の下にある広場にもかかわらず風も穏やかだった。「東京の本よみ」について説明すると、今日の天気ならすぐそこの公園に本読んでいる人いっぱい居そうですね、とアドバイスをいただいたり、書影を撮らせてほしい旨を伝えると、これは装丁がカッコいいんですよ、と、つい先ほど丸善で買ったばかりと思われる本のブックカバーを外して見せてくれたりした。書肆侃侃房の短歌の本だった。

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その時、男性のスマートフォンに反応があったので少し外すと、その人は電話で会話をし始めた。情けないことに自分の中に、若い人はインスタントメッセージでやり取りをするから電話をあまり使わないだろうという、今思えば謎の先入観があったせいで、少し虚をつかれたような形になった。実際には若い人のほうが状況に応じて道具や手段を効果的に使い分けているのかもしれない。紙の本という選択もその一つなのだろう。


電話の向こうはおそらく待ち合わせの相手なのだろうな、と思っていると、少しして写真の男性と同じくらいの年齢の女性がやってきた。事情を説明し別れ際にお礼を言うと、二人は人当たりの柔らかな笑顔で応え、歩いていった。


※被写体の男性は顔が写っていますが、許可を得たうえで掲載しています。


text : Kawana Seiji




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