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驚きのマーマレード

父は仕事から帰って椅子に座ると、夕食が終わるまで二度と席を立たない人でした。
父は私から見るととても厳しく、小さな頃はいつも怒っているように見えました。
私達双子をたまにどこかに連れて行ってくれることはあっても、父の気持ちはいつも分かりませんでした。
商売もしていたし、あちこちで役割があったようで、休みの日はなく、完全に一日中家にいることは思い出す限り一日もなかったし、朝私達が起きる頃にはもう家を出ていて、顔を合わせるのは毎夜九時頃からだけでした。

父が六十を過ぎて商売から手を引くと、今度は大好きな歌舞伎の研究をしながら文化センターや大学で講座を開きお小遣いを稼ぐようになり、いつまでも何かと忙しそうでした。

そんな父から電話があって、「マーマレードを送るから」と言われました。
しばらくして送られてきました、マーマレードが。

包みを開いてタッパーを見ると、父の字で
「鬼ゆずのマーマレード 2022.12.12」とありました。
だんだん年をとったことで受け持っていた講座も少しずつ減り、時間を持て余したのか、母に教えてもらってここのところ台所に立つようになった父が、なんとはじめて作ったマーマレードだったのです。

とてもびっくりしました。
母がぴったりと父の横について、父がマーマレードを作る思い浮かべると、ちょっとくすぐったいような心配なような不思議な気持ちになります。

驚きの父のマーマレード。
ハーブティーに入れたり、塊のお肉と一緒に煮込んだり、粒マスタードと一緒に煮込んだソースにして、焼き付けた鶏肉にかけたりして、全部消費しました。

甘さ控えめでとても美味しかったです。

父のマーマレード
ハーブティーと一緒に

ありがとうございます!