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今宵おかしな子うさぎと

 おかしい。今日はお天気の良いいつもの週末で、特に変わったこともなかったのに、突然子うさぎが完成してしまった。ご家庭の、普通のキッチンで。
 日曜の午後わたしは小さなむすめたちと、ゼラチン・砂糖・卵白などをあれやこれやして、ただマシュマロ作りに挑戦していただけなのに。いざ冷蔵庫で冷やし固めてみたら、ふわふわもちもちの子うさぎができあがってしまったのだ。

 心底驚いたけれど、兎にも角にも、冷えた冷蔵庫からバットごと助け出す。心なしかふるふる震えているように見えて、毛布にくるむ。
 姉妹はそれはそれは喜んで、かわいいかわいいと大騒ぎ。毛布からすぐ逃げ出した真っ白もちもちな子うさぎは、リビング中を探検し始めた。心なしかその足取りは、ピョンピョンではなくぽよんぽよんしていて、かわいさが果てしなかった。

 そこからはふたりのむすめと子うさぎの大運動会。いつのまにか子うさぎに「マシュマロから生まれた『マロちゃん』!」と名付け、家中ばたばたと走り回る。
 マロちゃんは脱衣所に入り込み、洗濯機の奥に入り込んで出てこなくなってしまった。わたしは思い立ってにんじんを細いスティック状に切り、むすめたちに渡した。にんじんでマロちゃんを釣ろうと、ふたりは懸命に出ておいで〜とやってみるけれど、まったく興味を示さない。
ピーピーピー
 その時、オーブンが鳴った。マシュマロを冷やし固める間に作ったスティックパイだ。パイシートに砂糖をまぶしてねじったものを焼いただけの簡単なお菓子。
 むすめが「もしかしたら!」と言って、オーブンからそのパイを一本取り出してきた。すこし冷ましてからマロちゃんに差し出してみる。すると、耳をぴんとさせてお鼻をひくひく。焼きたてのパイににつられてまんまと出てきた。
 お腹が空いているのかな、とキャベツなどあげてみたけれどやっぱり食べなくて、ポテトチップスにはパリパリと食いついている。なんとも、おかしな子うさぎである。
 リビングに移して、むすめたちは大事に大事に腕の中に抱く。マロちゃんは不思議そうに鼻をひくひくさせるばかり。ふわふわもちもち、あたたかい。

 姉妹は早くも、今晩子うさぎと一緒に寝る計画をたてている。とりあえず押し入れからベビーサークルを引っ張り出して、マロちゃんにはそこにいてもらおうか。布団もえっちらおっちら運んで来よう。うさぎも子どもも風邪をひかせないようにしなくちゃ。えぇ?うさぎと一緒に夜のお菓子パーティーもするって?あしたは月曜日なのに、まったくどうなることやら。

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