君の名は_main_vsl02

映画感想 君の名は。

 こちらはNetflixにはない作品。以前、テレビ放送したものを録画し、そのまま見ずに放置していたもの。いつ見ようか……今だな。と、いうわけでこのタイミングで視聴することに。

 ファーストインプレッション。
 明るい!
 とにかく明るい。これまでの新海誠作品とは別格の明るさ。画面も明るいし、キャラクターも明るい。ものすごいアクティブで、ぐいぐいと物語を引っ張っていく。これは文句なしに面白い。面白い作品にしようとしている。
 作画監督は安藤雅史。『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などのアニメーションで品質を支えたジブリ兵団最強のアニメーターだ(日本興行収入ランキング最上位に安藤雅史作品が並んでいる。ものすごい人だ)。安藤雅史を筆頭に、井上鋭、土屋堅一、廣田俊輔、黄瀬和哉といった顔ぶれが並び、原画マンの名前には元ジブリ兵団がたっぷり投入されている。我が国最強のアニメーターがずらりと並び、品質はこの時点で保証されていたといってもいい。
 ただ、画面は明るくなりすぎで、これまで新海誠作品を支えていた1カットに込められた映像の緊張度はやや薄くなったような印象がある。新宿のシーンは『言の葉の庭』でも描かれたが、『言の葉の庭』のほうが美しかった。
 薄くなったが、その一方でとても飲み込みやすい。これまではやや硬質すぎ、飲み込みづらい重さがあったが、『君の名は。』では一気にライトに、入り込みやすい作品になっている。
 それは映像という面だけではなく、物語という面においても同様だ。物語が明るい。明解なキャラクターが正面に立ち、物語をぐいぐいと引っ張り込んでいく。『言の葉の庭』でもキャラクターが物語を語り始めていたが、それと比較しても段違いで、キャラクターが喋り、感情を見せ、動いて走って転んで……と情動の行方で物語を語っている。この物語の紡ぎ方がとにかくも秀逸。引き込まれるし、終盤の感動へとスムーズに導いていくれる。
 描いてるモチーフは、これまでとそこまでの大きな変化はない。新海誠は同じモチーフを描き続けるタイプの作家だ。立花瀧、宮水三葉が出会う夕暮れの映像は、『雲の向こう、約束の場所』にほぼ同じ画がある。物語の終盤、別れた彼女を探して電車の窓から向こう側を見詰めるシーンは、『秒速5センチメートル』と同じ展開だ。今回の新海誠も、境界と、境界の向こう側にいる“彼女―ファムファタール”を描く。それからモラトリアム期に残した傷跡がモチーフになっている。
 これまでと同じように“境界”のモチーフが出てくるが、今回はもっと異界的な場所、山奥のほこらが扱われている(あと縦方向に流れるモチーフも多いように思える)。“ずれた時間にいる彼女”に出会える場所、ということで、これまでに使われていたような境界のモチーフでは手に負えなくなったからだろう。もっと超常的かつ神秘的な場所。それでいて物語の中できちんとおさまって飛躍しすぎてない。このあたりのフォローもきちんとなされている。それになにより、2時間の映画的な、豪華な異物感を描くのにも成功している。SFからファンタジーへ、意識の変化が見られる。
(物語全体を通してただ1つだけ、引っ掛かるポイントといえば“時間”の問題。なぜ気付かなかったのだろう? ここだけがご都合主義になってしまっている)
 境界の向こうの彼女に会いに行く物語、といえば『雲の向こう、約束の場所』があるが、あちらは意味のわからないSF設定をモリモリ載せて、やっとこさ、ということだったが、『君の名は。』ではだいぶスマートで、やっぱり飲み込みやすく作られている。
 新海誠は優れた映像作家だが、物語作家ではない……。これまでの作品ではそうだったが、『言の葉の庭』からその方向性が変わってきた。『君の名は。』は決定的に、新海誠が変わった作品だ。新海誠が描き続けているモチーフ自体に変わりはないが、このモチーフを語るためにどんな物語を導入するか。モチーフの周辺に、どんな“物語”を肉付けするか。『ほしのこえ』から始まる新海誠フィルモグラフィーは、物語を獲得するための過程だったのだ、と今なら言える。
 このモチーフを語る物語に、「男女入れ替わり」という、ちょっと懐かしの物語が導入されたのが面白い。「男女入れ替わり」は漫画・アニメ世界で描かれてきたテンプレートであるが、よくよく考えればこれも新海誠的なモチーフ、“境界の向こう側の彼女”の変奏曲だ。今までやや難しい、飲み込みにくかったモチーフが、「男女入れ替わり」のテンプレートを導入したことによって、確実に親しみやすい物語に変わった。新海誠的なモチーフを、ちょっとだけ視点を変えてみせたのだ。
 『君の名は。』が本当に素晴らしかったのは、物語そのもの。映像よりも、物語のほうへと視点を振ったことが大きい。キャラクターが迷い、怒り、笑って泣いて、走って転んで……キャラクターの行方をしっかり丹念に追って映画を作っている。新海誠は人間に興味があったんだ(笑)とちょっと意外にも思った。
 『君の名は。』は2017年を代表する娯楽大作になったが、見て納得。ここまで観る側をしっかり掴んで離さない物語は、そうそう生まれるものではない。なぜそこまでの大ヒットになったかというと、新海誠はほんの少々の匙加減を、物語のほうへ振っただけだ。その振り方のコツを発見したんだと思う。
 新海誠の映像に対する尋常ではないこだわりはこれまでの作品で見てきたところだが、物語を獲得して、もはや手に負えない恐ろしい作家になってしまった。アニメ界の片隅で、インディーズでちょっと良い作品を作るやつ、ではなく、我が国を代表する映像作家になった。今後は、誰もが注目し続ける作家になるだろう。

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こちらの記事は私のブログからの転載です。元記事はこちら→http://blog.livedoor.jp/toratugumitwitter/archives/51617147.html

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