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Netflix映画 死霊館 エンフィールド事件

 前回視聴した、POV映画『ヴィジット』は「カット割りの魔術を使わない」ホラー映画だったが、『死霊館』は「カット割りの魔術」をとことん突き詰めた映画。
 冒頭、降霊術のシーンから始まる。ロレインがとある館に潜む悪霊を体に宿し、惨劇が起きた一晩を追体験する。地下へ行くと、鏡が出てくる。鏡の向こう側にシスターの格好をした悪霊が出てくる。振り返るロレイン。“こちら側”には悪霊はいない。鏡の方を振り返る。“鏡の中”にいた悪霊がすっと目の前に出てくる。
 『死霊館』は私が好きなタイプのホラー映画だ。ホラー映画の中でも「オバケ屋敷ホラー」と私が呼んでいるタイプのホラーで、こういう作品がとにかくも好き。こういったホラー映画の面白がり方は、カメラの裏側を想像すること。
 例えば、ジャネットが悪霊の存在を感じて、ドアに椅子を引っ掛ける。長回しだ。ジャネットがベッドに戻り、カメラ、ジャネットに寄る。ジャネット、気配を感じて顔を上げる。椅子が移動していて、ベッドの側にやってきている。もちろん、カメラを外した瞬間、スタッフがふっと戻してきたのだ。トリック撮影を考える切っ掛けが得られるから、こういう映画は面白い。
 実に古典的な怖がらせかただが、私の大好きな見せ方だし、『死霊館』はこの見せ方をとことん突き詰めている。抜群にうまい。映画的な「手口」はわかっているのだが、それでも間違いなく引き込まれるし、声が出そうなくらいに怖い。全力で「おもてな死」ホラーをやってくれるのが嬉しい。
 ある夜、喉が渇いた子供(ビリー)が台所へ行き、水を飲む。その後、部屋に戻る。ここからずっと長回しでビリーを追いかけていく(怖がらせるシーンは必ず長回しだ)。真っ暗の家の中を歩いて行き、廊下を横切って、自分の部屋に戻る。しかし、廊下の奥が気になって、何度もちらちらと見る。廊下の奥に作ったテントが何となく気になる。
 長い廊下……『シャイニング』やゲームの『零』シリーズでもよく出てくるモチーフだ。『死霊館』は舞台がボロ屋敷なんで長い廊下ではないが、それでも効果的。
 暗部の使い方もいい。真っ暗な余白に、実は何もないのだけど、「何かいるかも知れない」というゾクゾク感を表現している。CGも極力使わない素朴な見せ方で、恐さを表現している。
 ヒロインのジャネット(マディソン・ウルフ)がいい演技をしている。悪霊に取り憑かれる少女だが、もともとは可愛い女の子だ。それが悪霊に取り憑かれ、目を虚ろにさせつつ、口だけを歪ませて、歯をみせて「ゲハハハ……」と笑い始める。隈取りメイクが効果的に出ているのだが、とにかく演技がうまい。『エクソシスト』の少女を思い出す(そして、ちょっと心配する)。
 中盤から、悪霊がはっきりと姿を見せ始める。「なにかいるらしい」からはっきりと「何かいる!」に意識が変わり、その筋の専門家が現れて証拠探しが始まるのだが……困ったことに悪霊がはっきりと見えるようになると、恐さが半減する。
 悪霊が存在感を示し、「イタズラで人を脅かす」のではなく、はっきりとした殺意を持って暴れ回る。映画としての派手さは増してくるのだけど、前半部分のワクワク……じゃなかったゾクゾクくるタイプの恐さじゃなくなるのが惜しい。CGシーンも増えてくるのだが。面白いといえばもちろん面白いのだけども。
 そうそう、悪魔に十字架って効くもんなんだね。幽霊や妖怪には効きそうなイメージがない。十字架に怯える悪魔って、やっぱり由来が特殊なんだろうな。
 幽霊は正体を暴くと消えてなくなるものだ。それは昔から言われている。幽霊の正体見たり枯れ尾花……ってね。『死霊館』の場合だと、「幽霊の正体」即ち「名前」を暴くことを最終的な解として置いている。これは「諱(いみな)」の思想で、私も諱の思想が好きで、色んな作品で使っている。
 私のもう1つ好きなタイプのホラー映画は、ちゃんと主人公が戦うこと。悪霊や殺人鬼に対して、主人公が戦い、最後には平和を勝ち取ること。『死霊館』はきちんと戦って、幽霊の正体を暴こうとしてくれる。きちんと汗かいて、危険に飛び込んで戦う。この戦いにハラハラ感があるし、最後の最後にカタルシスもある。最後まで引っ張って見せてくれる。『死霊館』は私の好きなホラーの要素全部入りだ。出会えて嬉しい。
 ところで原題は『The Conjuring 2』。タイトルが出てきて、「あれ? 2?」。調べるとすぐに「前作」が存在していることに気付いた(同シリーズに『アナベル』もあるようだ)。ぜひ見たいが……Netflixで検索しても出てこなかった。残念。

4月28日

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