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#84 弾道ミサイル舞台裏!フジテレビジェット機に米軍機出動騒動

2000年代、僕は夕方の報道番組のリポーターをしていました。2006年午前3時30分、北朝鮮が一発目のミサイルを発射しました。その後、午前4時、午前5時と立て続けに日本海に向かってミサイルを発射してたのですが、その最中、午前4時30分ごろ、報道センターから僕に電話がかかってきました。

「北朝鮮がミサイルを発射した。今から着弾点を探してきてくれ」

着弾点ですよ。日本海に落ちたミサイルがどこにあるのか、それを探してきてくれ、と。「緯度や経度はわかっているのですか」と尋ねました。自衛隊、もしくは米軍が着弾点を、おそらく推測しているからこそ、こういう指令が来たのだ、と思ったのですね。しかし返答は驚くべきものでした。

「それは全くわからない。NHKをみろ」

すぐさまNHKをつけました。すると、北朝鮮のある朝鮮半島から日本海にむかってペケペケと点線で弧が描かれていて、そして日本海の真ん中に大きなばつ印がついている。それだけ。しかもばつ印がとても大きい。もはや何の参考にもなりません。

とにかく行くしかない。どうやって探すかというと、当時、フジテレビは小型ジェット機を持っていました。オーロラ号という名前でした。なぜオーロラ号かといいますと、大昔に「南極物語」という映画が大ヒットしたのですが、そのときそのお金で買ったという話を、まことしやかに流れていた噂として聞きました。だから、オーロラ号。飛行機を購入した時点で中古機でした。僕が入社した時点で、少なくとも二十年は運用されていました。ボロボロの飛行機だったのですが、その飛行機が羽田にいつも駐機していたのです。

フジテレビ所有 オーロラ号

残念ながら、リーマンショックのあおりを受けて景気が悪くなり、そのときに手放してしまったのですが、当時は羽田に常に駐機していたのです。それに乗って日本海に行ってくれと。図らずも私はその時、少しワクワクしてしまっておりました。こんなダイナミックな取材ができるのか、と羽田に急ぎました。午前5時ぐらいに羽田空港に着きました。

パイロットと打ち合わせします。
「日本海に落ちたミサイルの着弾点を探してこいと言われました」
「森下さん、それは体育館で蟻1匹を探すようなものです
唖然とされました。でも、行くしかないです。「では森下さん、どこに行きますか」と聞かれたのですが、そう言われてもね…なにせNHKによる日本海につけられたデカい赤いばつ印しか今のところ情報がありませんので、もうこれは今だから言いますけれども、当てずっぽうにいました。

「ここ」

もうだってこんなのはわからないですから。

「わかりました。そちら方面に向かっていきましょう」

僕のいい加減な目的地に向かって飛ぶことになりました。
飛行機はもちろん、航続距離、飛べる距離が決まっています。お昼のニュースを午前11時30分から放送しているのですが、そこにどうにかして映像を突っ込みたい。日本海に向かって羽田から飛んでいくと、戻ってくる燃料がありません。なので、新潟空港か秋田空港のどちらかに着陸することを想定して飛んでいきました。

いまでこそ、リュック一つ、それぐらいのサイズの機材があればネット経由で映像を送れるのですが、当時は中継車が必要だったので秋田と、新潟、それぞれ地元の放送局にお願いして、中継車をスタンバイしてもらいました。
おそらく滑り込みで帰ってくるだろうから、直ちにテープを渡して中継車を使って本社フジテレビに映像を送る手筈を整えたのです。

どのようにして船を探すのか。飛行機にレーダーがついていて、海に浮かぶ船が影として映し出されます。着弾点を探すのはおそらく無理だろうから、日本海に展開しているとの情報があったアメリカの空母自衛隊のイージス艦などを見つけよう、日本海はいまこれほどまでに緊迫している状況なのだ、そういった映像を届けようという方針のもと、船を探しました。

ただ、レーダーに映ってる影が漁船なのか自衛艦なのか、それとも米軍なのかはわかりません。飛行機は低いところを飛ぶと、空気の摩擦がより増えて、高い高度を飛ぶのと比較し燃料をどんどん使ってしまいます。なので、なるべく高い高度を飛び、レーダーで影が映し出されるたびに急降下して目視で確認。違った場合はただちに急上昇し、飛行高度へ戻る。これを何回も繰り返しました。

オーロラ号 機内の様子

漁船からしたらたまったものではなかったと思います。フジテレビの小型ジェット機はピンク色だったのですが、ピンク色の物体が上空からものすごい勢いで自分の船を目掛けて急降下してきたと思ったら今度は急上昇していく。はた迷惑な行為だったのではないかと思います。それを数えきれないほど繰り返して、ついに、自衛隊の護衛艦を見つけたのです。体育館であり一匹を発見するのに匹敵する快挙です。

機内は歓喜に包まれました。たっぷり護衛艦を撮影し、上昇しました。そして、まだ少し燃料に余裕があったのですが、そパイロットさんがいました。
 「森下さん、この先にとてつもなく大きな反応があります」
レーダーを見せてもらいました。明らかにこれまで見てきたサイズと、大きさの異なるものが映っていました。
 「これひょっとして、アメリカの空母じゃないですか」
オペレーション中の空母を撮影する、これはなかなかない貴重な機会です。計算してみると、そこまで行って戻ってくる燃料はギリギリある。   
 「どうしますか」
 「行きましょう」

飛んでいきました。どんどんレーダーの目標に近づいていきます。すると、急に、本当に突然、巨大な飛行機が私たちのジェット機の真横に現れたのです。その飛行機の上には巨大な円盤状のアンテナがあり、とても珍しい形をしていました。ピッタリと横についたその飛行機の側面には、はっきりとNAVYと書かれていました。
 「今度は米軍だ!」
のちに知ったのですが、その飛行機は、米軍のホークアイと呼ばれている警戒機。空母と連携して飛ぶことが多いのだそうです。
その米軍の巨大な警戒機が私たちの機体の横にぴったりくっついてくるわけです。距離にして20mほど。パイロットさんは「向こうのパイロットの顔が見える」というほどの超至近距離です。

そのとき私達はあまり危機感を感じていなくて、むしろ米軍機が現れた、と機内は大盛り上がりでした。喜んで撮影をしていたまさにそのとき、防衛省から私達の飛行機に連絡が入りました。
 「そちらは、米軍とコンタクトが取れていますか」
当然取れていません。なにせ、そのレーダーに映ってる大きな影が空母だと勝手に想像して突っ込んで飛行しているわけですから。多分、空母だったのでしょう。
 「いや、取れていません」
返答しました。すると、先方は緊張気味の声で伝えてきました。
 「高速の飛行物体二機がそちらに接近中!」
私達の飛行機が米軍の脅威とみなされて、空母から米軍の戦闘機が発艦し、私達の小型ジェット機に向かってきているという情報でした。
パイロットに聞かれました。
 「森下さんどうしますか」
 「撤収!!」
米軍機がやってきて撃ち落とされたら、それこそ海の藻屑です。直ちにUターンして撤収し秋田空港に着陸しました。オンエア5分前でした。自衛隊の護衛艦、そして米軍の警戒機、私たちにしか撮影できなかった映像を昼のニュースに入れることができました。

後から軍事専門家に聞きましたら、米軍は空母を中心として一定の距離、これは米軍が勝手に定めているものなのですが、その距離の中に入ってきたものは全て脅威とみなす、というルールがあったそうです。
つまり私達は何も知らずに、空母に向かって突っ込んでいったのですが、もし本当に空母まで行けたとして、その距離に入ってしまっていたら、撃ち落とされていた可能性があったそうです。

なので皆さんも、アメリカの空母に近づくことがありましたが、オペレーション中は危険です。本当に気をつけてください。

(voicy 2022年10月4日配信)

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