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こんにち

東京と反対方面を行く電車を降りると、ホームの向こうには空があった。
夕焼けが綺麗だ、という言葉が夕焼けをありきたりにしてしまいそうで綺麗だ、の一言が喉に詰まってしまった。
電信柱の群れから高層マンションが顔を出している。
帰り道、考えだけが永遠に巡った。
考えない時間が一瞬たりともない。
久々に聴いた音楽のこと、後悔、遠慮、1日の走馬灯の中で1人ずつ腹を探る。
一生かさぶたができない。自動車や自転車が薄暗い高架下を駆けていく。

気づけば大通り沿いのマンションの前。
ポストを確認してラーメン屋の広告を読まずに捨てる。鍵を開け何も考えず、全てに消毒液を浴びせる。何も考えていない。
バラエティ番組が妙に笑えて涙を流しながら笑う。急に全てがストップしてベッドに倒れ込んだ。SNSのタイムラインを流しそうめん風に流す。昨日の砂糖は今日の猛毒である。
ここでまた1人ずつ腹を探り、比較して、自分は何を甘ったれて生きているのだ、もっと苦しい環境の人はごまんといるぞ贅沢ものが、と自分の腹と心臓を何度も刃物で刺す。これがまたかなり痛い。
何もしたくない、という字面をよく見かけるが、本当に何もしたくない。何もしたくないって言いながら7:30、東京方面の電車に乗った。
駅のホームの先には空があった。


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