クレバス

クレバス


殺風景な氷原を歩いていた。
白夜の空の下には氷原しかなかった。

歩いても歩いても殺風景な氷原を
ただ歩き続けるしかないのだった。

まるで立ち止まっているみたいだった。
それでも黙々と歩き続けた。

疲労感はなく、空腹なのに食欲も湧かない。
さびしいとも思わなくなっていた。

どこまでもどこまでも殺風景な氷原を
ただ歩き続けるしかなかった。

やがて、不意に変化があった。

クレバスだ。
氷原が裂けていた。

かなり大きく裂けていた。
縁に立って見下ろすと、めまいがした。

跳び越すことはできそうもない。
橋を架けるような材料も道具もなかった。

迂回するしか方法がないようだ。

とりあえず右へ曲がってみた。
クレバスを左手に見ながら歩き始めた。

しばらく歩き続けた。
クレバスはなかなか終わらない。

いや。
むしろ幅が広がったように思えた。

悪い方向に進んでいるような気がしてきた。
ついに諦め、途中で引き返した。

クレバスを右手に見ながら歩き始めた。

曲がった地点を越え、さらに歩き続けた。
クレバスはなかなか終わらない。

いや。
むしろ幅が広がったように思えた。

悪い方向に進んでいるような気がしてきた。
ついに諦め、立ち止まった。

クレバスの前で立ちつくしてしまう。

跳び越すことはできない。
迂回することもできない。

ついに氷原を進むことができなくなった。
もうなにも考えられないのだった。

左右に果てしなく裂けたクレバス。

クレバスの向こう側にも氷原が見える。
どこまでもどこまでも殺風景な氷原が続く。

白夜の空も似たようなものだった。
これまで歩き続けた風景と同じだった。

なんとなく想像してみた。
向こう側の氷原を歩く男の姿を。

男は殺風景な氷原を歩き続ける。
こちらへ向かって黙々と歩き続ける。

やがて男はクレバスの前に立ち止まる。
クレバスの向こう側に立ちつくす男の姿。

まったく同じ境遇ではないか。
あの男は氷原を進むことができない。

クレバスを越えたいのに越えられない。
向こう側からこちら側に越えられない。

越えられない? 
こちら側に越えられない? 

そうだろうか? 

もう越えているではないか。
すでにクレバスのこちら側に立っている。

同じではないか。

向こう側からこちら側に越えても。
こちら側から向こう側に越えても。

そうだ。
まるで同じことなんだ。

もうクレバスを越えていたんだ!
ひどく感動してしまった。

そのままクレバスに背を向ける。

目の前には氷原が広がっていた。
果てしなく殺風景な氷原だった。

振り返り、クレバスの向こう側を見た。
やはり、果てしなく殺風景な氷原だ。

なにもかも同じなのだった。

越えたつもりのクレバスに背を向け 
ふたたび歩き始めた。

そのまま振り返りもせず 

どこまでもどこまでも殺風景な氷原を 
歩いても歩いても殺風景な氷原を 

ただ黙々と歩き続けるのだった。


Crevasse


I was walking on a stormy ice field.
There was only an ice field under the white night sky.

No matter how long I walked, the stormy ice field,
I just had to keep walking.

It looked like it stopped.
Still I kept on walking silently.

I do not feel exhausted,
I do not feel appetite though I am hungry.

I did not even feel lonely.

I had no choice but to keep walking
on a stormy ice field anywhere and anywhere.

Eventually, there was a sudden change.

Crevasse.
The ice field was torn.

It was split quite large.
When I looked down at the edge, I felt dizzy.

I am unlikely to be able to jump over.
There were no materials or tools to build a bridge.

There seems to be no alternative way to bypass.

I tried turning to the right for the time being.
I started walking watching Crevasse on the left side.

I kept on walking for a while.
Crevasse does not end easily.

It is not so much.
It seemed rather wide width.

I felt like I was going in a bad direction.
I finally gave up and I turned back on the way.

I started walking watching Crevasse on the right side.

I crossed the bent point and continued walking further.
Crevasse does not end easily.

It is not so much.
It seemed rather wide width.

I felt like I was going in a bad direction.
I finally gave up, I stopped.

I stood in front of Crevasse.

I can not jump over.
I can not even detour.

Finally I could not move on the ice field.
I could not think anything anymore.

Crevasse ripped endlessly to the left and right.

Also beyond the crevasse I can see the ice field.
The stormy ice field continues wherever and wherever.

The white night sky was similar.
It was the same as the landscape that I have been walking.

Somehow imagined it.
The figure of a man walking on the other side of the ice field.

The man keeps walking in a stormy ice field.
Keep walking silently towards this place.

Eventually the man stopped in front of Crevasse.
The figure of a man standing on the other side of Crevasse.

Is not he the same as me at all?
That man can not go through the ice field.

He wants to cross Crevasse but can not go over it.
He can not cross this side from the other side.

Can not get over it?
Can not get over this side?

Is it so?

Is not it already over?
Already standing on this side of Crevasse.

Is not it the same?

Even if it crosses from the other side to this side.
Even if it crosses from this side to the far side.

That's it.
It's the same thing.

I have already crossed Crevasse!
I was deeply impressed.

I will turn my back against Crevass as it is.

The ice field was spreading in front of my eyes.
It was an endlessly stormy ice field.

In retrospect, I saw the other side of Crevasse.
After all, it is an endless icy field.

Everything was the same.

I turned my back on crevasse
I planned to overcome and began to walk again.

Without looking back,
I kept walking quietly just a silly ice field,
no matter where I walked,
but a stormy ice field even if I walked.

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Tome館長

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箱夢の話集 第二集

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コメント4件

凄く好きです。ドキドキしながら読ませて頂きました。更なる想像が膨らんできます。
makotoさんの音声聴くまで 「クレバス」じゃなくて「クレパス」だと思っていましたwww
イーグルフェロモンさんへ★ 歩くことは,制作に似ていますね。
yayaさんへ★ イメージからして「V」なので、正確には「クレヴァス」かもね。
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