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突然ショートショート「店員の秘密」

 意味もなく街をぶらつくと、新たな発見が生まれることがある。
 例えばこのお店。普段は忙しくて通ったことのない路地の中にある小さなレストランなのだが、実は秘密があるのだ。

 木製の扉を開けると、上につけられていた鈴がチリンチリンと音を鳴らす。
 店員として働いている彼と目が合う。

「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ!」

 優しいしっとりとした声の彼にペコっとお辞儀をしてから、私は店のやや中程の位置にある席に座った。
 横からはキッチンで料理を作っているのが見える。

「ご注文はどうされますか?」

 先程の彼がやってきて、注文を聞いてきた。
 近くで見た様子はまるでアイドルグループの一員みたいだ。このままテレビに出ていてもおかしくなさそうだが、それもそのはず。

 この店番、実は本物のアイドルグループのメンバーなのである。
 テレビの仕事も本当にあるのだが、ギャラが少なくていろいろと辛いというのでこの店でも働いているのだという。

 見た目に似合わず苦労していて、それをあえて隠さないのが面白い。
 そんな彼を私は気に入っているのだが、その思いが伝わるのかはわからない。

 別に『アイドルの秘密の恋人』というシチュエーションに憧れている訳ではないから、そういうのはいらないのだ。
 さぁ、注文していたナポリタンがやってきた。
 これを食べたら長居は禁物。再び街をぶらつくとしよう。

(完)(565文字)


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