2019/11/14(木)進捗をどうにかすべくファミレスで作業しようとしたものの完膚なきまでに聴覚を叩きのめされた話

 みんなーーーーー!!!

 進捗、どうですかーーーー!!!

 のっけからザラキやレベル5デスをも凌ぐといわれる大量殺戮呪文をお送りさせていただきました当記事ではございますが、皆様いかがお過ごしでしょうか? ご健勝ですか? ご機嫌麗しゅうございますか?

 わたしは、だめです。

 進捗、だめです。

 危機です。

 危機迫り、鬼気迫る。

 打開、打開が要る。

 そうだ、とりあえず、環境を変えてみよう。

 おお、それはいいアイデアだ。今までだってそれでなんとかしてきたじゃあないか。

 * * *

 と、いうわけで、作業道具をバッグに詰めこみ、最寄りのファミレスで合宿をすることにしたのです。

 まずはお得なランチセットで英気を養い、さぁさぁ、やるぞ、やってやるぞ、と、意気軒昂に作業の準備。

 作業道具をバッグから取り出し、テーブルの上に配置していく。

 さぁさぁやるぞ。やってやるぜぇ……。

 ……と、ここまではよかった、の、だが。

 なんか、周りがうるさい。

 いや、ファミレスですから、多少のおしゃべりはあって当然のこと。普段だったらわたしも気になどいたしませんとも。

 しかし……しかし、両隣のテーブルの話し声が、明らかに、でかい。

 そして、その、内容も、ちょっと、その……。

 揉めてる。

 * * *

 まず、右手のテーブル。

 こちらには、年配の男性と、年配の女性と、中年女性の3人。

 年配の男性が大家さんで、年配の女性はその大家さんから物件を借りてお店をやっている店子のよう。ちょっとカタコト気味の日本語と中国語を半々で話していたので、中国とか台湾の人なのでしょう。

 中年の女性は、西友やイトーヨーカドーの婦人服売り場のマネキンみたいな服装。おしゃれのお手本どおりという感じではあるものの、なんとなく垢抜けていないというか、古いというか、そんな雰囲気。あまり喋らず、何者なのかはよくわからない。

 で。

 この、年配の女性が、しゃべるしゃべるしゃべるしゃべる。

 日本語と中国語を織り交ぜながら、大きな声でしゃべるしゃべるしゃべるしゃべる。

 揉めている内容は、ズバリ「カネ」の模様。ひぃぃ。

 大家の男性がなにかについて「カネを払え」と要求しているのに対し、年配の女性はひたすら大声で喋りまくり、煙に巻いたり、ちょっと感情的になってみせたり、議論を堂々巡りさせたり、過去の話を蒸し返したり、重箱の隅をつついたり、話を本題からそらしたり……とまぁ、半端じゃないトークスキルを発揮している。つよい。

 あまりにもすごいので「もしかして、しゃべりにしゃべりにしゃべりまくって、大家の男性を根負けさせる作戦かな?」と予想を立ててみたのだが、どうやら果たしてそのとおりだったようで、やがて大家の男性は疲れ果てた様子で店から去っていった。

 その時、マネキンみたいな中年女性も一緒に出ていったのだが、彼女が何者だったのかは最後までわからなかった。

 まぁ、別に知る必要もないのだが。

 ……そうだよっ! 俺は出歯亀をしにきたんじゃあないっ! 作業をしにきたんだよっ!

 * * *

 さておき、こうして大家チームが去ったことで「これでようやく静かになるなぁ」とほっと一息ついたのだが、そうは問屋がおろさなかった。

 テーブルにひとり残った年配の女性。今度はスマホを手にとって、まだまだまだまだしゃべるしゃべるしゃべる。

 大声で、とにかく元気にしゃべるしゃべるしゃべるしゃべる……。

 ………………。

 いやぁ、なんというタフ・ネゴシエイター。

 なんというタフ・ウーマン。

 ある種の「話術の芸術」とでも言うべきものを見せられた気分になった。

 ……いや! 見にきたわけじゃないけど! じゃないんですけど!

 * * *

 で、揉め事はこれだけじゃあない。

 左手のテーブルも、だ。

 こちらにいるのは、年配の男女2人組。

 最初は、静かだった。

 が、とある瞬間、女性が、キレた。

 「『だろー?』ってなによ! 『だろー?』って!!!」

 おいおい、勘弁してくれぇぇぇ……。

 思いもよらぬ2発目の揉めごと爆弾の直撃に、ハートはすでに涙色である。

 そもそも、彼女はなぜ「だろー?」でキレたのか?

 どうやら、まず女性の側が、なにかしらの「うまくいかなかった話」「失敗した話」をしたらしい。

 それに対し、男性が「だろー?」と応えた。

 そして、女性がキレた。

 女性いわく「だろー?」という言葉は、その事象が実際に発生する以前にそのことについての正しい発言・予想をしていた人のみに発することが許されるものであって、事前になにもせず、発言もしていなかった人間が「後出しジャンケン」的に言うのは許されないし、間違っている、とのことであった。

 ……なるほど、理にかなっている。

 言い分として正しい。

 が。

 それを目の前で聞かされる俺の身にもなってくれぇぇぇぇぇ!

 この年配の男女、当初は夫婦なのかなと思ったのだが、女性が男性を「兄さん」と呼んでいたので、どうやら兄妹らしい。

 まさかファミレスで、どこのどなたかも存じあげぬ老兄妹のケンカを鑑賞させられるハメになるとは……。

 * * *

 と、いうわけで。

 右にカネのトラブルあれば、左に兄妹ゲンカあり。

 「前門の虎、後門の狼」じみた、詰みに詰んでいるバイノーラルでサラウンドな地獄絵図。

 なんというか。

 その。

 無理。

 作業などとうてい不可能な致命的暴力的音声言語空間の真っ只中におかれて、もはやわたしに選択の余地はなかった。

 「…………おうちかえる。」

 かくしてわたしは。

 なにひとつ着手することもできず。

 テーブルの上に広げた道具をそのままバッグにもどし。

 すごすごと。

 おめおめと。

 尻尾を巻いて、逃げ帰った。

 * * *

 みんなーーーーー!!!

 進捗、どうですかーーーー!!!

 ……。

 ……。

 ……。

 わたしは、だめです。

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