豆の木

天高く伸びる豆の木を

僕は登り始めた

二階の窓から八つぁんが手を振る

僕はそれに構わず登り続ける

銭湯の煙突の煙にむせながら

さらに登り続ける

飛行機のパイロットが

驚きの表情で操縦桿を傾けた

僕は眉一つ動かさず登り続ける

宇宙ステーションの乗組員たち

みんなが僕を指差している

見て見ぬ振りで僕は登ってゆく

僕のすぐ脇を隕石がかすめる

さらに登ると

太陽に近付いてきたから

暑くなった僕は

急いで太陽から遠ざかるべく

登るスピードを上げてゆく

ブラックホールへ吸い込まれている

枝とは反対側の枝を登り

宇宙の果ての立て札の向こうに

張り巡らされた有刺鉄線をくぐり

宇宙の外側に出た

豆の木はここで大きくカーブし

有刺鉄線の向こうの宇宙へと伸びていた

ここがやっと折り返し点

豆の木登りマラソンの

参加者は僕一人

みんなの反対を押しきって

参加したのだけれど

参加しなきゃよかった

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