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3月16日 ゴジラ感想文のこぼれ話



 たぶん掲載順が逆になるんじゃないかと思うけど、気にせず、この話。

 二日かけてハリウッド映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』、初代『ゴジラ』、庵野秀明監督『シン・ゴジラ』を続けて視聴したのだが……。
 ここでクイズ!!
 この3作品に共通していることは、ゴジラというキャラクター以外に何?


 答:伊福部昭のゴジラのテーマ

 初代『ゴジラ』1954年の時に作曲された曲だから、実に70年近く。時代を越えて海を越えて繰り返し引用され続けるメロディ。『キング・オブ・モンスターズ』で聞いても、「ああ、やっぱりこの曲じゃないと」という気がした。ゴジラというキャラクターに次に偉大な創作は何かというと、そりゃこの音楽。このメロディに勝てるという気がしない。変更も継ぎ足しもできない、究極のスープ。

 どうして今回この3作の『ゴジラ』を観ようと思ったのか……?
 特に深い理由はない。なんとなくNetflixを観てたら「ああ、これまだ観てなかったなぁ」という作品を見付けて、次に初代『ゴジラ』を見付けて、庵野秀明版『シン・ゴジラ』もあったから、じゃあ続けて観てみようか……と。それだけの経緯。
 この3作を連続して観ると、3作の関連と立ち位置が面白い、ということに気付いた。庵野秀明版『シン・ゴジラ』は初代『ゴジラ』のリメイク作品だ、ということに気付けたし、一方の『キング・オブ・モンスターズ』はその後のゴジラシリーズから分化した作品であるということにも気付ける。どちらの作品も、ちゃんと系譜の上に乗っている。ただ、方向性がまるっきり違う。その差異が面白い。
 確かに『ゴジラ』は、シリーズを経ていくごとに無害化していき(放射能どこへいった?)、人類の味方、子供のヒーローになっていった。その行く先にあるものが『キング・オブ・モンスターズ』。ハリウッドゴジラは、サパスタインというプロデューサーによって、西部劇のヒーローのような存在になったが、『キング・オブ・モンスターズ』はその系譜の先にある作品。
 一方の『シン・ゴジラ』は完全なる先祖返り映画。でも従来のゴジラのイメージ通りのものが出てきても恐いともなんとも思わない。そこで庵野秀明が仕掛けたのが、ゴジライメージの大胆な刷新。ゴジラが本来持っていた「不気味」で「恐ろしい」存在である、というイメージを取り戻しつつ、その上で日本という国を描写してみせる大道具にしている。初代『ゴジラ』がやっていたことを、今の時代に、想定しうる最高のアップデートが施された。
 庵野秀明という映像作家がいかに桁違いのスキルを持っているのか……というのがこの一作で伝わってくる。紛れもない名作。

 この3作を連続して観ると、どれも確かに『ゴジラ』だけどアプローチの方法が全く違うし、アプローチ法が違う理由を考えていくとまた面白い発見がある。「作家ごとの違い」だけではなく「国の文化」の差異も見えてくる。この3作を続けて観た理由は「たまたまNetflixにあったから」でしかないのだけど、観て良かったなぁ……と思えた。

 少し映像感に触れてみよう。というのも、ハリウッドの『キング・オブ・モンスターズ』と比較してみると、やっぱり映像感が違うな……と思うところがあった。
 『キング・オブ・モンスターズ』の映像はやはり西洋絵画の世界だ。陰影がしっかり描き込まれていく。モスラの登場シーンって、あの色彩はドラクロワだよね。
 それに対して『シン・ゴジラ』はひたすら「線」で描く。画面上に並ぶ椅子とか、並ぶマイク、並ぶコピー機、並ぶ自動車に戦車……と、画面を覆う線の密度で勝負してくる。こうやって比較すると、『シン・ゴジラ』は日本画だな……という印象を受ける。
 それに『シン・ゴジラ』の構図はアニメ的だ。どのシーンもフィックス。普通の映画なら、移動カメラを使って動的に見せるようなシーンも、ほとんど止め絵。むしろ画を止めて、画面に見える線の密度で絵を見せている。これはアニメのレイアウトの発想だ。
 ついでに、よく言われる話だが、会議のシーンは止め絵に口パクだ。実写の人物がアニメ芝居をしている。
 あと改めて見てやっぱり思ったのは、カヨコ・アン・パタースンとマフィア梶田の二人はアニメキャラだ。あの二人だけアニメの世界から来た……みたいな振る舞い方で芝居しているし、そういう存在感を出している。
 『ゴジラ』は日本、ハリウッドで次々に制作されるので、違いを比較してみると色んな発見がある。絵の違いを見ても、文化の違いが見えてきて面白い。

 それで、どの『ゴジラ』が一番面白かったか……というと、もちろん庵野秀明監督『シン・ゴジラ』。テーマ、ストーリー、ビジュアル、どれを取っても庵野秀明版が抜きん出ている。やっぱりあの人は天才だな……とつくづく思わされる1本だった。


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