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突然ショートショート「ちょっとだけ」

 とある駅で電車を待つ。電車が出発してすぐのことだ。
 乗車位置の行列の先頭に並べることぐらいしか利点がない。およそ5分程待たされる。
 その時間、何をするか。取りあえずスマホを起動してみるが、最新のニュースは見尽くした。
 ゲームをしようにも、隙間時間でできるようなゲームはダウンロードしていない。

 スマホをバッグの中にしまって、電車のくる気配の無い線路を見つめてみる。
 こうしていると、実に静かで、ちょっとだけフラッとなら降り立てそうな気もする。
 危ないこととはわかっているのに、ちょっとだけなら、と。

 本当に『ちょっとだけ』。
 恐ろしいけども、どうなるのか気になってしまう。

 そう思いながらチラチラと辺りを見回すと、奥の方に2つの光が見えた。
 電車がもうじき来るんだ。もう降り立ってはいけない。

 そう思うと、不思議とあの辺りに降り立った私の幻影が見えてくる。
 そして電車が私の目の前を通ると、それは消えていった。

 もし、この『ちょっとだけ』が叶ったらどうなるのだろう。
 電車に乗り込むと、その考えはあっという間に消えていった。

(完)(448文字)


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