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街に余白をつくり、遊びとアイデアで埋めていきたい JRが考える街のキーワード「Playable」とは

JR東日本が進めている高輪ゲートウェイ駅周辺一帯の品川開発プロジェクトは、「共創」と「実験」が絶えず起こり続け、100年後の豊かさを見据えた「やってみようが、かなう街」を目指しています。そのためには、パートナー企業だけでなく地域のみなさまとの連携がなにより大事であり、またなぜ大事なのかをこれまでの記事でお伝えしました。
>>都市開発における地域連携の拠点が、“そこにあること”の意味

今回は、「共創」と「実験」を実現するためのキーワードであり、私たちのまちづくり精神を表す言葉でもある「Playable」について、またJR東日本が都市開発において重視する「コミュニケーション」の一環としてのイベント「5 Days CITY」を通してなにを伝えたかったかを、JR東日本 品川開発プロジェクトチームの片山良治がお伝えします。

片山良治(JR):JR東日本 事業創造本部品川まちづくり部門 副課長。2015年6月より現在まで品川開発プロジェクトを担当。2024年のまちの開発計画全般と5Days CITYのイベント全体運営を担当。

「共創」と「実験」を実現するための、“Playable”な街のありかた

東京の大規模な都市開発では、周辺に住民があまり多くないエリアを再開発するケースが多いのですが、品川開発プロジェクトは多くの地元住民の方々が暮らすエリアでの開発となります。

だからこそ、わたしたちはあくまで地域に根差した「共創」「実験」のプラットフォームであるべきであり、企業パートナー、地域のみなさま、来街者を繋いで街をかたちづくっていくことが必要になります。JR東日本だけが「こんな街をつくりたい!」と息巻いて勝手につくるものではない、そう肝に銘じています。

鉄道という人々の移動・生活に欠かせないインフラ事業を担ってきたJR東日本のような企業だからこそ、地域のみなさまの思いをいち企業と対等に捉えてコミュニケーションをとり続けなければならないのです。

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ここでのまちづくりに携わり、街を通過していくみなさまと同じ目線に立ちコミュニケーションを続けていくなかで、わたしたちがもっとも共有したいキーワードは“Playable”です。

この言葉には、「実行する」「参加する」「試す」「演じる」「演奏する」「遊ぶ」「実験する」などの意味を持つ“Play”に、街に関わる多くのみなさまが“Play”することを可能にする、という意味が込められています。

これまでの記事では、都市開発の課題として街と住民の方々/来街者と開発側の距離が遠くなる傾向にあることを挙げましたが、地域や訪れるみなさまの思いを無視し、図面から考えた机上の空論ばかりを街に反映していては、そこに確実にあった街への思いや期待は薄れていきます。
>>都市の課題を乗り越え、「共創」と「実験」を実装したまちづくりにするために

しかし、誰しもが自分が住む街に実現してほしいことがあるはずです。来街者、地域住民、パートナーの願いをさまざまな側面から汲み上げ、ひとりひとりの「やってみよう」を実験できる器であること。街に関わる多くの人々にとって参加しやすい共創型のプラットフォームであること。そうした街の根底にある価値軸を表したキーワードが“Playable”です。遊びやアイデアを生む余白を街の思想のなかに置き続けることが、「社会がどう変化しているか」が予測不可能な100年後も変わらず人が成長し続け、豊かな社会であるために必要なことだと考えています。

Playableを体現する「5 Days CITY」を開催

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こうした“Playable”な街のありかたを共有し、地域の方々やこの街を訪れる方々と街の未来を考える共創型の開発の土台をつくるために、JR東日本はこれまで街歩きや地域説明会、企業・地域連携の拠点「TokyoYard Building」「Partner base Takanawa Gateway Station」の運営など、街に関わる方々とのコミュニケーションを行ってきました。しかし、前回の記事でもお話しした通り、わたしたちが気付けていないパートナーや地域のみなさまの思いが、わたしたちのプロジェクトにはまだまだたくさんあると感じています。

これから本格的に開発がはじまっていくにしたがって、住民説明会やビジネスミーティングのような場だけではなく、カジュアルにコミュニケーションができ、“Playable”のコンセプトをより多くの方々にお伝えできる場所を作りたい。そうした思いから開催したのが、期間限定イベント「5 Days CITY」です。

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「5 Days CITY」は、先述の“Playable”をコンセプトに、7月14日から9月6日まで高輪ゲートウェイ駅前で開催された「Takanawa Gateway Fest(高輪ゲートウェイフェスト)」の最後の5日間に開催されました。
>>(会場風景はこちら)

イベントを盛り上げるためだけのコンテンツを展示するのではなく、2024年にむけて共創パートナーと実装に向けて実際に取り組んでいることを共有し、参加者に遊んでワクワクしてもらいながら、ともに“Playable”な新しい街について考えていくことを目的としました。

ここからは、5 Days CITYでキーとなったテーマから「コミュニケーション」「ヘルスケア」「フード」をピックアップし、実際に展示されたコンテンツをいくつか紹介していきたいと思います。

鉄道事業者のJRが忘れてはいけない、身体的コミュニケーション

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先述した通り、パートナー企業、地域のみなさま、来街者とのコミュニケーションは品川開発プロジェクトにとって最も重要なテーマのひとつです。

各コーナーに設置された、地域のみなさま、パートナー、街を訪れる方とともに街へのアイデアを埋めていく「Post Your Playable」は、あえて非常にアナログな手法をとりました。

デジタルやフォーマルな場でのコミュニケーションは、多くの事業者の合意が必要な大規模な開発をスピード感をもって進めるために、必ず必要なものです。反面、「決まっていないことを曖昧なままお話しすることは難しい」という心理が働いてしまい、ステークホルダーとしての肩書を取り払い、腹を割ってカジュアルに話し合うことが難しい側面もあります。
一方で、こうしたアンケートは関心を寄せていただくことが難しく、また積極的に意見を投げかけづらいため、わたしたち自身も不安がありました。

しかし結果的には、ユニークなものから街に対する率直な意見まで約3000にのぼるアイディアが寄せられ、自分でアイディアを書いて余白をみんなで埋めていく──こうしたちょっとした遊びがあることでここまで多くの意見がいただけるのかと驚きました。

5 Days CITYのようなリアルな場に実際に足を運び、「Playable」の街のイメージを実感いただいたパートナーや参加者のみなさまから寄せられたアイディアは、開発チームが街歩きなどで地域のみなさまと会話するなかで得た「そこにいる人々」の暮らしに密接した思いと同じく、わたしたちにとって非常に学びの多いものでした。

今後のまちづくりにおいては、もちろんデジタルとフィジカルで相互に補い合う必要はありつつも、我々のような鉄道事業者は身体的なコミュニケーションの価値を忘れてはいけないとあらためて認識しました。

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またこれから駅やまちを訪れる人とのコミュニケーションのひとつとして、高輪ゲートウェイ駅構内に設置予定の「Station Piano」を展示。東京事業所を高輪に構えるYAMAHAのピアノに、ハンドスタンプアートプロジェクトの手形(本来は絵の具などで個々の手形をとる取り組みだが、当日は感染リスクを考慮し手形ステッカーを使用)に自由にメッセージなどを記入し貼ってもらい、最終日には完成したピアノでプロ・一般来場者による演奏が行われました。

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5 Days CITYでは、JR社員が直接ご来場者のみなさまにイベント内容やまちづくりについて説明。イベントチームだけでなく、実際に開発に関わる都市計画チーム、建築計画チームなどの社員も参加し、実際に来場者とコミュニケーションをとった

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高輪大木戸から品川に伸びる海岸は、江戸時代より月見の名所として知られている。周辺地域には和菓子屋も多くあることから、地元和菓子屋と連携し、月見をしながらお点前のようすや琴演奏を楽しむイベント「ムーンナイトあんこ」を行った。地域の事業者と開発チームとの対話のなかで生まれた企画

移動と暮らしに溶け込むヘルスケアを

身体だけでなくメンタルヘルスを含めた豊かな「ヘルスケア」のありかたも、これからの世界では大きなテーマです。

5 Days CITYでのヘルスケアのコンテンツは、ビジネス/医療向け展示会のように最先端で専門的な医療器具が並んだわけではありません。ここでは医療や技術そのものを変えるのではなく、技術を使うことでどんな「ヘルスケア」を街に実装しようと考えているかを知ってもらうことにフォーカスしました。

あたらしい街のヘルスケアについてどのような青写真を描き、JR東日本とさまざまな共創パートナーのリソースでなにを実現できるか──。そう考えたとき、必要な人が必要なレベルの医療にシームレスにアクセスでき、街や駅、移動経路のなかにヘルスケアが溶け込む暮らしが、街で目指すかたちなのではないかと思います。

診察から検査や治療のプロセスは非常に時間がかかることで、平日に病院に行くハードルが高いと日々の生活のなかで感じる方は多いと思います。その結果、診察を先延ばしにしてしまいがちです。いつでも、どこでも医療・健康サービスに気軽にアクセスでき、「測る」ことで病気の予兆に気づくことができる。病院での治療に気軽に取り組める。そんな土壌をきっと創ることができるはずです。

会場では、センサースーツを着用し、姿勢・歩行のデータを解析。そのデータをもとに医師からアドバイスをうけられるオンラインによる診察の疑似体験してもらいました。

将来的には、クイックな診療を駅や商業施設などの生活導線上で気軽に受けられる未来を目指します。

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富士フイルム、スマートアパレル「e-skin」を展開するスタートアップ・Xenoma、AI・IoTサービスやオンライン診療プラットフォームを展開するオプティムと連携し展示が行われた。

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正解ではなく、考えることが食の未来に繋がる

人々の豊かな暮らしに欠かせない健康は、わたしたちが口に運ぶ食べ物によってもかたちづくられます。加えてフードロス、気候変動問題など、「食」が地球環境に密接に結びついていることを知り、日々の食事からこれらの問題に向き合うことは、これからの暮らしを考えるうえで最重要課題のひとつです。

さらに高輪ゲートウェイ駅がある港区は、多くの大使館が集まり、人種や国籍、宗教などさまざまなバックグラウンドをもつエクスパッツが通勤・居住するエリアでもあります。グローバルゲートウェイを標榜するこの街が、多様な価値観をインクルーシブにうけとめる場所であるために、これらの課題に対して食の視点からなにができるかは、JR東日本もいまだ議論を繰り返している段階だというのが正直なところです。

5 Days CITYでは、参加者のみなさまにも食の課題と未来について考えるきっかけをつくりたいと思い、アールイー株式会社と協力した、ゲーム感覚で課題解決型のレシピをつくるタッチパネル式のサイネージコンテンツを制作しました。

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身近なメニューと「サスティナブル」「ダイバーシティ」「ジャパンバリュー」のなかから課題をひとつ選ぶことで、課題に応じたレシピに変化。選んだ課題にまつわる情報を掲載した紙を出力する

さらに、ここで制作したメニューのなかから、いくつかのメニューを「Takanawa Gateway Fest」会場内で開催された「フード&クラフトマーケット」の店舗で商品化し、実際に食べることもできました。

このように、5 Days CITYは、なにかひとつの正解を提示したり完成したものを展示する場ではありませんから、ある意味不完全なイベントであったともいえるかもしれません。

しかし開発側の目線から一方的に街の未来や正解を語るだけでは、変化しつづける社会や価値観のなかで、本当の意味で豊かな街はかたちづくれません。街の思想や現在地をオープンにして共有し、パートナー、地域のみなさま、来街者の方々との対話や議論を繰り返しながら、“Playable”な街の未来について考えていくことがなにより大事なのであり、これからもそうしたまちづくりを進めていきたい。そう考えています。

取材協力:JR東日本・片山良治
インタビュー・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

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