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映画感想 生徒会役員共

 2021年1月『生徒会役員共』の劇場第2弾が公開……されてた! 私は『生徒会役員共』の劇場版が制作されていることも知らず、公開後とあるコミュニティで話題にされているのを見かけて、そこでようやく知った。
 ああ作ってたんだ……。テレビ放送からそこそこ時間が経っているのに未だに劇場映画を作るだけの人気があり、かつ作り手にもポテンシャルが残っている。そういう作品だったのか……と今さらに思い、それじゃその前作をAmazon Prime Videoで見てみようか……というのが今回視聴に至った個人的な経緯である。

 というわけで1週遅れで『劇場版 生徒会役員共』1作目を視聴。本作は2017年公開。アニメーション制作はテレビシリーズと同じGoHands。監督、脚本、作画監督、美術監督その他の座組もほとんどテレビシリーズと一緒。テレビシリーズの延長として作られた作品である。
 その内容についてだが――。
 なんとテレビシリーズとほぼ一緒。いや、全く一緒。テレビシリーズと同じく、ほとんど関連性を持たない小さなエピソードがいくつも羅列されていき、一貫した物語はない。唐突に始まる小ネタ、謎の箱番組もいつも通り。映画のあらすじとしてメディアに紹介されているストーリーがあるのだが、それも実は5分くらいの内容。ただ尺が60分あります……それだけ。
 画の作りもテレビシリーズと一緒。キャラクターのディテール、見せ方も変わらず。レイアウトの作りもテレビシリーズと完全に一緒。劇場作品として何かしらアップデート要素があったのか……というと何もない。本当に何もない(あるとしたらやたらと回転する「スズヘッド」だけ)。ただ尺が60分に伸びました……とそれだけの作品だった。
 これはいってしまえば、劇場でかけられた60分にビデオ作品。劇場映画としての特別な要素……画であるとか物語であるとか、劇場に持っていくためにアップデートされたものが何一つない。もういっそ、思い切りがいい。全力でやり逃げ(この作品の感想で「やり逃げ」と書くと別の意味に取られそうだが)した作品である。

 そんな作品が面白いのかというと、面白い。だって、もともとのテレビシリーズが面白かったんだもの。テレビシリーズを楽しんだ者としては、家庭用のビデオで見ると60分尺のビデオ作品として普通に楽しめてしまう。テレビシリーズを見て、この作品を面白いという体験を持った者ならば、普通に楽しめてしまう。

 ただし、何も予備知識のない状態で見るのはなかなか厳しい。なにしろ本当にテレビシリーズと変わっていない。「これはこういうもの」と了解の上で楽しまないと、引っ掛かりに感じる部分が多くある。
 まず画作り。テレビシリーズ作品としては『生徒会役員共』はなかなかいい画に感じられたが、劇場作品として見るとはっきり弱い。劇場映画の水準からするとレイアウトは平坦だし、キャラクターの絵にはムラがある。奥行き感のまったくない背景に平面的なキャラクター絵の組み合わせは、劇場の大スクリーンで耐えられる気がしない。「劇場ならでは」という画作りが一切なく、何もかもがテレビスケールのまま作られてしまっている。これを大きなスクリーンで見ると、ずいぶん小さな世界で小さなことをやっているな……という感じに取られてしまうだろう。

 物語……はほとんどないので設定についてだが、個々の設定についてほとんど解説がなく、キャラクター同士の関連性も劇場版単体ではほとんどわからない作りになっている。私も『生徒会役員共』を数年ぶりに見るので様々な設定を忘れていて、さてうおみー(魚見チヒロ)はどうしてタカトシの家に普通にいるんだろうか、とか(親戚同士が結婚して以来近しい関係になった)。それ以外の何人かのキャラクターについても設定を忘れ気味。作中では初めて作品に接する人に向けたフォローは一切なく、なにもかもが当たり前のものとしてボケとツッコミが進行してしまう。

 これは劇場映画とはいわず、劇場にかけられたビデオ作品。「劇場版に向けて……」という要素が何一つない。テレビシリーズの延長として制作され、それを劇場にかけちゃった。
 何もかもがやり逃げ感で満たされていて、これはある意味で潔い。やりきった感がある。テレビシリーズ知らない人なんか知ったこっちゃない。こっちはこっちで勝手に続き作るぞ。場所がビデオであるとか劇場であるとか関係ない。いつもの『生徒会役員共』をやっちまうぞ……と。そこまでやられると、もうそれを受け入れるしかない。下手に「劇場っぽい何か」をやられるよりも、ここまで振り切ってくれたほうが良かった。
 だって、面白かったし、『生徒会役員共』らしいな……と思ってしまったから。『生徒会役員共』はこれでいいや。劇場版第2作目が作られたけども、まあ同じノリなんでしょう。でもそれでもいいや。だって『生徒会役員共』なんだもの。『生徒会役員共2』も同じものを期待して観るとしよう。

 というわけでこの作品はテレビシリーズを見て、続きが見たくなった人はどうぞ……というもの。劇場映画だけど特に花火は打ち上がりません。いつもの『生徒会役員共』がぬるっと始まり、いつものノリのボケツッコミがあり、するっと終わる。そういう作品だ。

 こういう映画として語ることのない作品って語るのしんどかったー……。特に話すことがないんだもの。
 そうそう、一つ気になったのだが、オープニングシーンのバイブにモザイクが消えている。だったら本編中のバイブもモザイク消しちゃえばいいのに……。この辺りの基準はよくわからない。


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