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表には出ることのない仕事

「スクリプトドクター」というのは職業名だということに、読み終えるまで全く!気づけませんでした・・・。

スクリプトドクター英語: script doctor)とは、映画、テレビ番組、演劇等の脚本や台本を書き直したり、これらの主題、構成、テンポ、登場人物の性格づけ、台詞など特定の要素の完成度を高める目的で制作会社に雇われる脚本家、劇作家、台本作家である。脚本コンサルタント(script consultant)と呼ばれることもある。

スクリプトドクターの名前は、商業上の事情や芸術上の理由などにより、作品のクレジットタイトルに表示されないことが多い。通常、スクリプトドクターは、既にほぼ制作が決まった脚本等について、計画中または製作準備中の段階で、資金調達者、制作チーム、出演者などから具体的な問題が指摘された時に雇われる。

wikipedea

映画を劇場で見るとき、私は最後の最後のクレジットまで、ぼうっと見続ける派です。

余韻にも浸りたいし、映画関係者の名前をチェックするのも好き。監督やプロデューサー以外にもたくさんの役割、肩書きがあるんだなあ、映画ってほんと、役者だけのものでも監督だけのものでもないよなあって、余韻と一緒に関わった皆さんのことを想像したりしています。


もちろんこれまで、「スクリプトドクター」なんて職業、クレジットでは見た(気づいた)ことがありません。

この本は、「窓辺系」と著者の三宅さんが定義する、感受性が強く、自分に自信が持てない、どこか自分の殻を突破できない脚本家を育てるために書かれた、脚本教育のための本であると思っていました。

実際そうでもあるのですが、しかし後半は、「スクリプトドクター」なる仕事について、それがどのような時に必要とされ、どのような役割と責任があるのか、非常に理路整然に、けれど情熱を持って、書かれています。

では、スクリプトドクターとはどのような仕事なのか。wiki先生を補足すると、

映画が巨大な予算と多数のスタッフで成り立つプロジェクトである限り、そこにはいろんな思惑も、駆け引きも、想いも絡み合います。脚本家が書き上げたプロットや初稿は、さまざまなプロセスを経て、そうした思惑を汲み取ったり切り捨てたりしながら、複雑化していくことが多々あるのだそうです。

つまりスクリプトドクターとは、「「体調不良」を抱えた脚本の問題点を、「外部の視点」から客観的に分析し、状況を打開するためのアドバイスやサポートをしたり、ときには直接治療を施す(リライトをする)」(本書より)のが主な仕事。

そして、こうした一連の作業について、スクリプトドクターというのは大体、ノンクレジットで仕事を行うのだそうです。びっくりです。


実は私も、若い頃は映画制作に携わりたくて、ENBUゼミナールというところで映画制作を学んだことがあります。

その時、いくつかのリアルな撮影現場を見せてもらったのですが(時にエキストラ、時に雑用)、当たり前ですが、映画というのは画面に出てくる人たちだけのものではないんですよね。

画面に映る人たちはもちろんのこと、画面には映らない人たち隅っこで暗躍している人たち(私も含む)。

そこで感じたのは、光の当たらない人たちの、並々ならぬ映画への憧れ、映画業界への執念。そして、魔物のような映画の魅力に惹きつけられた人たちが集う現場は、切磋琢磨というよりも、たくさんの才能が孤独に必死に戦っているように感じられたのでした。

光の当たるところに行くには、相当な胆力がいる。

まあ、私のような興味本位に近い、発熱みたいな気持ちで制作に携わっていた人間が言うのも失礼なのかもしれませんが、私も同様だったからこそわかる。

映画に惹きつけられた結果、そこで抜きん出て輝く人もいれば、自分を消耗し、削っていく人も多くいたように思います。

著者の三宅さんがこの職業についたきっかけについて読んだとき、そのような背景とともに、ドクターという仕事の存在意義に深く納得しました。

友人であり、監督としてデビューした同期が、脚本のリライトがうまくいかなくなり、自殺してしまったのだそうです。「もし、そこに僕がいたらーー」。

ドクターがいれば全てが解決するというわけではない、と三宅さんもおっしゃいます。でも、自分だけでなんとかするよりも、自分とは違う視点が加わることで、自力でたつことは、できるような気がする。

客観的に、どこに目詰まりがあるのか、破れていない自分の殻はなんなのか、三宅さんのような冷静で、でも人の気持ちや心を汲み取って、前進していく方法を模索してくれるドクターがいたら・・・

と、僭越ながら私も、願わずにはいられません。編集や本づくりも、フリーランスで請け負うと、孤独と戦うことも多いです。また、作家活動となるとなおさら、信じるのは自分の想像力のみ・・みたいな根性論に陥りがちです。

相談できる。意見をもらえる。

光の当たらない仕事に、どれほど救われるか。

目に見えるものだけが価値ではないのだということを、スクリプトドクターという仕事もまた、私に教えてくれているような気がします。

作品だけを扱うのではなく、書き手としての人間性、心を扱う仕事でもあるスクリプトドクターという仕事の全貌は、上記の本に書いてあります。興味ある方は必読の書かと。


現在、読書は中級編に突入し、こちらもワクワクしながら読んでいます。アマチュア脚本家に向けた内容ですが、脚本を書くつもりがない私にとっても、学ぶべきことがたくさんありすぎて、こちらも衝撃です。たとえば、アイディアやひらめきが、どんな人にも、誰にでも訪れることを、優しくわかりやすく解説してくれているところとか(冒頭から)。

ゆっくりですが、また読み進めたら感想をつぶやきます。


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