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フランス人の思い込みvs日本人の幻想[1] バター

今日から、ちょっと面白そうなことを始めます。
日本人はフランスに美しい幻想を抱いています。
一方、フランス人は日本に甘〜く神秘的な思い込みを抱いています。
どっちもちょっとずつズレている。
そのズレが意外と面白い。
そんなことを綴ってみたいと思います。

これはあくまで私が出会った現実や体験に基づくもので、非常に個人的な意見であることをご了承の上、楽しく一意見としてお読みください。


日本人の幻想:バターは均一に切って塗りたくる

日本では今バターはレアでめちゃくちゃ高くなっているそうですね。
フランス、特にバター大好きなブルターニュにいると、毎日山積みのバターをスーパーで目にするのでちょっと信じられないのですが、やはりバターは日本人にとって異国文化なのだなと感じられる一面でもあります。

ところで皆さん、バターはどうやってパンに塗りますか?
考えた事もないのではないでしょうか。
普通にナイフ、あるいはバターナイフで、バターの長方形の短い辺にナイフを当て、上からすとんと下に落とす。
だいたいバターの幅は2ミリぐらいでしょうか。
断面は四角で厚さも均一。
これをほとんどのご家庭では、焼いた食パンの上にべーーっと塗りたくる。
2ミリぐらいであっても、熱いパンの上ではすっとしみ込んで溶ける。
上にジャムを載せる方もおられますよね。
典型的な朝のパン食の風景です。


食パンに溶けたバター


私もずっとパンにバターを塗る方法など、これしかないと60年間信じてきました。だってそうじゃないですか。パンにバターなど他に方法があるわけでもない。

あえていうならフランスでは食パンはパンドゥミ(pain du mie)と言いますがほとんど食べません。国民的にパンといえばバゲットです。そして焼いたりはしません。だから冷たいバゲットに四角いバターを塗り付ける。典型的なフランス人なら、それをそのままコーヒーに浸して食べる。
そう思い込んでいました、ついこの間まで(つまりフランス在住13年間、こう思い続けていたのです)。

フランス人の現実:バターは薄く削いで軽く載せる

現実を知るまでの12年ぐらい、私はパンにバターを塗るのを放棄していました。
だって、フランス人はバターを塗りたくらず、口元までもってくる時間が圧倒的に早い。私はバターを塗りたくりますから、全然遅い。
皆が朝食を食べ終わる頃にも、まだ私はもたもたやってる訳です。
そして皆の目が痛い。
(こののろまな日本人は一体何時間かけて朝食を食う気だ)
と勝手な想像力が心を苛みます。

ついに私はバターを塗ることをあきらめ、当時まだ同居していた夫に甘えた声で「塗って〜」とやっていたのでした。
普段自立心の強い私が甘えた声でおねだりするのが嬉しかったのか、夫は機嫌よくバター塗り係を積極的にやってくれました。おかげで私は12年強も真実を知ることがなかった。

「私はバターを塗るのに向いていない。」
自分で、バター塗布不適合認定書を発行して、後はひたすら逃げていた訳です。

ところがバター塗りに直面しなくてはならない事態が昨年やってきました。
既に夫と別居(※1)し、新しい彼と過ごしていましたが、この彼が食料品店の店主だったんです!
※1 フランスでは、独身、別居、結婚と婚姻状況が別れていて、別居は1つの状況として認められています。婚姻が契約である以上弁護士を立てた訴訟を起こさないと離婚できないため、別居は事実上日本的な離婚の感覚と同じです。

そして、この食料品店では、鶏の丸焼きとサンドイッチも提供していました。鶏の丸焼きは彼の担当でしたので、私はサンドイッチ係を拝命しました。

フランスのサンドイッチはバゲットを使います。そして一番シンプルなのがジャンボン・ブール(jambon beurre)、つまりハムとバターを半分に切ったバゲットに押し込むだけというものだったんです。

さて、「バター塗布不適合認定書」を持っていたことをすっかり忘れていた私は、簡単だろ?作ったことあるだろ?と促す彼に、うつむいてしまいました。
ジャンボン・ブールはおろかバターも塗れなかった訳ですから。

そこで彼が1度やってみせました。
美しい!
私はその美しさに見惚れ、是非とも習得したい!と思いました。

今回はその秘伝のバターの扱い方をお教えいたします(もったいぶり過ぎですね)

フランス人秘伝のバターの扱い方

バターの紙を開く時、長辺がなるべく多く出るようにします。日本では短辺をなるべくちょこっと開きますよね。フランスでは長辺を長く出します。

できればフランスなどの肉を切るテーブルナイフのようなぎざぎざのあるナイフがいいですが、普通のナイフでもまぁいけるでしょう。

長辺に沿ってなるべく薄く削ぐようにナイフを下ろします。桂剥きの薄さですね。ほとんどの場合、下までまっすぐはいかないので、途中で切れます。四角ではなく二等辺三角形みたいな感じで削げます。


ここでは上を削いでいますが、一般的には長辺を上から下に削ぎます


これをパンの上に載せ、どこか薄めの部分だけをパンに軽く押し付けて固定します。

以上!

ジャンボン・ブールの作り方


ジャンボン・ブールは、バゲットを半分に切り、お腹を割く感じで包丁で開いた後、このようにバターを塗り、ハムを挟んで完成です。

なるべく塗りたくらないのがコツなのです。何故かというと、塗りたくるとバゲットの柔らかい部分を押しつぶしてしまい、バゲットの食感を悪くしてしまうから、だそうです。なるほど!そこにこだわりがあったか。

かくして昨年の夏、毎日ジャンボン・ブールを作りまくった私は、今では自家製「最優秀バター付与認定書」を持っております。

せっかく習得した秘伝も宝の・・・

ですが、今の彼は毎朝バゲット食べる?と訊ねてくれて、バターを載せたバゲットをちゃんと用意してくれるので、私はまたバターを塗らずに朝食をむさぼる毎日です。

彼氏変われば、朝食風景も変わる。
フランスの現実のよくある一コマでございます(笑)。

フランス語と日本語のTIPS:塗ると削ぐ

日本式のバターを塗るは、フランス語ではpeindreパーンドr(フランス語のrは日本語のハ行の母音なしにかなり近い)。元々は壁を埋めるといった時に使う動詞なので、「べーーーったりと塗る」という感じにぴったりなんでしょうね。

一方、フランス式のバターは削ぐ感じなのですが、これはフランス語ではgratterグrアッテかな。表面を擦る感じのようです。爪で窓をひっかくとキーーーという音が出ますが、あれはgratterですね。

あるいはracler rアクレという言葉もあります。これは日本でも少しは知られてきたかな。ラクレットというチーズを熱して溶かして、じゃがいもや生ハムなどにかけて食べる冬場の料理。普通は四角に切られたラクレットを、専用の機器で熱してかけて食べるのですが、大きなラクレットの場合は表面だけ溶かして、溶けた部分だけ削ぐようにしてじゃがいもなどに落として食べるのです。この「削ぐ」動作がraclerですね。

ラクレット!おいしそう。でも一般家庭ではここまで大きいラクレットは使いません



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