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第10話「仮設住宅メンタルヘルスケア最前線!!」

 さぁ始まりました伊佐坂尾無のnote、ここ最近は「災害後のメンタルヘルスケア」について書いております!!

 仮設住宅ができてから、喪失体験をされた方やストレスフルな生活からメンタル不調を抱える方に訪問をしていた尾無。「そういった方々のお話も」と思うのですが、まずは尾無の失敗談からはいかがでしょう?!と思い(笑)、本日は尾無の失敗談2例をご紹介。

 保健師さん(看護師、助産師さんも)はぜひアセスメントをし、予測しながら(力試しをしながら)、お読みいただけると楽しく読んでいただけるのではないかと思います!!

 では今週も4000字の旅へどーーーーーぞっっっ!!!!
※個人が特定されないよう、性別や年代等を若干変えながら書いております。ご理解ください!

●隣から太鼓の音が聞こえます

 仮設住宅ができてから「全戸訪問」と称し、年1から2回全てのお宅を周り、体調不良がないか健康調査をしていました。

 そんなある日のこと…

 「ちょっとちょっと保健師さん…」

 と、60代後半の男性に仮設住宅に招き入れられ、
 「あのさ、毎日ではないんだけれど隣の家から太鼓の音が聞こえるんだよ。多分俺に魔術をかけようとしているんだと思う。ん?反対のお宅から?そっちからは聞こえないよ。だってそっちの隣の家族は優しくて、時よりおかずの差し入れをくれるんだ。」

(ゾクゾクしちゃうお話だぜ〜〜〜〜!なんだ、なんだ!!!???)
 「ん〜〜〜。魔術ですか。。。何かお隣さんと揉めたことがあるんですか?」

 「いや〜特に。というかほとんど会ったこともないんだよ。そこもまた怪しいんだよな〜。」

 「え、会ったことがほとんどないんですか?それでも〇〇さんに魔術を?」

 「そうなんだよ。結構用心深い人なんだと思う。日中とか人が行き来しているときにはあんまり聞こえないんだよ。で、夜になると太鼓の音がする。」

 「太鼓の音ってどんな感じなんですか?」

 「ポンポンっていう木魚?のような少し高めの音かな。かれこれ2、3ヶ月するから、相当強い魔術をかけてきてるね。」



 (笑)



 この会話で皆さんならどのようなことを考えるでしょうか(アセスメント)?
 私は、この方にお会いする前にも複数の統合失調症の方とお会いしており、様々な症状を持つ方ともお会いしていたので、「これは幻聴に違いない。宗教妄想もあるのか?!早く病院に繋げて楽にしてあげたい!」なんて思いました。それはもう名探偵コナンばりのキメ顔で。



 このアセスメントを毎週来てくださっている精神科のドクターへ。

 「尾無さん、それは統合失調症と決めて支援をするのはまだ早いかもしれません。私も訪問に行きますよ。

 「えええええええええぇぇぇぇぇぇえええええぇえぇええええ!!!!マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお?!(エガちゃん風)」 

 ここですぐに答えをくれないこのドクター。大好き❤︎笑

 そして、精神科のドクターと訪問し、ドクターが改めて同じような質問をします。私は内心「そうそう、まずはストレスの素を聞いて、いつからその音が聞こえるようになったかを聞いて、そして、どんなときに聞こえるかを聞いて…」と答え合わせをしながら、僕の見立てに間違いないはず!!と聞いていました。

 で、終わる間際にドクターが言ったのは!!!

 「〇〇さん、今度耳鼻科に行きましょう。」

(尾無)「!!!!!!!!!!!!!!!!!」

耳鳴りもいろんな聞こえ方があるんですね。種類も多彩。

 尾無仰天。

 そこからドクターの解説。
 「尾無さん、確かに幻聴や宗教妄想的な発言をされていましたが、この方、それ以外の生活の乱れがありませんでしたよね?既往歴もないし、ソワソワするなどの陰性症状もない。ちょっと年齢の割に幼い印象を与えるコミュニケーションが紛らわしさを強くしましたが、まずは耳鼻科を受診して拍動性難聴や自覚性難聴等を否定してからのメンタル受診でも遅くないでしょう。

 そうして、この方は耳鼻科に受診し、無事?難聴と診断されて治療を受けて寛解。

 「いや〜保健師さん、その節は大変お世話になりました。耳はすっかりよくなりましよ!なんか変な疑いをして申し訳ありませんでしたね〜。てへっ」

 …一件落着。地域の精神保健ってむずかし〜と再確認した事例でした。
 そして、もっともっと難問がやってくるのです。。。


●SO私がREALクララ

 仮設住宅の壁が薄いという話は耳にタコができるぐらい、またはイカができるぐらい聞いたことがあるのではないかと思います。

 では、それがメンタルヘルスにどう影響があるのか…
 まず、今子育て真っ最中の方は、とてもじゃないけれど仮設住宅の薄い壁の中の育児は出来ないと思われるのではないでしょうか。

 夜泣きがひどいお子さんだったら?
 やんちゃ坊主なお子さんだったら?
 受験生だったら?

 考えただけでゾッとしますよね(うちの子達は夜泣きがひどくやんちゃ坊主でしたので、仮設住宅で生活をしていたら相当怒鳴り散らし、家族もろともメンタルを病んだのではないかと思います)。

 そして、岩手県の沿岸部は文化的にアパート暮らしをした人が少なく、大きい家に大きな庭、隣とはしっかり距離が離れているところがほとんどです。

 その物理的な距離があることで、「あの人ってちょっと変わってるけど、まぁあんな人もいるよね。」と地域に受け入れられたりしています。
 しかし、それが距離が近くなった途端、毎日家にいたり、夜中にテレビの音がしたり、お風呂に入らず少し不清潔な状態だったり…ちょっと普通と異なることが見えると地域(仮設住宅)から浮いた存在になってしまいます。

 そんなある日。

 「うちの隣の人なんですけど。家から異臭がするし、仮設住宅のルール(ゴミ捨て)を守れないし、自分の仮設住宅まで食品を届けてくれるようなサービスはないか、とか、支払い関係とかも誰か振り込んでくれるようなサービスはないかとか言ってくる困った人がいるんです。」

 「わ、わかりました!お電話された方のお名前は伏せて訪問してみますね!!」
 (な、なんだよそれ。パーソナリティ障害系?だとしたら受診とかそういう話にならない?!解決尾無できるかな…

 40代男性。全ての方の健康調査です!のテイで訪問してみると確かに生ごみとお風呂に入っていないことからくる異臭(お、俺は様々な修羅場を潜ってきた保健師だ!これぐらいでは動じないぞっっ!!!!)と半分白目を剥きながら、必殺口呼吸で対応。

 尾無「へひかつでほまってひることははりまへんか(生活で困っていることはありませんか)?

 40代男性「あー、色んなことが困っているよ。ここは食材買いに行くにもスーパーまで遠いし、ゴミ出しだって下まで降りて行かないと捨てられない。不自由だね。」

 尾無「たひかにほうですよね(確かにそうですよね)。へも、みなはんほれでもバスとかに乗ってとかガンバッへますもんね(でも、皆さんそれでもバスに乗って頑張ってますもんね)。」※口呼吸感を出すべく二重打ちをしましたが、以降大変なので、普通に打ち込みます。 

 40代男性「(何かを思い出したかのように足が震え出し)僕の足を見てくださいよ。こう見えて病人なんですよ!!原因不明の病気で。足が思うように動かないんですよ。だから困っている。下までゴミ出しなんてあり得ない。バス乗るのだって大変なときがあって本当は大変なんだ。」

 (ん?!さっきまで足なんか震えなかったじゃん?!どういうこと?!しかもバスに乗るのは大変な「とき」があって大変?!足が動かないの日によるの?!)

 40代男性「僕はもともと足が動かなくて寝たきり生活をしていたんだ!トイレも自力でできないからおむつもしていたし!!でも震災の時に大きな揺れがきて、いきなり足が動くようになって、それで奇跡的に逃げることが出来たんだ!!」

 (ん?!ナンジャそりゃ?!おむつ?!奇跡的に足が動くようになる?!そんな難病あるの?!)

 40代男性「で、役場ではそんな大変な人にしてくれるサービスはないんですか?!困ってることはないかってき聞きにきたんだよね?!あなたが買ってきてくれたり、用足ししてくれればそれでもいいんだよ?!公務員だよね?!

 もうコテンパン。笑 意味不明なことを言われまくり、最後は支援者心を揺さぶる言葉の連発でボッコボコ。

 「し、しつれいしました。。。また出直します。。。」(ヘロヘロ…)



 さて、この方は果たして難病なのでしょうか?!
 皆さんならどのような見立てをしますでしょうか?

 すぐさま精神科のドクターに相談。
 「あ〜。尾無さんそれは難しかったですね。研修医でも中々出会えない疾患です。SOそれはREALクララですね」

 「えええええEEEEEEEeeeeeeeeぇぇぇぇぇぇぇぇ?!なんだよそれぇぇえぇぇええ?!(エガちゃん風)」

「てんかん」という熱性痙攣等の方を思い浮かべますが、転換性障害という疾患もあるのです。

 アルプスの少女ハイジに登場する有名キャラクター「クララ」がこの疾患だと言われるそうです。精神科医として学ばれるとこの疾患の説明でよく引き合いに出されるとのこと。

 対応方法(治療方法)として疾病利得(病気があることで得をしている状況)があると、より身体機能が低下する方向に動いてしまうので、環境調整(支援者の対応も含め)をし、自分で動かなければいけない状況を作りました。

 すると、私達が都合のいい支援をしてくれないことを理解し、自分のペースではあるものの、ゴミを捨てに行ったり、買い物に行くようになっていました。

 震災後の精神保健活動と言っても本当に多彩。その多彩さを知っていただこうと思い書き始めたのですが、この2例だけで約4000字。3例目は次回に持ち越しつつ、他の事例もお伝えできたらと思います。

 精神保健って奥深い!!!!

 それでは!!!!笑
 


次回、第11話「仮設住宅メンタルヘルスケア最前線!!②」
・10年越しの寛解
・仮設住宅でのメンタルヘルケア保健師の役割とは
・無駄は豊か


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