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博士課程学生の就職ストラテジー(続)

この記事の続編です。

企業研究者の道(続)

研究開発予算が潤沢にあるのは大企業ですが、あえて中堅・中小企業を狙うのもよいと思います。
前回の記事で「国内市場は縮小している」と書きましたが、その中でも成長している領域に目を付けて業績を伸ばしている企業があります。

ニッチな領域では大企業を凌ぐ研究開発力や市場シェアを持っている会社も珍しくありません。半導体業界が典型です。

研究全体から製品開発、場合によってはその先の流通や営業、経営まで見られるのも中堅・中小企業の面白さであり、大変なところです。(好き嫌いが分かれそうですが。)
将来的に、研究開発責任者→経営者という道も拓けて来るかもしれません。

また、博士号を武器にスタートアップでCTOやCRO(チーフ・リサーチ・オフィサー)を狙ってもよいでしょう。
文部科学省の「大学は科研費頼みではなく自立せよ」という政策の一環で、大学がファンドを組成して大学発ベンチャーに注力しています。
特に東京大学や大阪大学は大学発ベンチャーの設立と人材募集に力を入れているようです。

研究職以外にも目を向ける

博士号取得者やポスドクが、研究職以外のビジネス系職種にキャリアチェンジするのもありです。
博士号(Ph.D)で箔が付きやすい外資系や、自分の専門性と近い商材を扱っている会社を優先的に狙うとよいでしょう。

コンサルティング会社も博士号取得者の行き先として人気が高く、相性も良いと思います。
なぜ相性がよいかと言うと、コンサルタントに強く求められる論理的思考、仮説検証、リサーチ、プレゼンテーション等のスキルは研究者とも共通しており、博士号取得を通じて鍛えられているからです。

また、コンサルタントはクライアントの業種やテーマ次第でかなりマニアックな話に突っ込んでいくことがあります。
私の場合、製薬会社の新薬開発、医療機器の新規承認と薬価算定、航空機エンジン、自動車の排気システム、半導体の製造工程、石油化学製品の製造工程などの「重ため」のテーマに当たったとこがあります。
コンサルタントの中にはこの手のテーマになった瞬間にアレルギー反応を示す人が一定数います。そうでなくても、未知の分野でクライアントと対話ができるだけの知識を身に着けるのは容易ではありません・・・。チームの中に「近い領域を博士課程で研究していた」という人がいたら、かなり重宝されることでしょう。

ただ、博士号取得者がコンサルを含むビジネス系に転換する場合に注意してほしいことがあります。
それは、「自分たちは学部卒や修士卒の人たちに出遅れている」という意識を持ってゼロから謙虚に学ぶことです。
仮説検証ひとつ取っても、科学研究に求められるものとビジネスで求められるものは似ているようで違います。大学で研究していた人から見たら、ビジネス現場の仮説検証はかなり杜撰なものに見えると思います。
大学院で身につけた様々な癖に固執せず、積極的にアンラーニングして柔軟に物事を吸収していく姿勢が求められます。

シンクタンクは、コンサルと研究職の間にあるイメージです。
コンサルも最近は官公庁案件を増やしており垣根がなくなりつつある領域もありますが、シンクタンクの強みは大まかな方向性の提示に留まらず具体的な政策提言まで踏み込めることです。
シンクタンクの中には国内外の大学や研究機関との兼務や出向を積極的に行っているところもあります。

他にも、科学技術がわかる営業などのビジネス系職種を求めている業界や企業は多いです。
こういった異質な領域の強みを掛け合わせるやり方は、独自のキャリアを作るのに役立ちます。

大切なのは広い視野と柔軟な姿勢

博士号取得後のキャリアに少しでも不安を感じているなら、少々強引にでも視野を広げることをお勧めします。
自分の研究室だけではなく他大学、海外、企業、あるいは研究職以外の職種など、世の中には様々な環境があります。
そしてそれぞれに「合う・合わない」があります。今いる場所で思うようなパフォーマンスが出せていないのは、あなたの能力ではなく相性の問題かもしれません。自分の能力を生かせない「合わない環境」にいつまでもいるのは不幸なことです。

休学して外の世界を覗いたり、思い切って博士課程を中退したりするのもよいと思います。
「せっかく博士課程に進学したのだから」とサンクコスト(埋没費用)を過度に気にしない方がよいと思います。
また、外の世界を見た結果、「やっぱり博士号を取って研究職だ」となったとしても、寄り道した時間は決して無駄ではありません。

他のオプションを考える「時間の投資」は、せいぜい数年です。
社会人になってからは、もっと長いスパンでキャリアを作っていくことになるのですから、やり直しを恐れずに柔軟な姿勢で外の世界に飛び出してください。

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