023『北海道を歩くエピソード3-5 2013.6.30-3』

文:守屋佑一

50kmを過ぎても軽い足取り。北海道の空気。最高の気分。
そして55km地点に到着。ここにはあらかじめ荷物を置いておくことができるし、他のエイドよりフードも充実している。

僕もここでTシャツを着替えて栄養を体に取り込み、少しだけ休憩した。大丈夫。まだまだ時間も体も余裕。

準備をしっかりして臨んだこのマラソン。コースは頭に入っている。
ここからはしばらくけっこうなアップダウンが続くはずだ。

リスタートしてすぐに坂。
スピードは落ちるがこのペースなら充分。
と考えたのもつかの間いきない足が重くなった。
走れない。練習でも走ったことのない未知の領域でいきなり試練。辛い。

ここまでは淡々とキメを守って走っていたが一気にそんな余裕はなくなった。
なにかにすがりたかった。
僕から話しかけたのか、話しかけられたのかもう覚えていないがいつの間にか他のランナーとコミュニケーションをとりながら走っていた。

それでもどうしてもきつい時は気を紛らわすためウエストポーチに入れておいたiPodを使って音楽を聞きメンタルをドーピングした。

55km地点から80km地点までずっと10km90分の遅いペースが続いた。それまでは10km60分だったのだからまったく違う。

淡々と走ることはできないが時間的に完走できるかどうかの関門に引っかからないようにするにはどのくらいのペースでいけばいいかそんな計算ばかりが頭のなかで働いていた。

いつしか走るのは諦め、歩いて歩いて、でもなんとか立ち止まることはせずに前へ進み続けた。

定期的に出現するエイドで栄養を摂って、少し走ってまたすぐに歩いて。
耐えきれず自販機でコーラを買ったりして。
そうしてなんとかたどり着いた80km地点で転機は訪れた。

80km地点にはスペシャルドリンクをあらかじめ置いておくことができる。
ここに僕は、エナジードリンクとカフェインの錠剤と他にも様々なサプリメントを預けていたのだ。

必死の思いで用意していたそれらを飲む。

するとどうだ。目が冴え、足が軽くなり背中から翼が生えてきたではないか。
いや、翼は幻だったがこう感じるくらい効果はてきめんでまた僕の足は軽やかに動き出した。走れる。まだ、走れる。

湖畔から少し離れ、ワッカ原生花園に入る。距離調整のために湖畔からはなれるのだろうがいよいよクライマックスと言った気分だ。ここから90kmちょっとまで走ってそのあと折り返し。
僕が走っているとすでに折り返しのランナー達が向こう側からやってきて何人ともすれ違う。
そういえば共にこのマラソンに出場しているHとIはどうなったのだろう。
Hはとても速いランナーだ。もしかしたらもうとっくにゴールしているかもしれない。Iは全然練習していないからゆっくり走ると言っていたがなぜかスタートダッシュをかましていた。
そんなことを思い出していると折り返してきたHとすれ違う。いまここにいるということは彼の想定タイムよりは遅いくらいだ。やはり100kmは生半可ではない。
僕のエナジードリンクブーストは90km過ぎに切れ、また僕は歩き出す。95km地点からは見知らぬおじいさんと話をしながらだった。このおじいさんは地元の人で、もう何度も100kmを完走しているらしい。
もうここまでくれば制限時間内には完走できるから無理して走らなくてもよいとおじいさんは僕に言ってきた。

でも僕はやっぱり走ってゴールしたかった。だってこれは「マラソン」なのだから。このおじいさんには悪いけどほっておいて走ろうと試みたが、でも疲労からか無理だった。
ほんとうにあとちょっとでゴールというところでなんでだか熱い涙が僕の頬をつたった。
体力の限界を超越して、気持ちを全開にして進み続けたテンションがゴールが近づき一気に弾けたのだろうか。

そういう人はたまにいる。おじいさんはそう言って笑っていた。

残り1kmを切って、僕はおじいさんに「やっぱり走ります」と告げ、ほんとうに最後の力を振り絞って足を動かしてゴールテープを切った。
号泣しながら、ぐちゃぐちゃの顔で。

12時間38分44秒。立派なタイムとはいえないが、僕は確かに自分の足で100kmの道を走り、歩き、ゴールすることができたのだった。

エピローグ
一緒にマラソンに出たHは想定タイムよりは遅いが僕に比べたらとっても速い10時間台のダイムでゴールしていた。立派なもんだと思ったが彼はまったく満足していないらしかった。こちとら完走しただけで大満足だというのに。
Iは60kmちょっとでリタイヤしてしまったらしい。
60kmちょっとだって普通は走れない。これまた立派だ。

ヘロヘロの体でIの運転する車で宿に向かった。
みんな疲労の限界だった。けっこう遅い時間に宿についたので温泉の前にご飯にしなければならなかった。瓶ビールを3本頼んだのだけれど内臓の疲れからか誰も飲みきることができなかった。グラス1杯だってきつかった。

部屋に戻り、みんなで横になった。
「休んだら温泉に行こう」と誰かが言った。

その希望はこの日、叶わなかった。

なぜなら僕たちは着替えもせず、電気も消さずそのまま眠りについてしまったからだ。

僕が強い目的意識をもって北海道に3度目の上陸をした2013年6月の物語はこれで終わり。機会があったら次の日のことも書く。

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