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内部通報者は、正義の味方か裏切者か?

2024年1月4日の日経新聞は、「2023年には、前年に続き大企業による品質不正事案の発覚が相次いだ。その多くが、長期間にわたり続いた悪しき慣習が明るみに出たものだ。また、内部告発により発覚した事案が目立った。視点を変えれば、これはガバナンス改革の成果である。」と、ガバナンス改革の成果を協商している。

しかし、2024年4月18日の記事では、内部通報を端緒にした不祥事や不正の発覚が相次ぐ中、制度を導入している企業の6割で受付件数が年5件以下となるなど十分に活用されていないことが、消費者庁の調査で分かった。通報後の不利益な取り扱いや「犯人捜し」によって、通報者の3割が後悔しているという調査もある。消費者庁は制度の見直しに向け、5月上旬に有識者会議を設置して議論を始める。」として、内部通報者の保護の必要性を指摘している。

社員は職場では「仕事の場」と「生活の場」の二つの世界に生きている。会社組織は本来、商品生産を行うための「仕事の場」であるが、人々が一緒に仕事をすることによって、職場や会社という「生活の場」が形成される。経営学では「仕事の場」のことを公式組織、「生活の場」のことを非公式組織と呼ぶ。

公式組織は人々が明示的なルールによって効率的に動かされる仕組みであり、人々の役割は組織図や職務権限規程で定められている。非公式組織は仲間意識という人々の感情的なつながりをもとに形成されている。非公式組織では、外部に対しては「われわれ意識」によって自他を区別し、また、組織集団の内部では公式組織の効率性追求の横暴から自分たちを守るという働きをしている。どの会社でも、組織図や職務分掌規程に書かれている内容はそれほど変わらないが、実際の組織運営の違いは非公式組織の違いによる。

非公式組織には、集団を維持するために、暗黙知の『掟』(おきて)が存在する。掟には対外的なものと対内的な内容が含まれている。対外的な掟には、例えば、部外者に対しては排他的であること、集団の秘密や恥部を外部に漏らさないことなどがある。対内的な掟には、集団のメンバーはお互いに助け合うこと、純朴な弱いものを助けること、あまり怠けないこと、あまり働きすぎないことなどがある。

公式組織のルールでは不正は許されないので、組織の人々が不正を発見した場合には、内部通報を含めて適切な措置を取らなければならない。しかし、非公式組織では、仲間かそうでないかによって、二重基準が適用される。仲間の不正は許されるが、仲間以外の不正は許されない。例えば、マスコミでは自社の失態は軽く流して報道するが、他の事業会社の失態をしつこく追及する。

非公式組織の仲間意識からすれば、内部通報は仲間に対する裏切り行為である。掟破りの裏切者は徹底的に捜査され、必ず探し出されて制裁を受ける。だから、集団のインサイダーは内部通報などしない。内部通報者は集団から浮いて疎外感を感じているアウトサイダーである。彼は集団における弱者であり、復讐のために裏切者となる。内部通報は決してガバナンス改革の成果ではない。

内部通報阻む「犯人捜し」 消費者庁、制度見直しへ議論 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2613C0W4A220C2000000/

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