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いい経営者が持つ、健全な危機感と『幸せな出口』

過去の記事で、『ベンチャー企業は5年後15%、10年後6.3%、20年後は0.3%しか生き残らない』と書きました。これは巷間よく言われることではありますが、実際、社会で働いていてそんな実感がないのも事実です。

エビデンス思考とエピソード思考

創業50周年とか、100周年とかよく聞くし、自分の会社も設立年度を調べたら、すでに30年くらいになるよ、とか。「そうじゃない事例」は周りにたくさんありますよね。

まあ、この場合はそれもそのはず、周りを見渡して目に入る会社は、生き残っている会社だけだからですが(笑)、こういうのをエピソード思考と言います。この会社はこうだよ、とか、ここもあそこも30年以上だよ、とか、個別の事例を以て「だから生存確率はそんなに低くないはず」と結論付けてしまうのです。

要は、20年後の生存確率0.3%というエビデンス(統計=総論)に対して、個別のエビソード(各論)で反論しているんですね。これ、理系脳と文系脳と区別する人(高橋洋一氏など)もいますが、恐らく間違いではないでしょう。論理脳と感情脳、あるいは客観脳と主観脳と言ってもいいかもしれません。

私の尊敬する、APU学長の出口治明さんは、いつも「縦横(たてよこ)算数」と言いますが、これも似たような思考です。縦=歴史、横=世界、算数=論理思考です。

決していいか悪いかの話ではありません。人間はそもそも主観的で感情的です。ただ、物事の全体像を理解するうえで、このエピソード思考は邪魔になります。コロナに関する議論でも、エビデンスに対してエピソードで反論する光景はよく見られますよね。マスコミが完全な文系脳だからです

健全な経営者が持つ、当たり前の危機感

コロナはともかく、全体の0.3%だけが20年後に生き残る。逆に、99.7%は何らかの形で消えている。これがエビデンスです。

では、なぜそんな実感がないのか。答えは簡単。潰れる会社のほとんどが法的整理をしていないからです。法的整理とは、破産、特別清算などの手続きを行い、最後に法人結了の登記を行うことです(詳しくはこちらの記事を→『個人保証』の大きすぎるデメリット)。一説には、これをしないところが9割とも言われます。なぜなら、お金も時間もかかるからです。

法的整理をしないということは、いわゆる夜逃げです。

99.7%ということは、今できた新しい会社は、20年後にはほぼ消えている、ということです。

経営者は、そのような危機感を常に持っています

と、思ってましたが、そうじゃない人も多いことが最近わかってきました。

社員が数人程度で、事務所や(地方であれば)駐車場などの固定費も安い、設備も在庫リスクもないという会社なら、そんな実感がないのもわかります。

ただし、表現は悪いけど、それでわかったような顔して、自分は優秀だと勘違いしている経営者は、英語で言うとバカですね。おそらく住んでる世界が狭いだけです。業過平均の3倍利益を出してるとか、突出して社員の給与が高いとかなら話は別ですが。

私は、自分自身もこれまで経験してきましたが、今もM&Aのコンサル等を通して、様々な『土俵際』を見ています。それに対して、結果論として「この時こうやったのがダメなんだよ」とか「こういう時はこういう計算をしないとね」「あいつはさ、こういう考えするからダメだよ」などと言うのは、誰でもできます。

そんな評論でマウント取って優越感に浸っている奴は、スペイン語で言うとクソです。

会計事務所なんかも、窮地に陥って助けを求める人にこう言うんですよ。

『いや~、もう少し早く言ってくれたら・・・』

もう少し早く言っても、きっと同じこと言います。自分の引き出しが少ないだけです。

どんな状況にあっても、打ち手はあります。ただ、土俵際に行けば行くほど、厳しい打ち手になっていくので、直感的に「ヤバい」と思った時にすぐに行動に移すべきです。

健全な経営者は、ほんのひとつボタンを掛け違えるとこうなる、ということを常にイメージしながら挑戦しています。

ダメな経営者は、追い込まれる人ではなくて、追い込まれた人に対して外野からマウントを取る人です。多くは陰口です。

『幸せな出口』をイメージしているか

法的整理の話をしましたが、その具体的な内容すらも、理解していない経営者が実は多いのです。「破産したら投票権なくなる」と本気で思っている人物もいました。刑事犯罪か何かと勘違いしているようです。そんな人のことを、ポルトガル語ではボンクラと言うそうです(知らんけど)。

会社はいつか終わりが来ます。少なくとも、自分の経営者人生は必ずどこかで終わります。その時にどんな手段があるか、どんな手段で幕を引きたいか。想定して経営している人は、実は少ないのです。破産、清算、民再などの具体的な内容を知らない経営者は、その典型です

でも、そんなネガティブな終わりは想像したくないと?そうですか、ポジティブシンキングなんですね。では、ポジティブな終わりはどうイメージしていますか?子供や親類が継承ですか?あるいはM&Aですか?IPOですか?

子供が他にやりたいことがある場合も、明治大正のように強制的に継がせますか?無理ですよね。それ以前に、子供が継ぎたくなるような会社ですか?

表面上、余裕のある経営でも、実態を見れば借金で存続できているケースは、掃いて捨てるほどあります。それを、数字の読めない経営者が自覚できていないだけです。

そして、借金があるので辞めるに辞められない。今の資本状況なら、清算しても負債が残る。だから子供に、、、ってそれほど自分勝手なことありますか?そんな状態で子供に継いでほしい、なんて言うのは、もはや犯罪に等しい強制ですよ。継いでも継がなくても、子供に苦しい思いをさせるだけです。

自分や自社はどんなエンディングを迎えたいか、イメージして経営している人、どれくらいいるでしょうか。やはりほとんどの人がしてないんですよ、これが。エンディングの方法も知らない状態で、「子供に」とか言ってる人が多いんですよ。

なぜか?原因のひとつは、エビデンス思考がないからです。会社が潰れる確率にピンときてないからです。

ネガティブにしてもポジティブにしても、「終わり」をイメージしてない。これ、不幸の元凶です。そこを常にイメージしていれば、いざと言うときにあたふたしないのです。

今の自己資本比率を見て、これを清算するとどうなるか。
今の会社を客観的に見て、他社が買いたくなる会社か。

私は、そんな思考を「M&A思考」と言っていますが、常にその視座で自社を見れば、幸せなエンディングのためには何が必要かが見えてきます

もうね、誤解を恐れずにストレートに言うと、

赤字で借金も多く、この会社がないと客が困るというキラーコンテンツもない会社を、大事な子供に継がせようとするんじゃねーよ。断っても罪悪感、やっても地獄。そんな子供の身になってやれ。その前に、自社を上りエスカレーターに乗せて、いい会社にしようよ。

そして、幸せなエンディングを想定して、そこに向かっていきましょう。

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