見出し画像

高輪産ホップ100%ビール誕生! 地域の「関わりしろ」を生み続けるために、果たすべき役割

JR東日本が高輪ゲートウェイ駅周辺で行う「品川開発プロジェクト」の一環である「TokyoYard PROJECT」では、開発拠点としているTokyoYard Buildingを中心に、昨年からホップの栽培活動「TAKANAWA HOP WAY」の取り組みをスタートしました。第1期となった今回は、開発工事で出た土を活用した土づくり、苗植えを経て、高輪ゲートウェイ駅周辺エリアの事業者(株式会社TOKYO TOWER、株式会社八芳園、Koru-workers株式会社)のみなさまや学校(東海大学付属高輪台高等学校・中等部、港区立高松中学校、港区立御田小学校、明治学院大学)にご協力頂き、各所でホップを育てました。

最終的には、栽培した80個のプランターから約2.8キロ、瓶ビール600本分のホップを収穫して醸造。昨年11月に高輪ゲートウェイ駅を中心に開催された「Takanawa Gateway Fest 2021」内のイベント「Takanawa Hop Fest」では、栽培に関わっていただいたみなさまや地域のみなさまにお集まりいただき、高輪産純度100%のホップでできたビール「 TAKANAWA HOP WAY」のお披露目と試飲会を行いました。3月には第2期の活動が開始予定となっています。

このホップコミュニティ活動は、ホップを栽培してビールをつくることだけではなく、共同作業を行う過程で地域のみなさまとの繋がりの輪を広げ、自走するコミュニティをかたちづくることが目的です。

コミュニティの源泉であるより良い日常を地域とともにつくるために、開発事業者であるJR東日本がどのような責任を果たすべきなのか。JR東日本 品川開発プロジェクトチームの樋口が、グリーンインフラ技術による都市基盤整備・賑わいの創出などを手がけ、ホップコミュニティ活動を共に推進いただいている東邦レオ株式会社・田中尚吾さんと議論しました。

画像1

樋口健太郎(左)
東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 新事業創造部門 品川くらしづくりユニット(事業計画)。地域の魅力発信イベントの企画や運営、近隣学校との連携などを担当。

田中尚吾(右)
東邦レオ株式会社カルチュラルエンジニアリング事業部
グリーンを通じた地域コミュニティ活性を目指して、地域エリアマネジメント業務、グリーンインフラの創出を担当。

「関わりしろ」と「挨拶しあう関係」を生むために

樋口健太郎(以下、樋口):
一昨年の夏に東邦レオさんよりご提案いただいて、ホップ栽培がスタートしました。地域のみなさまにも参加いただいて、土づくりからはじまりましたよね。

田中尚吾(以下、田中):
工事現場の土を分析すると、水捌けがよくホップ栽培に適した土質だったんです。わたしたちはもともと土壌改良材のメーカーなので、自社で研究開発した、土壌に合う改良材をブレンドして活用して土をつくりました。

画像2

樋口:
土の採取・土づくりは本当に大変でしたね。重機で固まった土を掘り起こして、何度もふるいにかけて大量の石を取り除いていきました。

田中:
そんな作業に、当初JRのみなさんはスーツで取り組んでいらっしゃっていて、すごく面白かったですよ(笑)。スーツから湯気が立っていましたもんね。

樋口:
2回目以降はみんな作業着に変わっていましたね。「これはとてもスーツでできる作業じゃないぞ」と。

候補⑭

田中:
あれでご一緒するメンバー同士の壁が少しずつなくなっていったように思います。改めて、共同作業が良質なコミュニケーションを生むのだと感じました。以降のプロセスでもその点は非常に重要視してプロジェクトを進めましたよね。

樋口:

そうですね。苗植えから栽培、収穫、実際に完成したビールを飲むまで、年間通して地域のみなさまに携わっていただきました。また、ラベルも白金にキャンパスのある明治学院大学でワイン法を専攻する学生の方々にデザインしていただき、駅などで公募して2パターンを採用しました。そのほか、港区立御田小学校と生育したホップのつたを使ったクリスマス・リースを製作したり、港区立高松中学校、白金台にある結婚式場・八芳園さんの施設「MuSuBu」と連携してホップの酵母を使った料理教室を開催したりしました。家で簡単に作れるレシピも作成して、大好評でした。

候補⑦

候補⑧

田中:
プロセスのなかに「自分たちでやる共同作業」がどれだけあるかが重要だという話はプロジェクトを進めていくうえでよくしましたね。ホップ(ビール)というひとつの結果にいたるまでに、「関わりしろ」をどんどんつくっていかにコミュニケーションの量を増やしていけるか。

最終的にはとても美味しくてデザインもかっこいいビールができあがりましたが、できの善し悪しはじつはそこまで重要ではなく、売っているビールを凌駕するくらい美味しい、デザインも優れたものが作れなくてもいいんです。自分たちが作ったビールには何にも代えがたい価値がありますから。

樋口:
ホップはあくまでもひとつの手段で、達成したい目的は別のところにあるということですよね。これから高輪・白金エリアにあたらしい街ができるにあたって、なにかをつくるプロセスを通じて開発側であるJRも地域の一員となり、地域のみなさま同士がコミュニケーションをとって繋がり合う。こうした見えない部分での「挨拶しあう関係づくり」を生んでいくことが目的で、その繋がりの証として何か見えるものを残すためにホップやビールがありました。

途中でやめたらコミュニティじゃない

樋口:
近年「コミュニティ」の重要性はより指摘されており、全国各地、ひいては世界中で様々な取り組みが試みられています。東邦レオさんはグリーンを起点にして様々な地域のコミュニティづくりをサポートするなかで、コミュニティや文化を形成するために運営側はどのような役割を果たすべきだと考えていますか?

田中:
僕の答えはシンプルで、絶対にやめないことです。コミュニティは非日常的なイベントをどれだけつくってもしかたがありません。大企業のコミュニティ活動は瞬間的に注目されますが、たわいもない日常の会話を生む風景をいかにつくっていくかのほうが重要です。とにかく会話量とそれを生む接点がたくさんあることが大切で、コミュニケーションは質より量なんです。それを途中でやめたらコミュニティではないですよ。日常とそれが積み重なった歴史がコミュニティなんですから。

樋口:
わたし自身、何より企業としての「取り組み」を超えて、いち個人として地域の方々と接するなかで皆様の温かさに触れ、街を好きになりました。そうするとこのひとたちを絶対にがっかりさせたくないと思いますよね。ひとりの人間として地域の日常に接していくことで、結果的にJR東日本のような開発側の企業の「やめない」という責任の果たし方に繋がっていくのだと思います。

田中:
大企業のコミュニティ活動であればあるほど、「わたしたちは絶対にやめません」という意思と、それが現場の人間まで貫かれた責任ある組織体制である必要がありますし、設計・コンサル・場所貸しだけではなく運営まで長期的にコミットすることを考える。これらがコミュニティをつくろうとする側の役割であり責任です。

ただ一方で、企業としてはコミュニティに永遠に居続けられるわけではありませんから、徐々に黒子になっていく必要もあります。コミュニティは誰のものかと考えたとき、言うまでもなくその場所に根付く人たちのものであり、地域の風を浴びてらっしゃる方々の力強さは我々の比ではありません。地域の方々が自ら楽しむために、自走する祭りのような取り組みになっていくのがベストですよね。「場を担う人たちにバトンを託していきながら、わたしたちもやめません」。そうした態度と行動が絶対に必要です。

樋口:
いまは東邦レオの皆さんとJRが先導してコミュニティ活動を進めていますが、ゆくゆくはこのエリアの開発事業者としてのJRではなく、地域のいち企業、いち個人として、皆さんといっしょにコミュニティ活動を進めていく地域のメンバーになれたらと思っています。そうした意味で、自走する活動にしていきたいですね。

「続けていく」ために、JR東日本ができること

樋口:
たくさんの接点をつくってコミュニケーションの総量を増やし、かつそれを絶やさないこと。そのためには地域にとっての窓口となる「JRの顔」が存在することがとても重要だと感じます。わたしたちのような開発側の企業と地域の方々の間には、当然ながら最初は一線が引かれているというか、壁があると思うんです。だからこそ、開発側であるJR東日本が顔の見える存在である必要があります。

ホップコミュニティ活動でいえば、この1年、現場の人間であるわたしがあらゆるところに顔を出して会話をし、共同作業をして盛り上がりながら「いつものJRの樋口さん」と認識してもらえるようになったと思います。

画像6

田中:
一方で、積み重ねた繋がりや関係性を継続していくことの難しさもありますよね。

樋口:
そうなんです。JR東日本のような規模で、かつインフラ事業を担う企業だからこそ長期的な取り組みができる強みがある一方で、たとえば人事異動などでこれまで積み重ねたものが簡単にリセットされてしまう可能性がありますし、これは都市開発やまちづくりの大きな課題のひとつでもあると思います。

わたしの場合は前任の担当者が本当に丁寧に引き継いでくれましたから、この流れを絶対に止めてはいけないと思っています。田中さんの「永遠に担当者がいるわけではない」という言葉はおっしゃる通りです。プロジェクトに携わってくれた方々の思いまで含めた継承の仕組みを社内でもつくり、培ったものをわたしたちのなかでも繋いでいかなければならない。そこまでが「続ける責任」の果たし方なのだと思います。

ホップコミュニティ活動、今後の展望

田中:
1年を通した第1期の取り組みを終えて、地域の参加者のリアクションはどのようなものでしたか?

樋口:
ホップの栽培なんて地域のみなさまは当然誰もやったことがありませんし、当初は戸惑いもあったと思います。第1期は比較的こちらから提案することで不安なく参加できるように進めていたのですが、次第に参加者のみなさんからの意見が積極的に出てくるようになり、最終的にはとてもポジティブな結果を得られたと感じています。

画像7

「今度学校の授業を一緒にやりましょう」といった会話があったりと、ホップで生まれた繋がりが外に飛び出していく瞬間が多くありました。繋がりを生むきっかけのひとつに既になれているというのが一番の成果でしたね。それが目的のひとつでしたから。

田中:
ただ、これをもっと広げていかないと意味がないですよね。

樋口:
そうですね。次期に向けてお声がけもはじめています。第1期はトライアルということで、これまでお付き合いのあった高輪エリアの事業者・学校にお声がけしたのですが、第2期は商店街やいち住民のみなさまなど、地域に根づいた方々にも裾野を広げてお声がけしたいと考えています。

田中:
町内会、商店街、マンションの管理組合のみなさんは継続的な地域の関係づくりを日々考えてらっしゃる方々ですから、そういった方々にホップを使っていただけたら嬉しいですよね。

また、ビールづくり(醸造)も参加者のみなさんに関わってもらうのがベストではありましたが、パンデミックにより叶いませんでした。フィジカルなコミュニケーションをプロセスのなかにもっと組み込んでいきたいですね。理想は地域のみなさんと大阪に行って醸造を行うことです。

樋口:
これはあくまで僕の思いなのですが、ホップコミュニティ活動の目的である有機的な繋がりの輪を広げたその先に、ホップづくりが地域の住民の方々の間で勝手に広まっていくことが理想です。

候補⑥

住人間でホップの苗を譲り合って高輪中でホップが栽培され、街にできた醸造所に収穫したホップを持ち込んでビールができあがる。あたらしい街の街区にある公園でみんなで乾杯し、余ったものは地域の商店で販売する。余った瓶は再利用して何かに活用する。こうした高輪の名物として循環する未来がきたらいいなと思います。

田中:
町内会・商店街・地域対抗の品評会が開催されるまでになったら面白いですよね。

樋口:
そうした個人の小さな思いや地域の願いもJRとして紡いでいきながら、少しずつ自走していくプロジェクトにしていき、新参者のJR東日本にできる地域のコミュニティづくりのサポートをしたいと考えています。そこに向けて、第2期はターニングポイントになると考えていますから、是非様々な地域の方々に参加していただきたいです。

取材・構成:和田拓也
撮影:山口雄太郎
ディレクション:黒鳥社

#TokyoYard #TokyoYardPROJECT #高輪ゲートウェイ駅 #まちづくり #東京  #hop #ホップ #TAKANAWAHOPWAY #コミュニケーション #コミュニティ #ホップコミュニティ #地域連携 #ビール #ビールづくり #クラフトビール

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?