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大映映画の世界

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大映京都撮影所、大映東京撮影所で作られた作品や、スターについての記事をまとめました。
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記事一覧

『死の街を脱れて』(1952年5月22日・大映・小石栄一)

『死の街を脱れて』(1952年5月22日・大映・小石栄一)

若尾文子のスクリーン・デビュー作。小石栄一監督『死の街を脱れて』(1952年5月22日)。未見の時は、データベースや映画本であるように「長崎の歌は忘れじ」の久我美子が出演と思っていたのだけど、この役を若尾文子が演じているのです。

敗戦の混乱で中国大陸に残された庶民の妻や子供たち。軍人とその家族はいち早く脱出してしまい、満蒙開拓団などで大陸に渡った彼女たちは、国民軍に襲われ、何もかも失ってしまう。

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『心の日月』(1954年1月15日・大映東京・木村恵吾、吉村廉)

『心の日月』(1954年1月15日・大映東京・木村恵吾、吉村廉)

1954年の若尾文子研究。木村恵吾&吉村廉『心の日月』(1954年1月15日・大映東京)をDVDで。この菊池寛原作は、1931(昭和6)年にも日活で田坂具隆によって映画化されており、入江たか子と島耕二が主演している。

待ち合わせ場所を間違えたために、行き違いになったカップルの生々流転と再会までの紆余曲折を描いた、現在では成立し得ない「すれ違いメロドラマ」。前年の『君の名は』(1953年・松竹・大

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『お傳地獄』(1960年11月30日・大映・木村恵吾)

『お傳地獄』(1960年11月30日・大映・木村恵吾)

『お傳地獄』(1960年11月30日・大映・木村恵吾)モノクロ、大映スコープで、京マチ子が毒婦・高橋お伝を演じた「明治ヴァンプ一代女」もの。

高橋お伝は、芝居や映画、歌謡曲の題材としてお馴染み。僕らが知っているエピソードは、ほとんど後年、メディアが興味本位に脚色したスキャンダラスなストーリー。その捏造に加担したのが当時の「東京日日新聞」。日本のメディアのゴシップ好きは明治の御世からの伝統芸。

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『夜の素顔』(1958年10月15日・大映・吉村公三郎)

『夜の素顔』(1958年10月15日・大映・吉村公三郎)

吉村公三郎監督『夜の素顔』(1958年10月15日・大映)。京マチ子と若尾文子。二人とも壮絶な少女時代を生き抜いてきたヒロインが「世間を見返す」ために踊りの世界での成功を目指していく。というドロドロ、女闘美(精神的)アクション・ドラマ。脚本が新藤兼人なので、些細なシーンにも表面の美しさと内面の醜さを見事に入れ込んでいる。

トップシーンは、1944年。南方の最前線基地。守備隊の慰問にやってきた朱美

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田宮二郎as鴨井大介・大映「犬」シリーズ大全

田宮二郎as鴨井大介・大映「犬」シリーズ大全

大映現代劇アクションといえば、やはり田宮二郎「犬」シリーズに尽きる。東京オリンピック直前の1964(昭和39)年から、エレキブーム、GSブーム到来の1967(昭和42)年の大阪、東京を舞台に、拳銃が三度の飯よりも好きなガンマニア・鴨井大介の胸のすく活躍を描いたアクション・コメディ。全作のシナリオを直木賞作家となる藤本義一が手がけ「悪名」シリーズで培った、良い意味での田宮二郎のコミカルな軽さに、モダ

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大映「黒シリーズ」全11作(1962〜1964年)

大映「黒シリーズ」全11作(1962〜1964年)


1962(昭和37)年から1964(昭和39)年にかけて連作された「黒シリーズ」。第1作『黒の試走車』のヒットを受けて、産業スパイもの、社会派ミステリーとして次々と作られたが「黒」はあくまでも興行の効果を狙ったもので、共通する明確なフォーマット、テーマはなく、高度成長を邁進していくなか、同時に映画が斜陽になりつつあるなかに作られている。ハイペースで作られているので、わずか二年の間の、時代の微妙な

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『待って居た象』(1949年11月20日・大映・安田公義)

『待って居た象』(1949年11月20日・大映・安田公義)

横山エンタツ、柳家金語楼の『待って居た象』(1949年・大映・安田公義)をスクリーン投影。敗戦後四年。戦前、戦中、東宝が一手に連作していた、エンタツ・アチャコや柳家金語楼の喜劇映画だが、東宝争議の影響もあり、大映や新東宝、松竹と各社で作られるようになっていた。

そうしたなか、横山エンタツと柳家金語楼のコンビ作として企画されたのが『待って居た象』(11月20日)。昭和20年、相次ぐ本土空襲のなか、

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『狸になった和尚さん』(1946年11月19日・大映・春原政久)

『狸になった和尚さん』(1946年11月19日・大映・春原政久)

『狸になった和尚さん』(1946年11月19日・大映・春原政久)をスクリーン投影。敗戦直後、GHQ指導の下に作られた民主主義啓蒙映画であるが、なかなか楽しい寓話。原作はなく、脚本は八木沢武孝、岡田豊、笠原良三のオリジナル共作。

 東京から遠く離れた鳥の子村、旧家の当主・宍戸敬左衛門(見明凡太朗)が危篤となり、東京から長女・秋山邦子(平井峡代子)と俊彦(潮万太郎)も駆けつけ、長男・亀吉(吉川英蘭)

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『婦人警察官』(1947年2月16日・大映京都・森一生)

『婦人警察官』(1947年2月16日・大映京都・森一生)

ここのところ、敗戦直後の大映映画を連続視聴。国策映画から一転、GHQの指導の下、民主主義啓蒙映画となる。その変わり様を映画を通して体感しております。

10月23日(日)の娯楽映画研究所シアターは、昭和22(1947)年2月16日封切り、小夜福子、轟夕起子、月丘夢路、3人のタカラジェンヌ主演『婦人警察官』(森一生)をスクリーン投影。

小夜福子は、この時38歳。大正11(1922)年から昭和17(

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『あに・いもうと』(1953年8月19日・大映東京・成瀬巳喜男)

『あに・いもうと』(1953年8月19日・大映東京・成瀬巳喜男)

7月13日(水)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男監督特集。室生犀星原作の二度目の映画化となる『あに・いもうと』(1953年8月19日・大映東京)をアマプラのシネマコレクション by KADOKAWAからスクリーン投影

無頼の兄・伊之吉を森雅之、奔放な妹・もんを京マチ子。しっかり者の次女・さんを久我美子。そして父親で、かつては護岸工事の親方で鳴らし、今は引退している川師の親方・赤座を山

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『素浪人罷通る』(1947年10月28日・大映・伊藤大輔)

『素浪人罷通る』(1947年10月28日・大映・伊藤大輔)

 阪妻映画連続視聴、今回は、昭和22(1947)年10月28日公開、GHQによる「チャンバラ禁止令」のなか、剣戟スター・阪東妻三郎の「チャンバラ映画が観たい!」という観客のために、伊藤大輔監督が苦心して作った『素浪人罷通る』(大映京都)。題材は、お馴染み「天一坊と伊賀亮」もの。いわゆる「天一坊事件」を題材に、GHQの民間情報局CIEの要望する「民主主義啓蒙」「封建主義否定」を盛り込んだ(今から観る

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『東海二十八人衆(東海水滸傳 改題)』(1945年7月12日・大映・伊藤大輔、稲垣浩)

『東海二十八人衆(東海水滸傳 改題)』(1945年7月12日・大映・伊藤大輔、稲垣浩)

 阪東妻三郎、片岡千恵蔵、市川右太衛門。戦前から戦後にかけて日本の時代劇スター、剣戟スターのビッグ3が顔を揃えた豪華な「清水次郎長映画」。『東海水滸傳』は、海軍航空本部の委嘱を受けて製作され、敗戦間際の昭和20(1945)年7月12日に公開された。戦後、GHQによる「チャンバラ禁止令」を受けて、フィルムはその後上映されることはなかったが、サンフランシスコ講和条約施行後の昭和27(1952)年に『東

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『月の出の決闘』(1947年7月15日・大映京都)

『月の出の決闘』(1947年7月15日・大映京都)

丸根賛太郎監督&阪東妻三郎コンビの快作『月の出の決闘』(1947年7月15日・大映京都)をKADOKAWAから発売中のDVDでスクリーン投影。

 敗戦後初めての阪妻映画にして傑作『狐の呉れた赤ん坊』(1945年10月)のコンビが再び組んだ「GHQ下の時代劇」。つまり、俗にいう「チャンバラ禁止令」のさなかに作られた、剣戟スター・阪妻の滅法強い男のイメージを守りつつ、戦後民主主義の啓蒙というCIEの

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『馬賊芸者』(1954年11月17日・大映東京・島耕二)

『馬賊芸者』(1954年11月17日・大映東京・島耕二)

 京マチ子主演、火野葦平原作『馬賊芸者』(1954年・東京・島耕二)。大正時代、九州博多で「馬賊芸者」として慣らした鉄火芸者たちの心意気を描いた作品。「花と龍」や「新遊侠伝」など映画化作品が多い、火野葦平が「小説新潮」に掲載した原作を、島耕二監督が脚色・演出。とにかく京マチ子さんがいい。

「馬賊芸者」といえば、森繁久彌の『社長太平記』二部作(1956年)で、三好栄子さんをすぐに思い出す。その鼻息

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