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題:ゲーテ著 木村直司訳「色彩論」を読んで

ゲーテとは多彩な才能を持つ人であって、本書は科学的な箴言形式の色彩に関する著書である。結論から述べると、色と感情との関係などが客観的に書かれて興味深いけれども、どうもあまり読む気が起こらずにさっと眺めただけである。並行して、モーリス・メルロ=ポンティの「知覚の哲学」を読んでいて、こちらの方には、解説者がこの「色彩論」を取り上げ、メルロ=ポンティの知覚の哲学に、何らかの影響を与えた記述があったように思われる。この「知覚の哲学」の方が面白い。色彩と感情との関連以上に、知覚とこの世界や人間存在、つまり心や体との関係が記述されているためである。

さて、この「色彩論」は大きく分けて「科学的方法論」と「教示論」の二つから構成される、約500頁弱の本である。「科学的方法論」では、カントの著書「純粋理性批判」などの哲学やニュートンの著書「光学」などについて、経験や科学、自然の面から自らの意見を述べている。光や偏光の概念を否定し、ニュートンの理論を批判しているのは意外である。どうもゲーテの科学論は手法等に問題を孕んでいて、あまり評価されていないようである。ずっと以前、どういう著書であったか忘れたが、日本の科学者がプリズムに光を当て分光して、照らし出された色彩を見て、涙が自然と溢れたとの記述があったことを思い出す。涙の源が、この自然の仕組みに対する感動であったのか、遥かな昔のニュートンに思いを馳せたためか分からないが、自然に溢れて出くる涙を、なぜかとても理解できる。

「科学的方法論」は約100頁と短いのに対して、「教示論」は約400頁と長い。光、色彩と目の機能との関連から始まり、目との反作用なる生理的色彩、無色もしくは半透明など物理的媒介を介した物理的色彩、対象そのものに属している化学的色彩と分類して、なおかつ色彩の感覚的精神作用などについて論じている。黄色、赤色、青色、緑色、これらの混合色について知覚された色彩が及ぼす精神作用は関心をそそる。でも、これらの文章は、色彩そのものと精神との関連が必要とされた時に読みたい。文章があまり魅力的でないためである。

訳者によると、この「色彩論」が不評だったのは、近代科学の手法を用いていないこと、物理的な判断の誤り、ニュートンへの攻撃の三点をあげている。近年物理的正しさを記述しているとの再評価の機運もあるとのことであるが、ゲーテその人を知ろうとしているのかもしれず良く分からない。いったいゲーテとは何者なのだろう。「ゲーテ詩集」は持っているが読んでいない。「若きウェルテルの悩み」は読んだが忘れた。「ファウスト」はたぶん読んでいない。よくゲーテとダンテを間違えるが、ダンテが若くして死んだ人妻ベアトリーチェを描いた「神曲」の方に関心がある。単なる憶測であるが、ダンテとベアトリーチェの関係は夏目漱石と大塚楠緒子の関係と同じに違いない。ただ、ベアトリーチェは永遠の女性であるけれども、漱石には「清」と「清子」を除いては、永遠の女性はいずに我の強い女性が描かれている。

いずれにせよ、色彩には心が引かれる。きっと好ましい色彩は心を豊かにする。

以上

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読書感想文

詩や小説に哲学の好きな者です。表現主義、超現実主義など。哲学的には、生の哲学、脱ポスト構造主義など。記紀歌謡や夏目漱石などに、詩人では白石かずこや吉岡実など。フランツ・カフカやサミュエル・ベケットやアンドレ・ブルドンに、哲学者はアンリ・ベルグソンやジル・ドゥルーズなどに傾斜。