見出し画像

組織文化を理解する

組織文化とは、ある組織の中で「良し」とされる行動パターンや価値観、思考様式のことです。
その組織に特有のものであり、メンバーの言動に影響を及ぼします。

私自身、経営者やコンサルタントとして様々な組織にかかわってきました。その経験の中で見聞きしたことをベースに、組織文化が持っている特徴や機能について、これからご紹介したいと思います。

① 良し悪しではない

組織文化は、組織の性格・個性であり、一概に「良い、悪い」と判断できるものではありません。
例えば、「決められた手順や規則に従って業務を行い、イレギュラーな事態が発生した場合は上司の指示を仰ぐ。決して独断で物事を進めない」という行動様式があったとします。

この行動様式に従うと、ほとんどの組織では「柔軟性がない」、「自分の頭で考えろ」、「主体性を持て」等とネガティブな評価を受けそうです。
ではこれが、役所や公共機関であればどうでしょうか。彼らは業務そのものの効率性や柔軟性よりも、すべてを同一の基準やプロセスで「万人に平等に」業務を進めることが求められています。
そうすると、「決められた手順や規則に従って業務を行い・・・」の価値基準で動くことが合理的です。

スタートアップが「不確実性が高い市場にこそ、勝機がある」と考えて失敗を覚悟で挑戦する一方で、大手企業は同じ市場を見て「こんな危険な市場に足を踏み入れてはならない」と考えて様子見を決め込みます。

つまり、組織文化はそのものを「良い、悪い」と絶対的に評価できるものではなく、背景や前提があった上で、「望ましい、望ましくない」というものが相対的に決まるものだと思います。

② 意識されにくい

「あなたの所属する会社の組織文化は?」と言われて、即答できる人はほとんどいないでしょう。
しかし、他社の人たちの言動を見て「あの人は〇〇社っぽい」というのは敏感に感じるのではないでしょうか。(でも、指摘された方は合点が行かないはずです。)

組織文化と言うものが根深く我々の中に染み付いていて、自分たちにとっては「ごく当たり前」のことなので、特段意識をする場面がないので、こういうことが起こります。
自分自身にとっては「空気」のようなものなのです。

組織文化は目に見えず、また言葉にしづらいことも意識されない理由のひとつです。
先ほど例示した、「決められた手順や規則に従って業務を行い、イレギュラーな事態が発生した場合は上司の指示を仰ぐ。決して独断で物事を進めない」という行動様式をそっくりそのまま持つ組織は、まず存在しないと思います。
その反対に、「決められた手順や基準が一切存在せず、常に自己判断で物事を進める」という組織も存在しないでしょう。

すべての企業は「手順通りに進めなければいけないこともあるし、自己判断で進めるべき時もある」というグラデーションがかかった状態のはずです。また、その程度も「すべてをきっちり手順通り」なのか、「最低限のポイントを守っていればよい」のかで大きく異なります。

このように、例えば「うちの会社は、自由に意見を言い合えるフラットな組織だ」という大まかな特徴が示せたとしても、組織文化は到底それだけでは表現し得ない深遠なものです。
同じ「自由に意見を言い合えてフラット」な組織を集めても、その実情は十人十色で異なるでしょう。
だからこそ「組織文化=組織の個性」と言えるのだと思います。

③ 組織文化を象徴するもの

「組織文化は目に見えない」と申し上げましたが、形を変えて表に出てくることがあります。
例えば、組織内で使われる独自の用語や、独自の意味を持たせた言葉がそれに当たります。

リクルートの社内で使われる言い回しとして有名なものに、「お前は結局どうしたいの?」と言うフレーズがあります。
これは、「上司の意思決定にすべてを委ねるのではなく、自分の意思を示して、主体的に物事に取り組む」という行動を強く促すものです。

コンサルティング会社では、「ファクトは?」と言うフレーズがよく使われます。
これは、「主観的な意見を述べるのではなく、考えの根拠となった客観的な事実を示しながらロジカルに説明せよ」という意味です。
(用法として「エビデンス」の方が正しいと思いますが、不正確であるがゆえに組織や業界特有の言い回しっぽさが出ています。)

組織内に伝わるストーリーも、組織文化を色濃く表すもののひとつです。
よくあるものが、先輩社員の「武勇伝」です。

例えば、コンサルティング会社では「入社当初は会議に出ても話に付いていけず、指示された内容もほとんど理解できなかった。それでも必死に食らいついて、時には徹夜も厭わずに働いたところ、少しずつ認めてもらえるようになった」というエピソードを語る社員が一定数います。
ここから、入社当初に挫折を経験しても諦めず、長時間労働も厭わず努力する姿勢が推奨される組織文化が想像できます。(今は徹夜や長時間労働は時代遅れかもしれませんが。)

そうすると、同じようなストーリーでも「組織文化」の種類によって結末が変わります。
ここに「上司や同僚の反対を無視し、自分の意見を貫いてプロジェクトを進めた尖った若手社員」がいたとしましょう。
その結末が「困難を乗り越えて成功した」ならば、主体的な行動が推奨される組織文化を持つ組織です。
逆に、「案の定、失敗した」ならば、この手のスタンドプレーは推奨されていないことになります。(「顧客の声を聴いていなかった」のような教訓も付くことが多いです。)

④ 組織の結束と境界線

組織文化は、組織のアイデンティティを際立たせ、仲間意識を醸成することにも役立ちます。

「あの人は〇〇社っぽい」という言葉の裏には、相手=〇〇社で、発言者=それ以外の人という明確な線引きがあります。
その「〇〇社っぽさ」が組織外の人々が知覚する線引きになり、言われた側も「自分たちは他とは違うのだ」と意識することで、外部との境界線を引きます。

わかりやすい例が、新興宗教です。
とある宗教は、クリスマスでのお祝いや寺社仏閣への参拝を「異教の習わし」として厳しく禁止しています。
しかし、これらは日本社会ではごく普通の(圧倒的多数の人が何の違和感も持たずに行う)ことです。

例えば、信者である小学生が学校で行われる「クリスマス会」に1人だけ参加できなかったとしたら、どのように思うでしょうか。疎外感を覚えると同時に、「自分は周囲とは違う存在である」ことを強烈に意識せざるを得ないと思います。
また、そのことによって同じ信仰を持つ人々は「自分と同じ辛い経験を持つ貴重な仲間同士」ということで強く結束するはずです。

⑤ 強い文化と弱い文化

今では主要な宗教として認知されているキリスト教も、かつては「異教」として厳しく弾圧されていました。
しかし、信者が増えるにつれて様々な宗派に分かれ、教えや戒律が「マイルド」になって行きます。

これは、組織でも同じことです。
創業初期の企業では、創業メンバーを中心に強烈な組織文化が形成されています。(本人たちは自分たちが「異質」であることをあまり意識しませんが。)
Paypal創業者で著名投資家のPeter Thielも「最高のスタートアップは、究極よりも少しマイルドなカルト」と述べているように、これはこれでとても大切なことです。

このように、組織の中心となる価値観が強く保持されており、メンバーへの影響力が強い組織文化のことを「強い文化」と呼びます。
しかし、組織文化は強烈であればあるほど「人を選ぶ」ものです。スタートアップでメンバーの離職率が高い理由は、突き詰めると「組織文化が合わなかった」と言うことになると思います。(だからこそ、「カルチャーフィットが大事」とよく言われます。)

組織が拡大していくにつれて、この組織文化はどんどん薄まっていきます。
組織文化そのものが曖昧かつ不明確で、一貫性の欠如しているためメンバーへの影響力が弱い状態にあると、「弱い文化」と呼ばれます。

弱い文化は組織文化の恩恵を受けにくくなる一方、「人を選ばない」という利点もあります。
大手企業が多くの人材を採用できるのも、メジャーな宗教が多くの信者を抱えておけるのも、組織文化を弱めたことによる見返りです。

このように、組織文化は自然に(そして多くの場合は気付かないうちに)変化していくものです。

「組織文化は良し悪しではなく個性である」と冒頭に申し上げました。
経営環境、事業戦略、ビジネスモデル、組織の状態等によってあるべき姿とマッチしなくなるタイミングがほぼ例外なく発生します。

この時、「どのように変革を行えばよいのか」は稿を改めて記載したいと思います。

よかったら、感想やご意見などコメント欄からお寄せください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?