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トンテカントン 星と砂漠と二つの城と 忍者とスパイと王様と大工


(絵本テキスト)

トンテカントン

大きな大きな星空の広がる 広い広い砂漠の真ん中に、
ならんで ふたっつ お城が建つことになった。
東の国の殿さまの ひみつのお城と、
西の国の女王さまの ひみつのお城だ。

東の国の殿さまも 西の国の女王さまも
「いちばんすっごく星空がみえるように、砂漠のまんまん中に 城を建てよ!」
といったので、
砂漠のまんまん中に ならんでふたっつ建つことに なっちゃった。

東の国の忍者と 西の国スパイが 大急ぎでご報告。
「となりあわせでございます!」

いっつもなにかと張り合っている 東の国と、西の国。
殿さまも女王さまも、いつものように張り合い出してしまった。
「あっちの国より すっごい城を建てるのじゃーーっ!!」

東の国からも西の国からも 国一番の とっておきの腕っききの 大工たちが集められ、
砂漠のまんまん中でお城を建てる準備をはじめた。でも

「あっちの国よりすっごいお城?」
……
あっちの国よりすごいかどうかは比べてみなけりゃ分からない。
忍者もスパイもかけずり回って図面を手に入れたりして調べたが、
どちらも大工が腕ききすぎて、どんな城かはさっぱりわからなかった。
……

「えい、とにかく はじめなきゃ はじまらねえや!」
「まずは 土台だ! とりかかれ!」

それ
トンテカントン、トンテカントン

ついにお城の建造がはじまった。


トンテカントン       トンテカントン
 トトンテカカンカ   トトンテカカンカ
       トンテ カントン

トンテカントン!
トンテカントン!

「ん?」
「ん?」
東の大工と西の大工は顔を見合わせた。

なんだか 息がぴったり合って、槌の音が トンテカントン、重なった。

トトトン カカカン
トンテカントン
トンテカントン

ドドドン ガガガン

トンテカントン!

仕事は大いにはかどって すっごい土台がふたっつできた。


お次は 石づみだ! 柱ぐみだ!
トンテカントン、トンテカントン

ドッドッガーッガ ッドッドッガッ
ドッドッガーッガ ッドッドッガッ

ドッドッガーッガ ッドッドッガッ
ドッドッガーッガ ッドッドッガッ

「ん!」「ん!」
東の大工と西の大工は顔を見合わせた。
「やるな」「やるな」

ふしぎに またまた 息がぴったり トンテカントン合っちゃった。

それ!

トントンカコンカ  トントンカコン
トントンカコンカ  トントンカコン
ドンドンガゴンガ  ドンドンガゴン

ドンドンガゴンガドンガゴン!
ドンドンガゴンガドンガゴン!

すっごい 石づみ 柱ぐみが ふたっつ できた。

よーし、天井だ ほい、床はりだ
トンテカントン、トンテカントン

カンカンココンカ コココココーン
コンコンカコンカ カカカカカーン

ドドガガドッガッ ドッガッ ドドガガ
ドドガガドッガッ ドッガッ ドドガガ

ドドガガドッガッ ドッガッ ドドガガ
ドドガガドッガッ ドッガッ ドドガガ


階段斑です 階段つくります トンテンカン トンテンカン
壁ぬり斑です 壁ぬりします トンカントン  トンカントン

トゥーラーララー
       シュッシュッ トントン
トゥーラーララー
       シュッシュッ トントン
ラーラーララーラー
ルッルー ラーララー
ルラルラルラ ルラルラルラ フンチャッチャフンチャッチャ…


東と西で、トンテカントン
見事に合ってる、トンテカントン
「のってきたぞ!」「のってきたぞ!」

タンタンタタントントトントン タンタンタタントントトントン
タンタンタタントントトントン タンタンタタントントトントン
「階段ぐるっとつなげちゃえ」
タンタンタタントントトントン タンタンタタントントトントン
タンタンタタントントトントン タンタンタタントントトントン
「もの見とバルコニーも橋渡しだ」

二つのお城がつながっていく
タンタントコトコタンタントコトコ タタタンドコスコ ドンスコスコ ドン!
タンタントコトコタンタントコトコ タタタンドコスコ ドンスコスコ ドン!

すっごい すっごい すっごいお城になってきちゃった!

トンテカントン
窓わく失敗、東の国。
トンテカントン
柱かざり失敗、西の国。

「あ」「あ」

「これ使いなよ」「これ使いなよ」


交換だ!

トンテカントン
トンテカントン
天守閣! とんがり塔!

トンテカントン
トンテカントン
シャチホコ! ライオン像!

タンタンタタントントトントンタンタンタタントントトントン
タンタンタタントントトントンタンタンタタントントトントン

カンカンココンカコココココーン      コンコンカコンカカカカカカーン

タンタントコトコタンタントコトコ タタタンドコスコ ドンスコスコ ドン
タンタントコトコタンタントコトコ タタタンドコスコ ドンスコスコ ドン

ばっちり合ってる!
トンテカントン!


できたぞーっ!


なんだか ふしぎに みごとに ばっちり
トンテカントン 息の合った すっごいお城が できあがった。

ふたっつ?
いやこれは ひとつ?

どっちがすごい?

分からないけど、
殿さまも女王さまも これ見てびっくり。

だけどすっごい
気に入った!

東の国の殿さまも 西の国の女王さまも
大よろこびで笑いながら ふたりで並んでこのお城に入っていった。

東の国の大工も西の国の大工も
みんな笑いながら 握手をかわした。

東の国の忍者も 西の国のスパイも
砂漠の国の住民も みんな見にきて 笑いながら このお城を囲んだ。

大きな大きな星空の広がる 広い広い砂漠の真ん中に、
ならんで ひとつのお城が建った。

いっつもなにかと張り合ってる東の国と、西の国、それからは
なんだか ふしぎに みごとに ばっちり
トンテカントン 息の合う国になりましたとさ。

(絵本テキスト終わり)


解説「だれかトンデモ築城映画つくってください」


このテキストはもともと絵本として、特に読み聞かせに良いように、
読み手が二手に分かれて声を合わせたり打楽器を使ったり、
音合わせを楽しむパフォーマンス系のお話として考えたものです。
(途中『We Will Rock you』『My Sharona』『スケーターズワルツ』的な
リズム箇所あります😆)

この話を考えているうちに、背後のいろんな人間たちの話が浮かびました。

舞台になる砂漠の国は、その自然条件から、
世界でも有数の星空の美しさ広さを誇り、古代から続く天体観測の文化があります。
小さいけれどほかにも望遠鏡基地が点在し、天体研究分野では世界のトップだったりします。
そこに目を付けたのが東の国と西の国。
他国の軍事衛星を圧倒的正確さで監視する観測基地を設置しようと目論見ます。
二国からの申し入れで、砂漠の国の長老さんは、すぐにそれと気づきます。
しかし、どちらかを選ぶということはどちらかに狙われるということ。
両方拒否するということも小国の立場を考えると得策ではない。
それなら互いに牽制しあってもらおうじゃないかと、
知らんふりをして土地を限定して提供します。
一番広く星空が見える地理だとか、道路、水利、岩盤だとか、いろんなことを言って、
二つの国の軍事施設用地を隣り合わせに設定してしまいます。
さらに、
文化や産業に貢献しろといって、建材は国内調達、 外観は伝統様式、 高さ、面積を限定したり、環境を守るためといって、持ち込み制限、何世紀も再建設しない等の条件をのませていきます。
東の国と西の国は、軍事施設であるとほかの国々にバレないようにするためにも、
表面的には条件に従います。
しかし秘密裏に、選りすぐった技術者に命じて、
内部に最新の観測・分析・通信技術を組み込むことのできる複雑高度な建造物を作らせようとしています。

この両国の「選りすぐりの技術者」にも背景があります。
一人は老人。
伝統的な建材・工法を使いながらも、材の合わせ方や構造、組み上げの技術により、堅牢な建物を造り上げる伝説的職人です。
しかし、近年、猛烈な勢いで乱立していく 周囲との調和もなく解体も容易ではない建造物と、
取り返しのつかないほど損なわれていく山や森の姿に絶望して、
年齢を理由に引退することを決めていました。
そこへ、彼にしかできないこの「限られた建材による衛星観測施設」の建造計画を持ち込まれます。
弟子たちの熱い説得を受け、最後の仕事と、砂漠の国に降り立ちました。

もう一人は若衆。
木造文化の国、しかも大きな地震や水害にたびたび見舞われる祖国で、
新木材、新工法を駆使して、壊れない町を作ることを志しています。
1世代で建て替えられ移り変わっていく弱々しい家々やムダな建物ではなく
何代も何代も使っていく頑丈で長持ちする建物を造りたい。ですが、
次々お金が入る仕組みにはならない彼の考えは否定され続けています。
そこへこのロングライフ観測施設建造の話が飛び込んできます。
手を挙げたのは彼とその仲間たちだけ、しかし最高の気鋭ぞろいのチームです。

そして、
このような事情を探り、逐一殿さまと女王さまに報告している者たちが
物語の最初からこの砂漠の国をうろついています。
大自然を満喫できるのびのびゆったり観光が人気のこの国、小さいけれど町もあり、
その町で4人の男女がなんとなく くっついたり離れたりで、
バカンスラブコメ?みたいなことになっています。
しかし、そいつらが実は忍者とスパイです。
あまり突き詰めて考えていないのですが、本気で恋に落ちた一組が、お互いの正体を知り、
ロミオとジュリエットみたいになっていきます。本筋の進行には関係なく本人たち以外にはどうでもいいストーリーですが、ずっと横に流れていくことになっています。

そんなこんなの事情を抱えてなだれ込むのが、
この「トンテカントン」の場面です。

すごい構造の城がガンガンできていくところを、すごく観たい。

魔法で繋がっていくファンタジーのなんとか城とか、局所的に勝手に建てていってしまって大きな城砦になった九龍城とか、九份の町の山全体とか、ガウディのサグラダファミリアとか、いろんなイメージが盛りだくさんにあります。

長老の思惑通り、軍事施設は意味を変え、本来の天体観測施設になったのだと思います。
ですが、これを観光資源に砂漠の国が栄えました、とはならないでしょう。
おそらく、したたかにほどほどに、必要な分だけは利用されますが、
観光客をかき集めて一時的にお金をかき集めて
それで空や大地が損なわれるなら
それは自分の首を絞めているのと同じ。自分の泉を涸らしているのと同じ。
ここの国にはずっと昔から、星を見つめ続けてきた歴史があります。
それをこれからもずっと続けていくには、
このままの大きな大きな星空と広い広い砂漠を持ち続けることが肝なのです。

発展もさせず金儲けもせず
では何のために持ち続けるのでしょう?

それは分かりません。

すぐに結論を出さなくてもいいと思っています。
人間一人の「はかり」を超えている。
気が遠くなるほど多くの人が長く続けてきた時間と、
ひとり占めなんか、一人でいるのなんか無意味なほど、広大な空間です。

東の国と西の国に目先の争いを諦めさせたのもそういうことかも知れません。
東の国と西の国も、長老に負けたことが分からなかった訳ではありません。
しかし、これ以上双方軍事的に競い小国を踏みにじって
一国の一時代の「はかり」で勝つよりも、
手を携えてみんなで進歩していく方が究極的には
「自国、自国の民、自分の一族、自分 に 利する」ということを理解したのかも知れません。

さて、天才技術者たちもそれぞれに新しい世界を見ます。
老人は、新しいことを追い求めたり「自分の欲望=やりたいこと」を実行していくことが、世界を破壊していくこととイコールではないと思い直します。
調和を生み出すのは留まることよりむしろ融合していくことであると感じ、
伝えられて大事に守ってきた技術は未来に活かされると確信します。
若衆は、伝統とは、「頭が固い」のではなく、洗練に次ぐ洗練の果てに続いてきた変わらないもの、削ぎ落すところがなくなるまで研鑽された姿であることを目の前で見せられ、飛躍だけが新しさではないと頭を叩かれ、でも
俺は飛んでいくぞ、と前を向きます。
内容には関係ないですが、二人の棟梁の対決、共闘、グータッチ、解散!を空想したのは、映画『プロメア』のテーマ「Inferno!」(澤野弘之)を聞きながらであったことをメモしておきます。

そんなこんなで
どなたかこれを読んで、読み聞かせに挑戦してくださる方がいらっしゃったら是非、
また、映像が浮かんでくる方がいらっしゃったら、
私もすごく見たいのです、是非是非、映像化してください。
どうぞよろしくお願いします。

「トンテカントン」の登場人物たちの絵を描いてもらったので、最後につけて終わります。(イラスト作者の了承済み。)
星と砂漠と二つの城と、砂漠の国と王様たちとそれぞれの国と、大工と忍者とスパイたち、みんなに幸せな未来あれ。

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