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97歳で胃瘻を作るのは正義か

97歳の女性。徐々に食事量が少なくなり、栄養剤(エンシュアやメイバランスのような高カロリー飲料)で補助しながら何とか持ち堪えている、ADL(日常生活動作)は全介助レベル、認知症の進行により発語はほぼなく意思疎通は図れない、という人物像を想像して欲しい。

食べられない原因は「老衰」の可能性が高く、検査すれば何か病気が見つかるかもしれないが、見つけたところで超高齢のため治療は難しい事から、主治医から「お看取り」の話しをするために家族が呼び出された。

息子2人が面談に訪れた。
母は尊厳死協会に入っていたんですよ、と長男が話始めた。ああ、この始まり方は延命措置はしません、自然な形で看取りを、という結末になるだろうとその場にいた医師、ケアマネジャー、看護師は思い浮かべた。
長男は続けてこう述べた。

「母が署名していた尊厳死協会の文書を読んだのですが、緊急時の延命措置については拒否をするって書いてありました。けど、こういう場合とは違いますよね。食事がとれなくなった時にどうするかという事は書いてないんで。」
次男に確認するように顔を向けて、頷きながら
「胃瘻を作ってもらおうと思っています。」と笑顔で言った。

施設側のスタッフは全員同じ事を思っただろう。
「尊厳死協会に入っていた人なら、この場合でも延命して欲しくないだろう…しかも97歳で…もう自分の事さえ分かっていない状態なのに。」
正直、本人を可哀想に思わずにはいられなかった。

医師にもよるが、治療の方針は基本的に家族の希望が優先される。今回は、家族との軋轢は避けたい医師とまだまだ母は死なない筈だと考えている息子の思いが、この結果を出した。
面談に立ち会ったスタッフは各々思いはあるが、明確な理由なく、この場で個人の意見を出すのはタブーだ。

胃瘻からの栄養剤を受け続けた人が、最終的にどんな死に方をするか、次回。



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