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[読書記録]本日は、お日柄もよく(原田マハ) / ことばの魔法

スピーチで人が心を動かされることは、やっぱり多分にあるだろうな、と思います。本音がスピーチの中にどのくらい含まれるか、具体的なエピソードがあったり、内容も分かりやすかったらいいな、きっとおもしろく聞けるだろうな、と私も思います。その匙加減で心を打つ度合いが大きくなったりするのかもしれません。

スピーチライターという仕事は、スピーカーの人物研究、イベントの研究、聞き手の研究…、立ち返ってスピーカーの気持ちを汲んで、その構成や伝わり方のアドバイス…。スピーカーとともにスピーチを最大限に良いものに作り上げる。なるほどなあ、とあちこちで唸りました。

「大丈夫。スピーチまえに緊張したら、手のひらに『人』って書いて飲みこめばいいんだから」
(中略)
「あら、何言ってるの。ほんとうなのよ。わたくしも、大きな句会のまえなんかには必ずやったいるのよ」
おばあちゃんがフォローしてくれた。そして久美さんまでが「それ、ほんとよ」と加勢する。
「今川幹事長もよくやってらしたわよ。ここにいる聴衆を、全部飲み込んでやる!って」

「本日は、お日柄もよく」原田マハより

緊張への対処は「人」を飲み込む、か、とあらためてうまく言うもんだなあ、と納得しました。とてもおもしろいです。気持ちよく緊張したスピーチは炭酸の効いたソーダのようにぴりっと引き締まった空気を醸し出す、と。そんな気持ちの良いスピーチが思い浮かぶようです。

それにしてもこと葉さんったら、とても素直でどんどん学び吸収して自分のものにし(血統も多いにある、とは思います)、大きくなって行くのです。読んでいてびっくりします。と同時にとても気持ちがいいです。
選挙内容としてかなり具体的に、「郵政改革小泉政権時代、その後」が頭に思い浮かぶので、ちょっと苦手かな(私は政治とそれ以外国会内の本筋と離れた言葉や読み方などの揚げ足の取り合いがとても苦手です、そして私自身是々非々の流浪の無党派層だと思っています)、と思ったのですが、こと葉さんと厚志くんのめきめきと音がするほど気持ちが良い成長(というととてもおこがましい)と、かっこよく天性のデキる男、和田日間足くんとのハラハラする清々しい対決を見るのは、胸を打つ感動があります。

猛烈な余談なのですが、大学生の頃、友達の紹介で選挙事務所でバイトしたことがあります。私はたいしたことはしませんでしたが、中枢の中枢では、いろいろな胸打つドラマがあることは確かだろうな、と思います。

主人公のこと葉さんがスピーチライターとして久美さんのところに晴れて入社した時や、渦中の人である厚志くんのトラブルからの本気、結末に至るまであちこちで胸を打たれました。

『困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している』

「本日は、お日柄もよく」原田マハより

久美さんの言葉。正確には久美さんの尊敬する今川幹事長の言葉です。久美さんは最初から最後までとても格好良く、聡明で魅力的でした。というか聡明で魅力的な人物のみが出てくるお話の、ある激動の一幕、という、とても清々しいお話でした。


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