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Vol.1 フィンランドで見つけた「信頼」の文化

このnoteでは、2024年3月25日から28日までの4日間でフィンランドのプレスクールから小中高/職業専門学校を訪れる中で、フィンランド教育の根底にある価値観のようなものを探る過程で発見したことをシェアしていきます。

つい最近のニュースで、フィンランドは国際連合による世界幸福度ランキングにより2018年から7年連続で幸福度が世界一の国として選ばれました。

2018年というのは、自分自身がフィンランドで初めて6ヶ月間のインターンをしていた年になります。当時22歳ながらに感じていた言葉が今でもブログに残っています。そして、この時にフィンランドの先生から言われた言葉が今でも残っています。「学ぶ目的=受験というシステムを乗り越えて選択肢を広げること=よりよく生きる条件のようなもの」という日本の社会の価値観と受験システムに染まっていた私にとって、フィンランド教育で大切にされている考え方は今でも私の教育観の軸になっています。

学校や教師の役割は「子どもたちが幸せに生きる力を育むこと」

フィンランドの先生の言葉

しかし、「人々が幸せに生きるためにどんな教育が必要なのか」というふわっとした問いは、当時の私にはあまりに壮大すぎる問いでした。フィンランドでのインターン経験を経て、日本の社会で何から始めたら良いのか戸惑っていました。当時の私は「教育は学校で行うもの」という考え方が根底にあったのですが、あまりにフィンランドと日本の学校にある価値観やシステムが違うので、日本の社会の文脈に合わせて私たちに何ができるのか。この問いが今でも私の中に生き続けています。

今回の研修に参加する前の私は「幸せに生きる力=自分で自身の人生を選択できる力」という風に定義しており、そのためには知識やスキルや概念(社会に出た時に転移できる見方や考え方)が重要になってくると考えていたのですが、今回の研修では更に違う観点での発見がありました。以下の図が私の今回の研修でつながった発見になります。

今回のフィンランドの研修で繋がったもの(仮説)

人々の価値観とシステムの相互作用から生まれる信頼が自分の人生を自分で選択し続ける信頼を育む

私なりの仮説

この仮説の背景として、フィンランド教育の文脈で取り上げられるいくつかのグッドプラクティスの背景を考察していくときにあるキーワードに辿り着きました。

▼ 私が読んだ素敵な本の一部
・フィンランドの教育はなぜ世界一なのか(リンク
・フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか(リンク
・フィンランドはなぜ「世界一幸せな国」になったのか(リンク
・フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか(リンク
・教育立国フィンランド流教師の育て方(リンク
・競争やめたら学力世界一(リンク
・格差をなくせば子どもの学力は伸びる(リンク)etc…

フィンランド教育に関する様々な書籍

フィンランドの先生との様々なトピックで対話をする中で「信頼」というキーワードが何度も出てきました。そして、私たちが「信頼」を感じるのは、人々に与えられた「余白やゆとり」について考察する場面が多いように思います。

フィンランドの学校現場に入るとどこか現地の先生の働く姿や子どもたちの姿から「余白やゆとり」のようなものを感じる自分がいました。

例えば…
・先生は授業が終わると12時に学校を帰る先生がいたり…
・英語を話す場面で、無理に話させるのではなく子どもたちが話したくなる環境を整えたり、待つ姿勢を大切にしていたり…
・一人一人が学ぶ環境を自分で選べる考え方やシステムがあったり…
・他者ではなく自分自身にフォーカスできる考え方を大切にしていたり…
・大人になっても学びなおせる環境や余白が身近にあったり…

日本の社会では、勤務時間が明確に決められており、雇用契約書に書かれた労働時間は決められた場所で勤務することが一般的な考え方だと思います。これは「管理することで労働者を信用する」ことで人々の信頼を経ると言う考え方がベースにあると思います。その一方でフィンランドでは「管理するのではなく、人々を信頼する」ことで、社会の中に信頼のカルチャーが生まれているように感じました。

これは、大人にだけ適応されるのではなく、教育現場でも大切にされている考え方です。日本では「宿題や課題を与えることで、子どもの学習時間を増やし、成績を上げる」ことで保護者の信用を得ると言う考え方がベースにあるように思います。この根底には「子どもは課題を与えられることで学習する」と言う受け身の考え方があり、「子どもは学びたい生き物」であるという考え方とは反対の考え方だと思います。もちろん、探究が生まれるには適切な環境設定も重要であり、何もしない放任された環境では探究は生まれないかもしれません。フィンランドでは、外発的なプレッシャーから学びを促すのではなく、今その子が置かれた状況を適切に観察し、丁寧に向き合いサポートすることを基礎教育段階では大切にし、徐々に信頼できる人になっていくための準備をしているように感じました。「余白やゆとりを与えることで、子どもが自ら興味を持つものを発見する」ことで自身の人生を自分で選択できる信頼を育むことを大切にしている考え方がフィンランドにはベースにあるような気がしました。

ここからは、フィンランドの学校現場や生涯学習機関で大切にされている価値観の1つである「信頼」についてこの旅で出会った現地の先生の言葉をベースに紹介していきます。

まず、私たちは全校児童が140人程のプレスクールと小学校を訪れ、校長先生との対話の時間から始まりました。

学校のエントランス

「校長先生の役割はなんですか?」

「役割としては、学校で何が起きているのかを知ることを大切にしています。同時に、自分一人では、全てを見ることができないので、一緒に働いている先生一人一人を信頼することが大事だと思っています。この学校の先生はみんなGood teacherです。」

また、先生の働き方のシステム的なところにも話は発展しました。

先生たちの働き方にも「信頼」が根底にある「働き方」がありました。フィンランドの先生は午後2時になると家に帰ることができるという話は聞いたことがある人が多いと思います。「なぜ、フィンランドの先生は授業が終わるとすぐに帰ることができるのでしょうか?」日本の一般的な学校では、勤務時間が明確に定められており、朝8時から夕方5時ごろまで学校内で勤務することが一般的だと思います。その一方でフィンランドでは、授業以外の準備は学校ではなく、家ですることもできます。その理由は…

先生方の給料は授業数で決められており、45分=90分(1コマの授業をするのに、保護者対応や授業準備にかかる時間が45分と考えられていました。)

そして、授業時間の45分は学校にいないといけないのですが、授業時間外はどこで仕事をしてもいいので、多くの先生は授業を終えるとすぐに帰宅して自宅で授業準備をすることが認められています。日本だと、学校にいる時間で先生の労働時間を明確に管理しているのに対して、フィンランドの社会では先生がどこで仕事をしていても「信頼」されていることでこのシステムが機能しているようにも思えました。リモートワークの考え方は日本の社会にあっても、なかなか導入されないのは「管理下でない環境においても、ヒトを信頼できるかどうか」という根深い何かがあるように感じました。

次に、私たちはフィンランド教育とモンテッソーリ教育を融合している学校(小学1.2年生)を訪れました。

モンテッソーリ教育の教室館環境

そこでも私たちは「信頼」というキーワードを耳にします。

「先生が子どもたちを評価するときに大切にしていることは何ですか?」

「子どもたちが自分自身を信頼できるようにポジティブなフィードバックを与えることを大切にしています。」

生徒が自分自身を信頼できるように評価を行うという視点は私たちにとっても新鮮で、自分自身を信頼することが自分を取り囲む世界を信頼することにつながるのかなという仮説のようなものも出てきました。

次に私たちは職業専門学校を訪れました。

職業専門学校の教室

ここでは、雑談の文脈で「信頼」というキーワードが出てきました。この時「Home exchange」というお互いに家を交換し合い、短期で滞在することのできるシステムがある話を専門学校の先生から聞きました。専門学校の先生は「日本を訪れた時にhome exchangeをしたいけど、日本にはなかなかHome exchangeをサイトに登録している人が少なくて、日本人は自分の私生活を誰かに共有することに抵抗があるのではないか。」という仮説が出てきました。「なぜフィンランドではhome exchangeをすることに抵抗をあまり感じないのか?」という問いに対しては、「人々を信頼しているからではないかな。」というキーワードが出てきました。

この文脈では、フィンランド人は、国内に対してだけの「信頼」ではなく、国境を超えても社会に対して「信頼」しているような印象を受けました。

最後は、高校を訪れました。

フィンランドの職員室

「フィンランドではなぜ、信頼という文化があるのか?」

校長先生は、フィンランドの社会の根底の部分で共有されている3つの価値観となるキーワードを出してくれました。「friendship(より良い関係性を築くこと),equality(平等であること), human life(一人ひとりに人生があること)」です。
更に、この社会で共有されている大切な価値観が職員室での環境づくりで大切にしていることもシェアをしてくれました。この学校の職員室では、お互いに話しやすい環境を作ることを大切にしていて、家族のことや仕事におけること、さらにポジティブなことだけでなく、ネガティブな出来事についても共有できるような安心できる環境である重要性も話していました。

ここでは、フィンランドの学校だけの文脈だけではなく、社会の根底にある価値観からフィンランドの社会にある「信頼」について紐解く時間になりました。

ここで浮かび上がってきた問いが「日本とフィンランドでは、社会にある価値観や文化が違う中で、日本の社会の中でも信頼というカルチャーをつくることができるのか?」というものでした。もしかすると、日本の社会全体でフィンランドで感じた「信頼」というカルチャーをつくるのは難しいかもしれないです。でも、「信頼」というカルチャーを作っていくために、何かヒントをもらえた気がします。

その一つがやっぱり「コミュニケーション」なのかなと。でも、ただコミュニケーションをすれば、信頼のカルチャーが生まれるかというとそうではないのかなと感じている自分もいます。「信頼が生まれるコミュニケーション」をどのようにフィンランドの先生は行っているのか。帰国後の自分にとって、「信頼を育むカルチャーを学級や学校でどのように行なっていくのか?自分自身に何ができるのか?」これが私のアクションの1つになりそうです。

ps.フィンランドの新大統領も幸福度が7年連続世界一になった理由についてこのように述べています。

ここでも"Trust"やはりフィンランドの社会の重要な価値観の1つなのかもしれないなと思いました。

いつも読んでいただきありがとうございます。

moimoi!

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