歩道の哲人

【話】歩道の哲人


とある朝、駅から会社への出勤途中でのこと。
上半身裸の男が歩道にあぐらをかいて座っていた。

ボサボサの長髪、垢だらけの日焼けした背中。
いわゆる「浮浪者」に違いない、と思った。

広いとは言え、わざわざ歩道の真ん中。

通勤通学の人通りが激しいというのに
まるで無視。

こういう人にかかわってはいけない、と思った。

その浮浪者の脇を素通りしようとしながら 
チラリと見て、思わず立ち止まりそうになった。

歩道の浮浪者は食事中であった。
茶碗と箸を使い、朝ご飯を食べていた。

炊き立てらしく、湯気が見える。

手前には炭火コンロというのか
七輪が置かれ、載せた金網の上で魚を焼いていた。

青い煙が昇り、うまそうな匂いもする。

味噌汁の椀などもあったかもしれないが
それを確認するほど心の余裕はなかった。

本当に驚いてしまった。
まわりの通行人たちも呆れ顔である。

その浮浪者の横顔はまだ若そうだった。

とりあえず会社に着いてしまった。
同僚に確認せずにいられない。

「あれ、見たか?」
「うん。見た見た」

「なんだろうな、あれ」
「さあ、わからんな」

「われ思うに、あれは哲人ではないかな」
「浮浪者の哲人か」

「うん。ちょっと哲学をやりすぎた方なんだよ」
「なるほど」

あの歩道の先には有名な国立大学があった。
あるいは、現役の哲学科の学生かもしれない。

「おれなんか、今朝は立ち食いソバだ」
「おれなんか、朝食抜きだよ」

そして、同僚と顔を見合わせ 
いかにも俗人らしく、ため息をついたのだった。


[ 補足 ]

1983年前後。
東京都文京区湯島一丁目、東京医科歯科大学の前、
御茶ノ水橋から東京大学へ向かう外堀通りの外堀側の歩道にて。


Philosopher of the Sidewalk


One morning, on the way to work
from the station to the company.

A man whose upper body was naked was sitting
with a cuff in the sidewalk.

Like a bird's nest long-haired, plain sunburned back.
I thought that it must be a so-called "tramp".

Although it is wide, it bothers the middle of the sidewalk.

Although he was intensely busy commuting to school,
he ignored us as thought.

I thought that I should not be involved in these people.

While trying to pass by the tramp,
I looked like a chill and seemed to stop waiting.

The vagabond on the sidewalk was under meal.
He used a tea bowl and chopsticks and ate breakfast.

It seemed to cook, I saw a steam.

A charcoal stove was placed in front of him,
and he was baking fish on the wire mesh that he carried.

Blue smoke rises, it smells an odor.

There might have been bowls of miso soup,
but there was not enough mind to confirm it.

I was really surprised.
Pedestrians around are also amused.

The profile of the tramp was still young.

I got to the company for the time being.
I can not help my colleague to confirm.

"Did you see that?"
"Yeah, I saw it."

"What is it, that?"
"Come now, do not know."

"I think he is a philosopher."
"Phoenix of a tramp?"

"Yeah, he's a bit over philosophy."
"I see."

Beyond that sidewalk there was a famous national university.
Or maybe a student of the active philosophy department.

"What I ate this morning is buckwheat noodles."
"I am without breakfast."

And we were looked at each other,
we were sighing like an ordinary man.


[ Supplement ]

Around 1983.
Yushima 1-chome, Bunkyo-ku, Tokyo,
in front of Tokyo Medical and Dental University,
At the footpath on the outer moat side of the outer moat street
from Ochanomizu Bridge to the University of Tokyo.

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コメント4件

実話だったのですね。
yayaさんへ★ 今でも居たりしてね。
その時の状況が目に浮かびます 昔浮浪者をよく見かけました 彼らは時に歌を歌っていたり食事をしていたり その度に何か気になって仕方なかったです
ちーのさんへ★ ちょっと憧れたりもして
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