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Vol.6 フィンランドで見つけた"異年齢での学び"

このnoteでは、2024年3月25日から28日までの4日間でフィンランドのプレスクールから小中高/職業専門学校を訪れる中で、フィンランド教育の根底にある価値観のようなものを探る過程で発見したことをシェアしていきます。是非他の記事も気になる方は読んで頂けたら嬉しいです。

▼ 学びの記録「フィンランドで見つけた…」
vol.1「信頼の文化とは」(リンク
vol.2「良い学習環境とは」(リンク
vol.3「多様性の考え方とは」(リンク
vol.4「Simpleな教員の生き方と子どもの学び方とは」(リンク
vol.5「良い困り感とは」(リンク
vol.6「異年齢での学ぶとは」

今回のキーワードは「バイアス」です。
このnoteで伝えたいことは、私たちは自分たちが受けてきた経験からのバイアスが無意識にかかっており、物事を特定の見方でしかみられない状態になってしまう可能性があるということです。このバイアスに変化を与えてくれるのが、自分が経験してきた価値観とは異なる状況を見たり、実際に体感することだと思います。その具体的な事例を実際に「異年齢学級」の捉え方を例に日本と北欧(オランダとフィンランド)を事例に挙げながら考えていけたらと思います。(フィンランドだけど文字数が多くありすぎたので、オランダの事例はリンクを貼ってあります。)
さて、まずはフィンランドの学校現場に入り、率直に疑問に思った状況からシェアをしていきます。

教室の座席表

「5-6B」という文字が書いてあるのを発見したでしょうか?ちなみにこの学校では、1学年あたり約20名の児童が在籍しており、合計約120名の小学校になります。この学校の特色は「クラス編成」にあります。この学校では「1」「1-2 A」「1-2 B」「3-4 A」「3-4 B」「5-6 A」「5-6 B」というクラス編成になっております。日本の公立校(一条校)であれば、1学年が20名いれば、敢えて単式学級を複式学級にしている学校はないのではないでしょうか。

実際に私が島で教員として勤めていた頃は、「複式解消支援員」という肩書きで、元々5-6年生が複式だった学級を、5年生と6年生に分けて単式で授業を行えるようにサポートする役割を担っていました。この時に私が聞いていた複式学級のメリット・デメリットはこのような感じです。

▼ 複式学級のメリット・デメリット
◎メリット
複式学級の場合、教室が2つに分かれており(例えば前の黒板が5年生、後ろの黒板が6年生)教員は2つの学習内容を教室を交互に移動しながら授業を展開していきます。一般的には教員が45分間の授業を引っ張っていく授業に対して複式学級では、半分の時間が児童がガイド役になり、授業の進行役を務めるので、児童の自立的な学びを促すメリットがある話を聞いていました。
◎デメリット
その一方で、2つの学習内容を同時に行うことで、教員の授業準備の負担が2倍になることや、学習の支援が必要な児童が教員のサポートを受けられる時間が短かくなってしまうことが例として挙げられていました。

もちろん、ここで書いてあることだけが複式学級のメリットとデメリットではないですが、ここで伝えたいことは複式学級には、メリットとデメリットの両方がある中で、この学校現場と保護者のニーズとしては「複式学級ではなく単式学級で授業を行なってほしい」というニーズが上回っていたことです。

私自身も北欧の学校現場を見学する前は、複式学級に対してこの島の学校現場や保護者と同じような考え方を持っていました。しかし、フィンランドやオランダのイエナプランの学級編成を見る中で、私の中で「複式学級(異年齢学級)」の見方が変化していきました。

「なぜ、このフィンランドの小学校では複式学級を取り入れているのか?」
日本だと学習の支援が必要な子が教員のサポートを受けられる時間が短くなってしまうことがデメリットとして挙げられていましたが、この学校では反対の考え方を持っていました。

理由①「学習指導の観点」
「Slow Learner とFast learnerのそれぞれが自分に合った学習を選択することができる。」

具体例として、小学3-4年生を複式学級にすることで、例えば小学3年生で学習の進捗が早い児童は、4年生の学習内容を行うことができ、一方で小学4年生で学習の進捗がゆっくりな児童は小学3年生の内容を遡って行うことができると話していました。また補足として、全ての教科を複式学級で行なっているのではなく、数学と言語(フィンランド語と英語)は学年ごとに分けて行なっており、教科の特性を考慮しながらクラス編成も流動的に行なっていました。
また、子ども同士の関係性の観点からも複式学級のメリットを話していました。

理由②「子ども同士の関係性の観点」
「子どもによっては、異なる学年に仲の良い友達がいて、単式の単学級だとクラス替えもなく子ども同士の関係性も固定化されてしまうので、クラス編成に流動性をもたらす意味で、複式学級にすることで、クラスの中に安心できる居場所を作ることができる。」

この視点も新しい見方で私自身も刺激を受けました。単式の単学級だとどうしても関係性が固定化されてしまうのは仕方がないと思っていましたが、教科の特性を見ながら部分的に複式学級にする発想はなかったです。

ここまで、フィンランドの学校現場が流動的にできるのもシステム的な違いもあります。日本だと、国が定める学習指導要領に「学年ごとに何を学ばないといけないのか」が決められているので、複式学級にすると、1人の先生が2つの学年の内容を同時に進めていかなければならない状況にシステム的になってしまいます。一方でフィンランドでは、「学年ごとに何を学ばないといけないのか」が決められているわけではないので、学校や教員の裁量で児童が学ぶ順番を流動的に変えることができます
学校や教員の裁量の大きさが異なることもシステム的な違いとしてあります。

異年齢での理科の授業の様子

もし、学年ごとに何を学ばなければならないかの縛りがなければ、例えば3-4年生の複式学級では、理科の授業で「初年度は3年生、次年度は4年生」というように、交互にすることで、卒業までに学ぶべき内容を網羅することができます。また、同じ内容を一緒に学ぶので、異学年での学び合いが生まれたり、教員の負担を増やすことなく授業を進めることができるメリットもあります。このようにシステムによって、教員の負担が増えてしまったり、子どもにとってより良い学び方が見つかったとしても、システムによる制限から実践できない状況が生まれてしまうことも発見できました。

また、「そもそも学ぶ順番が学年ごとに明確に決められているのはなぜなのでしょうか?」恐らくですが、教育の質を全国の地域で保つために重要であると思います。実際に日本では、全国どの地域に住んでいてもある程度学ぶ順番が同じなので、違う地域に転校したとしてもスムーズに次の学校で学びに移行できるメリットは感じます。その一方で、小規模校等が多い地域によっては教員や児童の負担になってしまう現状も生まれています。まとめると、フィンランドではある程度の教育システムの均等性をベースにしながらも、地域や学校が置かれている環境に合わせて、学校現場や教員が試行錯誤しながらベストな教育環境を現場の裁量でつくっていくができる「学校現場への信頼」「信頼を支える教員の専門性の高さ」を生み出している教員養成システム(教員は修士号が必須)はすごいと思いました。

詳細については、別のblogで「小規模校を活かしたフィンランド・オランダの個別最適化教育(リンク)」にまとめてあります。こちらの記事は、2019年の11月26日に私がフィンランドの学校現場で働いていた時に考えていた記事になります。情報は少し古いのですが、もし小規模校を活かした学びやスモールスクール構想(リンク)に興味がある方は何かの考える種になったら嬉しいです。

最後にありますが、このnoteで伝えたかったことは「人は何かしらのバイアスを受けながら、物事を見てしまう傾向があること」です。今回の複式学級の事例をとっても、「そもそもなぜ単式学級での学びが主流なのか?」「なぜ、学年ごとに学ぶ内容が決まっているのか?」について考えていくと、マクロの観点では教育の質を保つ上では重要なことも、今自分たちが置かれている環境では、それがベターではないこともあるということです。フィンランドの学校現場で大切にされている①自分たちが置かれている環境②目の前にいる子どもたちの状況③学校にあるリソースを常にテーブル上に出して、教員と子どもの双方にとってより良い環境を一緒に考え続け、実践し続ける学校環境は素敵だと思いました。そんな学校のカルチャーをつくっていくにはどうしたらいいのでしょうか?何から始めたらいいのでしょうか?一緒に考えていけたら嬉しいです。

いつも読んで頂きありがとうございます。

moi moi!



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