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8月13日 なんだか微妙な気配がただよいつつある3Dプリンターハウス

 2023年の今年、3Dプリンター建築の認可が下りる……と私は思い込んでいたのだけど、なにやら勘違いだったらしく……。もともと10平方メートル以内であれば、建築基準法の対象外なので、いつでもOKだったそうだ。そういうわけで、セレンディクスが販売している「スフィア」はちょうど10平方メートル。10平方メートルなので、中には鉄筋などが入っていない。

セレンディクスが販売する3Dプリンターハウス「スフィア」

 実際には2023年からセレンディクスによる3Dプリンターハウス販売が本格化しますよ……という話だった。それで最近は、実際の建築事例なんかもニュース記事なんかで出てくるようになってきた。

 こちらがセレンディクスが主力販売に据えている「フジツボ」。床面積50平方メートルなので、しっかり「鉄筋」が入っている(10平方メートル以上は鉄筋を入れなければならない)。お値段550万円。
 すでにフジツボは結構売れているらしく、特に注文が多かったのが意外にも60歳以上のお年寄り。
 「一生賃貸でいい」……と思っていたら、60歳を過ぎたら部屋をかしてくれなくなった、契約更新の時に追い出しを喰らった……みたいな話が結構あるらしく、そこでお値段的にもわりのいい3Dプリンターハウスというわけだ。
(「コスパを考えれば一生賃貸のほうが良い」……とか言っている人は、高齢になると部屋をかしてもらえなくなる……ということもこれからは考えよう)

 ただ……3Dプリンターハウス・フジツボなのだけど……。うーん、どうなんだろう、これ? デザインに情緒がない。プレハブ小屋とどう違うのだろう。値段の安さと「早く建てられる」ということをアピールしすぎて、「長期間人が住むもの」としては素っ気なさ過ぎる。外観しかわからないが、内部に広い空間があるように見えず、あまり住み心地が良さそうに見えない。庇もないので、夏場は暑い日差しが直接入ってくるし、雨になると雨粒が窓に直接当たる。白くて四角なデザインを「未来的なイメージ」としてアピールしたいんだろうけど、私には「手抜きデザイン」にしか見えない。「住めればなんでもいいや」って人向けにしか思えない。

 おかしいな……3Dプリンターハウスって、もっと自由に家をデザインできるはずなのに、どうしてこんな想像力のなさそうな家になるんだろう? オーダーメイドハウスを低価格で気軽に発注できるのが3Dプリンターハウスの魅力だったはずなのだけど……。

 アメリカでは3Dプリンターハウス事情はもっと進んでいて、建築技術企業ICONというところが3Dプリンターによる100件の住宅街を構想し、2022年に着工した。
 それが上に掲げた写真だけど……。うーん……普通。どのあたりが「3Dプリンターハウスらしさ」なのだろう? どう見ても普通のアメリカの住宅街。「3Dプリンターだからこそできた理想的な建築デザインと、それが作り出す画期的な“景観”」……みたいなアピールがない。
 想像力のない人が構想したのかな?
 想像力のない人に、どんなにすごい技術(AIとか)を与えても、ありきたりなものしか生み出さない、すでにあるものの再生産しかできない……という典型例のような風景。
 もう一つ引っ掛かるのはこの住宅の値段で、断片的な情報だけど、日本円にして4000万円だそうで……。高い! 3Dプリンターハウスって「安く作れる」ということが売りじゃなかったの?

 今のところ、上がってきているニュース記事を見てちょっと「微妙」なことになっている3Dプリンターハウスだけど、まあ民生品にまで下りてくると、こんなところでしょう。
 かといって3Dプリンターハウスの未来はこれで終了というわけではなく、やはり日進月歩。上の写真は2019年に大林組が3Dプリンターで製造したシェル型ベンチ。超高度繊維補強コンクリート「スリムクリート」というものを素材として開発し、現実的にあり得ない形に成形し、しかも超頑丈。
 他にも大林組は、まだ実験段階のようだけど、3Dプリンターによる巨大建築の実証実験を重ねている。従来の建築法ではあり得ない曲線をいくつも使いつつ、大広間のある建築を作り出そうとしている。まだ実際の建物を建てたという実例はないようだけど。

 ただ日本は災害国。海外では3Dプリンターハウス事情は進んでいるのに、どうして日本では……と思われるかも知れないが、それは日本が災害国で、他国より建築基準法が厳しいから。3Dプリンターは鉄骨なしでコンクリートの塊をゴロッと生成できるけれども、それが災害に対してどれだけ強いのか……ということはよくわかってない。そもそもコンクリートは振動に対して弱いものだし、50年ほどで寿命が来てヒビが入ってしまう。「自由に成形」できるけれども、安全性がどれだけ担保できるのかがわからない。建築会社もそれはわかっていて、いまこうやっていろいろ実証実験を重ねているところだ。
 こうしたものの成果は、そのうち私たちの元に下りてくるでしょう。
 ただ、一般家庭まで下りてくると、こういった技術も何となく微妙なものになる……かも知れないけど。セレンディクスのフジツボみたいなものだけで街を作りました……なんてなったらおぞましい景観の町並みができてしまう。そのうち、「景観」にも配慮した3Dプリンターハウスも出てきてくれたらいいのだけど。でもそれは、「景観」に対する意識が生まれることの方が先かな。


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