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Story of Kanoso#42「ヨブン・アイディアル」

 それは突然のことだった。
美術の授業で粘土細工をしていたら、100均ショップにて間に合わせで買った粘土が、余ったのだ。
どうすればいいのか、私は途方に暮れた。

 余った粘土とにらめっこしていると、すぐに先生がやってきた。

 「おや、桑野くわのさん、出来たんですか?」
「えっ?ええ。まぁ」その場を取り繕う。
「じゃあ感想のプリントあるから、書いてよ」
「え?あっ、はい。わかりました」

 感想など書いている時間はない。
これは紙粘土だから時間がたてば乾いてただのオブジェになってしまうのだ。

 考えろ、私。
この余分な粘土の理想の活用法を、粘土が乾いてしまう前に。

 時を忘れるほど時間がたった気がする。
こんな少量の余分では今更もう一作作れる訳がないし、すでに粘土が乾きだしている。なんだか硬い。

 理想の活用法を考えていると、気づけば授業時間があと20分となっていた。
そんな中で、私は何を思ったのか、粘土を理想の形状に整形するために水道に向かい、手に冷たい水道水を纏わせた。

 水が染みた手で、相当硬くなった余分な粘土に触れ、ギュっと力を加えて必死にこねる。
少しずつ柔らかくなってきたが、まだまだ硬い。
そこで私は、水道水を粘土に直接浴びせた。
 もっと柔らかくなったが、なんだかスベスベして扱いにくい。
粘土に全ての力をかけて、ギュっとこねる。なんだかいい形になってきた。

そして、それはとうとう完成した。
 この粘土の理想の姿を見つけたのである。
 私は最後に、粘土に絵の具で色を塗ることにしようとしたが、あいにく絵の具を忘れていて、白いままでごまかす事にした。
 「おーい、終わりだぞ。起立って」横から星野ほしの君の野太い声がする。
私は慌てて立ち上がり、この日の美術の授業を終えた。

 私は理想の姿…そう「箸置き」となった余分な粘土をブレザーのポケットに忍ばせて、教室へ歩みを進めた。

(了)(781文字)


あとがき

 今回は美術の授業が舞台。
余分な紙粘土って、皆さんどうしてました?
ジブンは袋に入れてました。
そして結局硬くなるという(笑)
 粘土は使える分だけ出しましょう(だけど中々使える分だけ出しにくいのが本音)。

 さて、今回のタイトルはガルパで以前やっていたイベントから採らせて頂きました。
「ジブン・アイディアル」という名前のものです。2019年1月開催。
 推しがメインのイベントだったもので、印象に残ってまして、それがある日「ヨブン・アイディアル」というタイトルを思い付いたきっかけになったのです。
そしてそこから本作の制作に及びました。

 タイトルはCanvaで作った自信作。
ロゴが斜めになっていると何だかカッコいいんですよね~、フヘヘ(笑)。

Writen in the commuter train“1622“(Operated by Kintetsu Railway)


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本作品はフィクションで、実在する人物・地名・各種団体や企業等とは、一切の関係がありません。



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