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[短編]神の余香[White]

目にも見えず耳にも聞こえない
そんな神が現れても気づきようがないが
一説によると 立ち去った後には
えもいわれぬよい香りがするという

まさか料理のにおいではないだろうから
香水やお香のようなものかと思うが
それらだって たいていは
相手にわかるように使われているので
「余香」とは云い難い

あと思い浮かんだのは森だ
いい香がたちこめている時がある
特定の場所と云うより
季節や湿度との兼ね合だと思うのだが
押しつけがましいところがなく
じつに心地よい

と、柄にもないことを話したのは
こんな記事を見かけたたからだ

例の試験薬、
動物実験では六回後の死亡率が100%だった。
だから、そのことを知った人たちは
忌避したし、周囲にも報せて回った

しかし、セーフやママコミのキャンペーンは
すさまじく八割の人たちが治験に参加した
六回コンプリートした人も二割近くにのぼったという

ところが、その人たちがどうなっているか?
超過死亡者は単年度で十万を超えたが
コンプリート者は五百万人以上だから
まったく計算が合わない
その事実をどう考えるか?

試験薬の大半には
肝心の成分が入っていなかったという見方もある
何しろ治験中のものだ
いろんな種類を同時にテストするのが普通だ
特に、動物実験で最悪の結果が出た成分については
本来中止すべきであって、テストするにしても
ごくごく一部にとどめたとしても不思議はない

その一方で、こんな見方をしている人もいた
「人間は強すぎる」と。
一見、マンガのような解釈だが
何しろ動物実験では最悪の結果が出ている
動物から見れば、「人間、不死身過ぎ!」だ

ただ、五百万人以上もの人が
揃いも揃って「不死身」ということがあるだろうか?

というか「不死」となると「神」の領域である

「神」?

そこまで考えて もしやと気がついた
致死率100%の試験薬
それを無効にした者がいるとすれば
そんなことが出来る存在と云えば
「神」以外には あり得ない!

教会に通う習慣のないオレでもそう思う

思えばオレは「神」には鈍感だったが
「悪」には過敏なところがあった
今回の治験についても
「悪」のニオイを嗅ぎ取っていた

ところが統計的結果が示しているのは
多くの人々が大事に至らなかったという事実だ

痛ましい犠牲者は出ているが
動物実験と比較すれば奇跡のような結果である
「悪」の企みは退けられたのである

悪臭はなお、たちこめているが
芳香に気づかないと云うのはどうかしている

遅効性副作用もあるので楽観はできないが
時間的猶予が与えられたことは確かであり
このチャンスを生かさねばバチが当たる!
いや、それが救い主への感謝というものだ

神の余香の消えぬうち…



見出し画像は、cectne9さんの作品です。
ありがどうございました。

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