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"Kyoto Pustar ut | 京都の息づかい"

先日スウェーデンのデザイン誌”RUM”に掲載されたインタビュー原文を貼っておきます。それはある日の昼下がり、スウェーデン人の記者からいきなりメールで執筆依頼。なんでもコロナ前にAirbnbで個人的にやっていた京都の建築ツアーから個人のウェブサイトを辿って連絡を下さった模様。

「観光客の消えた京都の抱える”矛盾を抱えた”静けさ」を現地デザイナーとしてリポートして欲しい、と。めちゃめちゃ書きたい内容、そしてそれをスウェーデンのデザイン誌が特集組もうって時点でどれだけニッチで尖った視点で編集されてるかが伝わってきて嬉しくなった。

それから送られてきた質問はどれも考えさせられる内容で、京都の友人たちと話し合いながら回答を送りその数ヶ月後、実際に発刊された雑誌の電子データが届いた。

10ページ以上に及ぶ特集の中で並ぶもう1人のインタビュー相手は建築家の隈研吾さんで、改めてその名前と自分の名前が英語で並んでいることに不思議さを感じながらも、結果的に言いたかったことがきちんと掲載されていて、きちんと考えて書いてよかったなと。

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今回はせっかくなのでその原文内容をここに置いておこうと思います。雑誌はすべてスウェーデン語なので、実際の誌面は記事の最後にpdfリンクを貼っときます。ここで公表するのはその元となっている実際に送られてきた質問と、僕の回答です。(以下インタビュー)

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Kyoto Pustar ut | 京都の息づかい

02.FEB.2021

Interviewer: Erik Augustin Palm

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Q1.

Erik : デザインや建築の舞台としての京都は、古代の建造物や遺跡、寺院、そして現代の建築物があり、それらが無理なく調和している点が特徴的であり、刺激的であると思いますが、いかがでしょうか。

野村 :  現代京都の街並みにおいて古典的な建築と現代的な建築がすんなりと融合しているかは定かではありませんが、少なくとも両者は混在しつつも、適切な距離を保っていることが多いように感じます。特に地域の銭湯や寺院といった場所のように地域住民にとって非常に馴染みの場所でありつつも、数多くの伝統的な構造、デザイン、モチーフに触れられる場所が都市の中に密集して存在しているという点においては独特であると言えると思います。しかしながらそうした場所が、オーバーツーリズムや保護システムの不備によって年々急激に数を減らしているということもまた事実です。また、京都に新しくデザインされる建築やデザインはその土地の歴史的背景や周囲の関係に特に関心を払って、むしろ溶け込むように作られることが一般的だと思います。

Q2.

Erik : 企画・主宰されている京都の隠れた名建築を巡るツアーのコンセプトを教えてください。いつから始めたのですか?最もやりがいを感じたことは何ですか?観光客がツアー中に最も感銘を受けることは何ですか?

野村 :  私はKyoto hidden architecture tourを2018年1月に始めました。京都の東山地区に伝統建築、モダン建築、そして現代建築のアイコンが集積していることに注目し、それらを建築の歴史のハイライトとして紹介する徒歩でのツアーをおこなっています。それと同時に、京都の街並みの急激な変化とその功罪についてさまざまな人々と議論することも大きな目的の一つです。私にとってこのツアーをおこなうことの最も大きなメリットは、建築やデザインに関心が深い人々と、実例を実際に目にしながら深い洞察をもって都市の文化的で持続的な発展について意見を交わすことができる点です。ツアーに参加した方々にとっての最も大きな価値は、ただ京都の街をストロールするだけでは理解することが難しい、京都という観光都市の歴史的背景とその都市的発展の変遷を辿ることができることだと思います。

Q3.

Erik : パンデミックの間も、Airbnbを利用した京都の隠れた建築物を巡るツアーを、国内の観光客向けに継続して提供されていますか?もしそうであれば、その様子を教えてください。このことは、京都の建築や都市の体験にどのような影響を与えたのでしょうか。

野村 : 昨年の2月以降ツアーをおこなうことはやめました。私にとってはツアーは京都の都市的発展に対する外部的な視点を得る窓の様なものだったからです。代わりに、そこで得た知見や思考を基に京都の文化的な持続的発展のためのデザインと研究に注力するようになりました。京都がツーリズムの喧騒から離れて落ち着きを(おそらく私の人生で初めて)取り戻すことは、個人的にはとても喜ばしいことです。おそらく京都の人々にとってもある種の場当たり的な開発で観光客を満足させるサービスとしての観光業を見直すきっかけになっているのではないでしょうか。そして実際に観光業セクターの人々も新しい地域との関わり方を模索する動きを実際に始めていると思います。一方で私たちはこの懐古的な静けさがずっと続くとは思っていませんし、観光などの外部的な視点がもたらす批評性もまた重要なものであると考えています。

Q4.

Erik : 一般的なイメージでは、京都は奥深さ、内省、静けさを意味しますが、通常の観光客が殺到する京都では、実際にはそのような雰囲気に触れることは難しいでしょう。京都がこのように認識されるようになったことについて、あなたはどのようにお考えですか、もしかしたら私たちの人生で初めてのことかもしれません。また、このことが京都にとって今後どのようなプラス面があるとお考えですか?

野村 : 京都を訪れた観光客の人々が、京都の一般的なイメージであるそうした価値に触れることが難しかったということは事実であると思います。実際それが私のツアーが必要とされていた理由の最も大きな部分であったと思います。観光客の激減した現在の京都でそうした価値がより触れやすくなっていることもまた事実でしょう。しかし先にも述べましたが、京都という都市が観光業の大部分を失ったという事実は結果として都市的にポジティブなことであると捉えています。観光業が盛んであった京都は足元の数多くの問題を見てみぬ振りをしてきたと思います。伝統産業の問題、町屋消失の問題、地域コミュニティの消失など根本的に京都の観光業を支えてきた京都の真の価値をすり減らしながら、観光業を中心に据えた都市発展を志向してきたと思うのです。そしてそれは実際には非常に脆い価値を外部に向けて発信する結果となっていた様に思います。パンデミックの状況下において私を含む多くの人がより多くの「自由な考える時間」を得たことで、文化や伝統を再解釈し、そうした足元の問題に集中して取り組む契機となったように思います。それは私自身も含めて、ということです。またその結果として、私の周囲では東京などの大都市に移住していた京都出身の人々を中心として、さまざまな人々が京都で地域文化や伝統産業に関わる新しい取り組みを始める例が増えています。それは、京都にとって非常にいい兆しであると思います。

Q5.

Erik : 多くの京都人は、京都の現状について、古都の「ディズニーランド」的な側面が一時的に消滅したことや、自分たちの街を真の意味で体験できるようになったことに、両義的な感情を抱いています。一方で、観光は重要な収入源であり、多くの地元の人々が観光産業に従事しています(一部、あなたのように)。このジレンマを「解決」するために、あなた自身はどのように考えていますか?

野村 :  先に述べたように真のジレンマは現在の京都にあるのではなく、むしろこれまでの観光業のあり方にあった様に思います。現代の京都の人々にとって観光業が重要な収入であったことは間違いありませんし、実際に多くのスモールビジネスが窮地に立たされ、また一部は倒産しました。しかし一方で京都の観光業がインバウンドに占められる様になったのはそれほど時を遡ることではなく、むしろ最近のことであると言えるでしょう。そして環境の変化によってビジネスの新陳代謝が起きたこともまた事実です。これまでとは違ったやり方で国内に向けて京都の魅力を発信したり、キャリアパスを変更したり、新しい価値づくりに取り組む人々は実際に数多く存在します。私自身もツアーをやめたことでより本質的で内省的なクリエイションにより多くのリソースを集中する様になりました。観光業は遅かれ早かれおそらく何らかの形で戻ってくるでしょう、それが実際に観光客が京都に押し寄せるという形ではなくなるかもしれません。しかしこのジレンマは、むしろ解決に向かってこれまでにないスピードで動き始めていると、私は捉えています。

 Q6.

Erik : 今後5~10年の間に、京都、そしてそのデザインや建築は、現在の状況からどのような影響を受けると思いますか?現在の状況は、今後、京都地域の新しい建築やデザインのプロジェクトにどのような影響を与えると思われますか?

野村 : より内省的で、本質的な地域活動が活発になると思います。地域コミュニティ、伝統産業、住まいやウェルビーイングといったこれまで蔑ろにされてきた価値が若い人々によって見直され、デザインや建築に反映されてくると思います。また、これまでテンポラリーに京都に滞在していた外国籍の人々が本格的に移住する動きが活発化し、文化の交流もさらに深い次元で起きてくると期待しています。

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長かったのにここまで読んでくださった方、ありがとうございます。京都の観光業と都市開発について、どうやって歴史や文化とそれらのあり方をかたちづくっていくかという問題は京都だけでなく、世界中にある偉大な都市たちが対峙してきた問題です。そしてそのあり方は、このパンデミックを機に今まさに大きく、おそらく不可逆的に変化しています。そのことについて客観的に考え語るということを、この機会にできてまずはよかったなと。

そしてライフワークとして都市の文化や歴史、伝統といったコンテクストをどうやってかたちとして残していくか、そしてそれがある種の価値として発信していくかということは、最近の僕のライフワークの一つの軸でもあります。

まずは実践して、共有していきます。近くまたいくつかデザインプロジェクトとコミュニティ形成の取り組みも発表していきます。また皆さん話しましょう。

以上。

”RUM”のインタビュー記事↓(p71-84です。)


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