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経営者のなすべきことはマーケティングとイノベーション

ドラッカーは企業の目的を「顧客の創造」であるとし、企業の基本的な機能を「マーケティング」と「イノベーション」であるとする。

また、経済学者であるヨーゼフ・アイロス・シュンペーターは、経営者を二つに分け、「イノベーションの実行者である経営者」を『企業者』(アントレプラナー/entrepreneur)と呼び、「一定のルーチンをこなすだけの経営者」を『経営管理者』としている。

狭義のマーケティングとは販売促進活動を意味するが、広義のマーケティングは、消費者/顧客が期待/要望する消費体験を提供する活動全体を意味し、企業が提供する製品やサービスの、企画開発、製造、販売のすべての活動を含んだもの、すなわち、顧客満足を生み出すための企業活動である。

ドラッカーのマーケティングは、広義のマーケティング概念を意味している。

広義のマーケティングでは、顧客満足の増大が目指される。

顧客満足とは、消費者/顧客が製品や商品の消費体験から得る、精神的、肉体的、経済的な報酬から、消費体験を得るために費やした、精神的、肉体的、経済的なコストを引いたものであり、消費体験から得られる、精神的、肉体的、経済的な利益である。

企業は、マーケティングによって、消費者/顧客に自社の製品やサービスのより大きな顧客満足の提供を目指す。

イノベーション(革新)とは新たな経済的価値を生み出すことであり、単に技術の革新(テクノロジー・イノベーション)だけでなく、新たな顧客価値の創造(バリュー・イノベーション)を含んだ、「ビジネス革新」(ビジネス・イノベーション)を意味している。

一般的には、新しい技術の導入によってテクノロジー・イノベーションを生起させ、それをテコにして新たな製品やサービスを開発し、さらに、新製品や新サービスによって新たな顧客ニーズを開発することによって、新事業領域、すなわち、新産業をつくり出す。

テクノロジー・イノベーションに成功したとしても、新製品や新サービスの価格が高すぎる場合には、実際に消費者/顧客に購買しようとする意欲が生まれないため、顧客ニーズが形成されない。

それゆえ、新市場が形成されなくなるのである。

つまり、新製品や新サービスが消費者/顧客に購買可能な価格で提供されることによって、始めて顧客ニーズが生まれることになる。

ビジネス・イノベーションの前提条件は、新製品や新サービスが消費者/顧客に購買可能な価格で提供されることである。

このようにして、新事業や新産業がつくり出されることが、ビジネス・イノベーションである。

アントレプラナー経営者に率いられた企業では、常に、ビジネス・イノベーションの生起が目指されることになる。

日本ではデフレ経済が続き、30年以上にわたって経済成長しておらず、それゆえ、労働者の賃金はずっと低下し続けてきた。

ひとつの産業や市場というものは、基本的には、高級品市場、普及品市場、廉価品市場の、4つの市場によって形成されている。

近年の日本では、ビジネス・イノベーションは高級品市場や普及品市場ではなく、例えば、100円ショップのように、廉価品市場で生まれている。

デフレ経済下の、シャープの亀山工場への大型投資は、高級品市場や普及品市場を狙ったテクノロジー・イノベーションであった。

高機能、高品質、高価格による、高級液晶テレビの新製品は、縮む消費経済の下で、新たな顧客ニーズをつくり出すことができなかった。

結果的に、経営者の意向に反して、ビジネス・イノベーションは生起しなかったのである。


業績がよくないということは、企業がマーケティングとイノベーションを行っていないということである。

業績低迷企業では、従来の製品やサービスを従来水準の顧客満足の提供を行っているだけである。

マーケティングやイノベーションによって、より高い顧客満足の提供を目指さないと、時間の経過とともに顧客満足の水準は低下していく。

顧客満足の水準が低下するに従って、消費者/顧客は価格が高いと感じるようになり、企業は価格を下げざるを得なくなる。

シュンペーターの言う「一定のルーチンをこなすだけ」の『経営管理者』では、イノベーションの生起はもとより、思い切ったマーケティングさえも実行することができない。

残念だが、現在の日本のサラリーマン経営者のほとんどは、「一定のルーチンをこなすだけ」の『経営管理者』である。

たとえサラリーマン経営者であったとしても、日本の経営者には、早く『経営管理者』を脱して、高い志を持つアントレプラナー経営者に変身してもらいたいものである。


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