マネキン

ここはどこなんだ

何も見えない

それに

身動きも出来ない

私は・・・

そうだ

妻と買い物に来ていたんだ

そして

妻が買い物をしている間に

私は紳士服売り場の

ソファーに座って

若い人たちの着る

はやりの服を見ていたんだ

ううっ

それにしてもこの体勢はきつい

私は考えていた

年老いた私でも

もう一度

あんな服を着て

青空の下へ飛び出したい

だが、私には

あんな服は似合わない

背も低く、足も短く

髪は薄く、腹も出て

あの明るい色の服を着こなして

颯爽と立っている

あのマネキンの様になりたい

そう思った

そして私は今

真っ暗な闇の中に立っている

人々の話し声や笑い声が聞こえる

誰か助けてくれ!

だが私の声は誰にも届かない

「お待たせ」

すぐそばで聞きなれた声

紛れもなく妻の声だ

そして

聞きなれない男の声

妻と男が笑い合っているのが聞こえる

「新婚旅行はどこがいい?」

「私、やっぱりハワイがいいわ」

新婚旅行?

私の心に結婚前の

妻との会話が蘇る

「私、やっぱりハワイがいいわ」

あの時確かに妻はこう答えた

私はすべてを理解した

私は紳士服売り場のマネキン

そして私の周りの世界は

何十年も前の

私たちが若かった頃の世界

「それじゃあ行こうか」

若き日の私と妻が立ち去ってゆく

待ってくれ!

だが私の叫びは声にならない

私は紳士服売り場のマネキン

暗闇の中でポーズをとり

はやりの服を着て客の目を引く

そして待ち続ける

私になり代わったあの男が

いつか年老いてここのソファーに座り

颯爽とした私の姿を見て

私の様になりたいと願う日を

じっと・・・

皆様、

新年明けましておめでとうございます

昨年後半はなかなか時間がとれず

ご無沙汰ばかり致しておりました

今年は時間の許す限り

お邪魔したいと思っておりますので

どうぞよろしくお願いします

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